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俺は誰で、スキルとは何だ

ブランクなっが……。

すみませんでした、また頑張ります。

「アースさん、今日はありがとうございました」

「今日は楽しかったぞ! また話してくれよな、アース!」


 手を振って、俺はちびっこたちを見送った。今はもう夕刻。ちびっこたちと戯れて、話して、そして草原を進むうちにそんな時間になってしまっていた。シラー曰くこの大陸には危険な魔物とか魔獣は居ないらしい。いてもスライムだとか、その程度。獣人、亜人の中でも最高峰の力を誇るドラゴニュートのラムがいたから大してそいつらに煩わされることもなかった。もちろん俺も追い払うくらいはしたんだけどな。あの大剣がなくても、俺には魔法がある。必要に迫られれば俺の口は勝手に紡いでくれる。

 それと、また収穫があった。魔法を発動するための前準備……のようなあの言葉。あれは省略することが出来た。ソム曰く、それは詠唱破棄だとか呼ばれる技術らしい。


「また明日な~」


 二流以上の冒険者なら大体誰でも使うことのできる技術らしく、威力が少し減る代わりに発動時間がかなり短くなるんだと。いやでも、なんでソムが知っているんだ? ……そんなことを呟いたら、どうやらソムとユノは将来冒険者になりたいらしく、"オジイ"からそういう技術を学んだらしい。

 ついでに"オジイ"とは誰なんだ、と聞いてみるとどうやらそれは爺さんのことらしい。ラムが村長のことだ、と俺に教えてくれたから多分確実だ。

 あの爺さんやっぱり実力者かよ……。


 村の入り口で別れた俺たちは家に向かって三々五々に帰っていった。夕焼けの茜に染まる景色に思わず足を止めて、俺は目を細める。

 俺には記憶がない。自分が誰かわからない。名前が分かっても魔法を扱えても大剣を振り回せても、自分が誰かなんてさっぱり理解できない。朱色に染まる子供たちを村の中で眺めて、俺は溜め息を吐く。


「……」

「アースくん」

「あ、爺さん……」


 いきなり声を掛けられて少し驚いたけれど、振り向けば爺さん。

 どうしたんだろうか。


「夕飯が出来たよ。早く帰って、冷めないうちに食べてしまおう」

「あ、ありがとう……ござい、ます」

「気にしないでも良いよ。それと食べたら、昨日借りてきたスキルについての本を読んでしまおう。早く返さないとミウが怒るからね」

「……貸し出し禁止のやつっすか?」

「……さぁてね。どうだったかな? 儂も歳かもしれないなあ、どうも忘れてしまったようだよ」


 悪戯が成功した時の子供のような顔で笑う爺さんに吊られて俺も笑い、俺は爺さんの家に向かった。夕焼けが夜の色に飲まれていく。俺が誰かは気になるけれど、なんとなく、ゆっくり探していけば良いんじゃないかと思えるようになった気がする。俺は俺だし、多分完全に記憶が消えている訳じゃない。事実俺は覚えていなかったはずの魔法もいつのまにかいくらか使えるようになっていたし、あの大剣の使い方も体に染み付いたように覚えてる、ような気がする。

 俺にはハッキリとした記憶がないけれど体は何かしら覚えてるんじゃないかなあ。多分、冒険者でもしてたんじゃなかろうか。もちろん確信はないけれど。




「んー、旨かった。爺さん料理上手いんすね」

「まあね。昔は儂も冒険者をしていたから」

「爺さんは実力者っぽいっすよね」

「いやいや、もう全盛期ほど力は出せないよ。今は合同パーティでの火竜討伐が精一杯だろうね」


 まあこの大陸には竜種なんて出ないんだけど、と言うと爺さんはからからと笑った。竜、竜種か。俺の知識にあるかぎりではたぶん、この世界でもっとも強い種族のうちの一つ。大きなカテゴリーとしては魔獣に属しているけれど、そのあまりにも高い力から竜種、龍種、古龍種、なんて分け方で別格扱いもされている。一人で竜種を討伐できるとしたら崇められるくらいにはすごいことのはずだ。

 まあ、パーティを組んで討伐できるだけでも相当実力があるんだろうけど。


「じゃあそろそろスキルの本? を読むっすかね」

「ああそうだね。渡したはずだから、部屋から取ってきておいで」

「はぁい」


 少しおどけて返事をして、俺は一回部屋を出た。貸してもらってる部屋に入って、そして俺はふっと考える。部屋の壁に立て掛けた大剣のことを。ゼムスタイリクノルケスダイトショカン? なんてところから持ってきたとかいうこの大剣は、俺自身のことと同じくらい謎に満ちている。しかも妙に手に馴染む気がする。……俺がどこから召喚されたのかは分からないけれど、この剣も俺の記憶の手がかりになるんだろうか。そうなら、大切にしたいな。

 小さな箪笥の上に置いてあった本を取って、大剣を一応腰に着けて、俺は爺さんの待つ部屋に戻った。もしかしたら何か分かるかな、と期待しながら。




「まあ一言にスキルと言っても所詮は使用可能技能でしかないからね。自分に使える技術がスキルとして認定されることもあるし、逆にスキルを覚えることで使用可能技能が広がることもあるね。基本的な威力はノーマルスキル、特殊スキル、固有スキルの順に強くなっていく。使い勝手は個人的には特殊スキル、固有スキル、ノーマルスキルの順かな」

「はいはい爺さん質問。スキルを増やすにはどうすれば良いんだ?」

「良い質問だね、それはこの先にある……ああここだ。スキルを習得しているものから教わるか、魔術書等の本で知識を増やすか。これが基本だ。あとは特別なダンジョンに行き、そこを踏破するかとかだね」

「なるほど……」


 机の上に本を置いて、爺さんと並んでそれを読む。ほしい知識はすぐに爺さんが本のページを捲って教えてくれる。爺さんは博識みたいだ。

 とりあえず気になるスキルを見ていってごらん、と爺さんに促されるままに俺は本のページを捲った。


 気になるのは魔法系のスキルとか、剣術系のスキル。俺が持っているノーマルスキルには白黒魔法だとか、全剣術とか、少し特殊性を孕んでそうな名前が多い。まあ多分魔法系統のスキルと剣術系統のスキルを俺は使えるんだろう。ただ、気になるスキルもいくらかある。固有スキルは期待しない。けどやっぱり特殊スキルやノーマルスキルは理解しておきたいところだ。


「……」


 真剣に本を捲っていく。爺さんは、俺のこの作業が時間がかかるだろうと見たのか俺の傍を離れていった。まあ、それでもいい。




 そんなことをつらつら考えつつ、俺は自分のことを知る一端になるであろうスキルを調べることに集中した。

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