第22話 小さな戦争3
サクラちゃんを見送ってから、まだ二、三分しか経っていなかったが、俺はどこか落ち着きなく、そわそわしていた。
そんな姿に視線を向ける冒険者や受付さん達だったが、誰一人としてこちらに向かって来るものはいなかった。
まぁ、先程のアレの後では、それもそうだろうな、とそんな事を思っていると。先程サクラちゃんが上がっていった階段から足音が聞こえ、俺はそちらに目を向けると、サクラちゃんと、もう一人は見覚えのない、貫禄のある髭を生やした男が降りて来ていた。
俺はサクラちゃんの方に行こうと脚をすすめようとしたが、それに合わせたように階段を下りる脚を止めた二人。そして、気付けばギルド内には静けさがたちこめ、冒険者達もそちらを見ていた。そんな皆の視線を集める二人は、動じる様子もなく、男はわざとらしく咳払いをすると。
「これより、ここに居る冒険者の皆に緊急クエストを発注する! 内容はこちらにおられる御方、及びその同行者がこの街を出るまでの護衛である‼︎ そして報酬金は一人あたり金貨五枚を約束しよう‼︎」
そんな男の発言を引き金に、先程までの静けさが嘘のように、ワァー‼︎ と冒険者の皆が湧きあがった。
そんな中俺だけが、状況を読み込めず、放心状態になっていたが、いつのまにか俺の前にまで戻って来ていた、サクラちゃんに。
「大丈夫ですか、ムメイさん? 」
と尋ねられ、やっと放心状態から解放された。
「俺は大丈夫ですが、これはいったいどういう事なんです」
そうたずねると、サクラちゃんは可笑しそうに微笑みながら、俺にしゃがむように促し、しゃがむと、耳元で囁くように。
「賄賂ですよ、ワ、イ、ロ、やっぱり、お金は強しって事ですね」
と悪徳代官みたいな、冗談か分からない事を言うサクラちゃんには、乾いた笑いしか出なかったが、そんな姿を見て、さらに可笑しそうにするサクラちゃんを見て。
「本当に何者なんですか?」
「ただのお金持ち商家の跡取りですよ」
そんなおかしな会話をしていると、先程までサクラちゃんの隣にいた男が、こちらに歩み寄ってき。
「君がムメイ君だね?」
「ああ、そうだがあんたは?」
「おっと、失礼、まだ名乗っていなかったね、私はこのギルドの責任者を任されている、エンダス・ウッドマンだよろしく」
男はそんな事を言いながらこちらに握手を求めるように手を差し出してきた。
俺もそれに応じるように。
「ムメイです、よろしくお願いします。
それで何か御用でしょうか?」
俺は握手に応じる事は無く、そうたずねると、エンダスは残念そうなジェスチャーをしながら。
「嫌わちゃったかな? まぁ、先程の受付の対応の後では不信感を持つのも無理はない事か。
では、責任者として彼女らの応対の謝罪をさせてもらおう。大変申し訳無かった」
そう言いながら、頭を下げるエンダスの急な行動に、驚きはしたが直ぐに。
「頭を上げてくれ、別に俺はあんた達怒ってなんていないし、受付さんの対応も正しいものと理解している」
そう告げるとエンダスは、顔を上げ「理解のある者で助かるよ」と言いながら、再び手を差し出してきたが。
「ただ俺は男と、よろしくしたくないだけだ」
それを聞いたエンダスも再び、残念そうなジェスチャーの後、仕切り直したかのように、真面目な顔になると。
「ならこれだけは言わせてくれ、ありがとう」
「んっ?」
エンダスの発言に理解が追いつかなかったが、エンダスはそれを待たず、俺たちから視線を外し、冒険者達の方に向くと。
「冒険者の皆に伝えておくが、今回のクエストは、闇ギルドの存在も確認されている、奴らは金の為なら何だってする、クズどもだ! そして、今回は王国兵の変装をしている可能性がある‼︎ その為、王国兵が行く手を阻む時は、ギルドの意思だと伝えろ‼︎ それでも退かぬのなら、問題はない暴れろ! 責任の全ては、私が取る! だから皆は何者も気にせず暴れろ‼︎」
ウウォォォォォォォォォ‼︎
エンダスの言葉に皆が沸き立つが、責任者が冒険者に暴れろなんて言って良いのかは謎だが、彼らの熱は冷める事を知らず。そして最後に。
「行ってこい‼︎ 野郎共ォォォ‼︎」
エンダスの本性を見てしまった気がするが、その発言を引き金に、さらに沸き立つ冒険者達は、「ヒャッハー」「剣の錆にしてやるゼェ!」などと世紀末でも思わせるような雄叫びを上げていた。
正直ドン引きしたが、隣にいるサクラちゃんに。
「皆様のやる気も充分のようですし、行きましょうか?」
「そっ、そうですね、行きましょうか」
そう返すと、サクラちゃんは出口に向かって歩き出し、俺も遅れながらもそれについて行き、冒険者達もサクラちゃんを囲むように集まり、そして、ギルドを後にした。
冒険者が一人もいなくなり、静まりかえったギルドで、エンダスは、独り言のように。
「まさか、闇ギルドの者まで集めて、あの方を殺そうとはな……ハァ〜、王国は、勇者も無しに、戦争でもおっぱじめるつもりなのかねぇ………全く、こりゃまた、仕事が増えそうだ」
と悪態つきながら頭を掻くエンダスに、一人の受付さんが近づき。
「本当に彼らだけで大丈夫でしょうか?」
そう尋ねられたエンダスは少し考え。
「さてね、事がどう転ぶかなんて誰にも分からんさ、だからさ、私達は、いつも通り冒険者の皆の帰りを信じて待つだけさ」
「そうですね」
それを最後に、ギルド内は再び沈ましかえった。




