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作り噺

 その日の昼過ぎ、俺は井戸に向かっていた。

 爺さんの許可は簡単に貰えた。というか好きにすればいいって言われたし……すごく、ビックリした。

 因みに俺の顔に浮き出たのに関しては、



「ああ、その黒いのは……儂も似たようなことがあったよ。でも大丈夫、何も悪いことは起こらないからね」

「じゃあ放っておくか……」



 とのこと。遊ぶことに関しては



「あ、あと昼食べたら子供達と遊びに行くんすけど大丈夫すか?」

「ん、仲良くなったのかい? なら好きにすると良い。ただ武器とか、危ないことは駄目だからね」

「もちろん、そんなことはしないっす」



 危ないことをするな、武器を持っていくなってことだけ言われた。そんなつもりは端から無かったし、苦笑して頷けば爺さんは満足そうに頷いて俺を送り出した。



「そいじゃ、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい……アースくん」




 なんて、そんなやり取りをして爺さん家から出発した俺だが……今現在、チビ達に囲まれてる上に鑑定系スキルを使われてるらしくって、落ち着けねぇ……。

 子供達をぞんざいに扱うことはちょっとしたくねぇし出来ねぇし、かといって頭ん中のがんがん鳴ってる警鐘を無視できるほど、俺は図太くねぇ。嫌な感じだぜ……。


「ちょーっと近い! 近いかな! 少し離れようぜ?!」

「にーちゃんのぼーけんたん? が聞きてぇんだよ! 聞かせてくれよ! 忘れたとかいうのはウソだろ!」

「ウソはよくないんだぞー! 話してくれよー!」

「……僕も聞きたい」

「わ、わたしも聞きたい……!」

「ぼくたちに聞かせてほしいのにゃ!」


 ……どうしても離れてくれなかったから、苦肉の策で子供を抱き上げたり動き回ったり……スキルとやらが発動しにくいようにとやってみたところ、


『スキルが強制発動無効化(キャンセル)されました』


 だと声が言った。何かよく解んないけど多分、これで良いんだと思う。ダメならダメであっちからまたアクションがあるだろうし……まあ、子供達も居るから下手なことはできないだろう。一安心一安心。

 じゃあわちゃわちゃしてきたし、先ずは子供達の整理からしようかな。名前と顔が一致してないままってのはいただけねぇし、何より呼び方に困る。


「取り敢えず……渾名か名前、教えてくれるか? そしたらちゃんと覚えてることは話してやるから」

「にゃまえ?」

「あだな……」

「……わかった」




 少しの時間をかけて聞いたところ、一番年上っぽい鱗とか尻尾とか角を持ってるのがラム。語尾とかな行が"にゃ"になってる猫耳と尻尾があるのがシラー。シラーのはしゃぎに乗っかってはしゃぐ犬耳と尻尾のがレノ、髪で目を隠して、ウサギっぽい耳を揺らしてるのがユミ、遠目に俺を見て、目をキラキラさせてんのがソムとユノ。合計六人だ。

 因みにレノは犬人、シラーは猫人、ユミは兎人で、ラムはドラゴニュートらしい。ソムとユノは普通の人族らしいな。俺は種族がはっきりしないから、しっかり分かるってのはちょっと羨ましいかもしんない。

 んじゃ、冒険譚か……あんま記憶無いからなあ、難しいぜ。


 地面に腰を下ろして、逡巡。何の話をすりゃ良い? 死に掛けたとか殺されかけたとか、死体を消し炭にしたとか記憶がないとか……ダメだな、教育上宜しくない気がする。しかも俺って……よく考えたら人間としか戦ってねぇじゃん。ダメじゃん。魔物との話が聞きたいってレノも言ってるのに。ダメじゃん……。




「あー、じゃあ作り話にしても良いかあ? 俺の体験をベースにした物語風の話をさ」

「えー?」

「なんで? なんで?」

「お兄さんは……ギンユウシジン、でもあるの?」

「いや、違うけど……ほら、面白い話を聞きたいだろ? 俺の話は多分、つまらないからさ」


 作り話にした方が楽しめるんだろうな、なんて言うと、シラーとかレノ、ソムは不満そうな顔をして、でも残りのユミ、ラム、ユノはしっかり頷いてくれた。

 うん、多数決すると俺もいるから作り話な!

 実話なんて面白くねぇもんな!






「気付いたら洞窟の中。足元には光を失っていく魔方陣。記憶は全く存在してないし、持ち合わせは巨大な剣と服だけ。……ここはどこだ?」

「辺りを見回して、でも、手がかりは見付かりそうにもない」

「仕方がない。今はこの洞窟から出ることのみを考えよう。それから自分のことを考えよう」


 話を始めた俺を、子供たちは囲んで座り込んだ。

 どんな話なんだろう、何て目をしてるけど……正直プレッシャーが掛かってる気しかしないなあ。


「言葉で表せそうもない大きさをした扉がその空間を閉じていて。なんだかいい予感はしなかったけれど、出口らしいものはそこしかなかったから、それに触れた」

「体の中から僅かに力が抜けて、そしてすぐに戻ってくる。扉はその感覚に関係あるのか、すぐに開いた」

「明るさは、ない。ただ……大きな影が、そこに居座っていた」


 気付くと子供たちはみんな、俺のことをまっすぐ見つめていた。期待と共に好奇心、恐怖の混じった光を灯して、俺のことを、俺の話を待っている。

 そんなに面白いか? まあ、つまらないよりはいいんだけどさ。じゃあ続けようか。


「鋭い魔力を伴った風が吹いてきて、咄嗟に俺は剣を抜き放って薙ぎ払った。硬質な音が洞窟中に響いて、案外嫌な方向には進まないだろうかな、と考える」

「そしたら、今度は影は立ち上がった。敵意に満ちた雰囲気を真っ赤な、血のような色をした瞳に宿して、そして飛び掛かってきた。その時ようやく気付く。こいつは、」


「人間だ」

新年明けましておめでとうございます(かなり遅い)

今年も宜しくお願いします(今更)

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