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村人勇者の英雄譚  作者: ワカメ
2章 出会いと別れ
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第21話 小さな戦争2

 タッタッタッタッン‼︎ と軽やかな足し運びで屋根を走り続ける俺に、そろそろ何かを訪ねたそうにしていたサクラちゃんが。


「あのあのムメイさん? この状況はわたし的にはとても嬉しいのですが、どこに向かっているのですか? 方向的に馬車から離れて行っているようですし?」


 そんな当然の問いをするサクラちゃんに、警戒を怠らず、笑顔を見せながら。


「冒険者ギルドに向かっているんですよ、あそこなら王国兵達も迂闊には立ち入れないので、それに敵さんは王国兵だけじゃ無いようですし」


 それを聞いたサクラちゃんは少し考える素振りを見せ。


「でも冒険者ギルドでの籠城も時間の問題ですよね? ギルド側は基本中立の立場なので王国兵さん達が、正式な許可を得て押し寄せたら逃げ道はありませんよ? それこそ逃げようとすれば冒険者さんの皆さんにも追われてしまいますし」


 確かにサクラちゃんの言う事は正しいが、俺の狙いは籠城などではなく、それを実現するにはサクラちゃんの力も必要なので、申し訳なさそうな声音で。


「いや〜、俺の狙いは別にあってですね、それにはサクラちゃんの財力を少しお借りしたいと思っているのですが、今いくらほどお持ちでしょうか?」


 サクラちゃんは不思議そうな顔をしながら。


「馬車を出るときにオモダカから渡された金貨十枚ほどですが?」


 そう教えてくれたサクラちゃんに対し。


「さすがは国有数の商家ですね、それだけあれば十……いやニ十ぐらいは雇えるか」


 それを聞いて全てを察したサクラちゃんは、納得したように。


「そうゆう事ですか、分かりました、ではこの金貨はムメイさんに預けますね」


 そう言ってくれたサクラちゃんに「ありがとうございます」と微笑みながら応え、マップを一瞥し。「あそこか」と独り言のように呟き、視界に入った一際大きな建物に急ぎ、そして建物手前で屋根から降り、サクラちゃんを抱いたまま冒険者ギルドの扉をくぐった。

 扉をくぐるとサクラちゃんを優しく下ろし、こちらに視線を向ける冒険者達には目もくれず、サクラちゃんの手を引きカウンターに急いだ。

 そしてカウンター前にまで来た俺は、受付の挨拶などより早く、プレートを胸元から取り出しながら。


「すまないが、今すぐにクエストの発注をしたいんだがいいか?」


 と伝えると、受付さんはプレートを一瞥し、俺が冒険者である事を確認して。


「分かりました、クエストの申し込みですね。それではクエストの内容などを伺ってもよろしいでしょうか?」


 そう尋ねられた俺は、息つく間もなく。


「仕事内容は彼や彼の同行者がこの都市を出るまでの護衛で、必要人数は最大二十人で報酬はここにある金貨十枚を分けて分布で、お願いします」


 それを聞きながら、手元に置いているクエスト発注用の紙に内容を書いていた受付さんの手が止まり、難しそうな顔をしながら。


「この街からの出るだけの為に、募集人員が十人以上で、報酬が金貨十枚ですか? すみませんが、もう少し詳しいお話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」


 そう言い終わった受付さんは、俺たちから視線を外し、カウンターの裏の方を向くと、誰かを呼ぶような動作をし、直ぐに一人の女性が現れた。


「彼女はこのギルドの審判者ですので、これからする私どもの質問に虚偽の報告をしないようにお願いします。もし虚偽の報告をした時は、冒険者のムメイ様なら分かりますね?」


 受付さんに「わかっています」と返し、初めて目にする審判者の方を一瞥し。

 あれが嘘を見抜く力を持つ審判者か、と心の中で悪態をつきながら、まるで取り調べのようになった、この場の雰囲気の中、先に口を開いたのは、当然受付さんの方だった。


「ではまず最初に、このクエストを発注した理由と詳しい経緯を教えてもらえますか?」


「俺は元々彼らの護衛として雇われていて、この都市には、食糧の補充などで立ち寄っただけなんですが、その途中で何者か達に攻撃を受け、なおかつそのもの達は、一般人が居ようともお構いなく爆薬を使うもの達でして、俺一人では手に負えないと思い、この様なクエストを発注さしていただきました」


 それを聞いた受付さんは、後ろに控える審判者の方に視線を向けると、審判者は首を横に振った、それを確認した受付さんは。


「まだ何かあるようですね、全てを話していただけ無いのでしたら、虚偽の報告をしたとして………」


「チッ! わーたよ! 全て話すよ! 話せばいいんだろう」


 俺は悪態をついていたが、受付さんの態度は変わらず「お願いします」と言われた。


「問題はその後で、その後、王国兵達が爆心地に来て、俺達を爆破犯として連行しようとしたんだが、周りの一般人達のお陰で、無罪になれたと思ったんだが、王国兵達は彼を国家転覆罪なんて訳のわからねこと言って、しかもそれが国王からの勅命だの言って、無理やり連行しようとしたので、逃げて来たんです」


 それを聞いた受付さんは、また審判者の方に視線を向け、今度は首を縦に振ったのを確認し、呆れたような嘆息をこぼし。


「どうやら事実のようですね………では今回のクエストの件は承認する事は出来ません」


 俺は咄嗟に「なんでだ!」と尋ねようとしたが、それを予想していたであろう受付さんは。


「ムメイ様、私達ギルドが中立の立場にある事は分かっていますよね? 世界各国にある冒険者ギルドは、言うなら一つの中立国家であり、他の国も正当な理由なく冒険者に手を出す事は出来ませんが、それはこちらも同じです。このシン王国の国王である勅命が本当だとすれば、貴方のした事は、罪人を匿った、それこそ国家転覆罪になりますので、私達は罪人を匿う事、ましてや逃亡の手助けなどする訳にはいきませんので。

 それと今回の件でムメイ様は冒険者としての権利の剥奪をさせていただきます」


 言うことだけを伝えて、その場を後にしようとする受付さん達に、俺は咄嗟に。


「その国家転覆罪ってのがありえねぇって言ってんだよ! 俺は護衛をしてたんだぞ! だがそんな罪に問われるようなことなんてなんもしてなかったぞ‼︎ こいつは嘘じゃねぇ‼︎」


 そう伝え、返答を返したのは受付さんでは無く。


「その護衛とは、彼女がこの国に入国した時からですか?」


 審判者はサクラちゃんが女性である事を見抜いていた事に驚いたが、それ以上に不味い状況になってしまった。


「お応えを」


 審判者は全てを見透かしたように続けてきた。

 俺は苦虫を噛み潰したような顔をしながら。


「いいや………」


 と答えると、呆れた様な嘆息をつきながら。


「それが答えです」


 それを聞いた瞬間、俺は、バンッ‼︎ とプレートをカウンターに叩きつけ。


「もう冒険者じゃないってんなら、多少一般人を巻き込んでも問題はないってことか、一応は冒険者として、一般人に被害を出さないように思っての行動だったんだがな、もう知った事じゃねぇ、行こうサクラちゃん」


 それだけ言うと、反転し出口に向かおうとしたが、俺の足は意外にもサクラちゃんによって止められた。


「待って下さいムメイさん」


 俺の腕を掴み、俺が制止したのを確認し、今度はカウンターの方に向き直ったサクラちゃんは、まだ近くにいた受付さんに対し、懐からクルクルと巻かれた紙を取り出し、その先を向け。「確認を」とだけ言うと、受付さんは戻ってき、紙を受け取り開くと目を通し始めた。

 そして変化はすぐに起きた、受付さんの目は見開かれ、どこか焦る様に。


「しばしお待ちください、直ぐに上の者に確認を」


 それだけを残し、受付さんは紙を持ったまま駆け足で中に消えて行き、その後、一分も経たず戻ってきた受付さんは。


「大変お待たせしました、ただ今このギルドの最高責任者が応接室にてお待ちです。案内しますのでついて来て下さい」


 先程までの態度が違う受付さんに、サクラちゃんは何も動じることなく。


「分かりました、案内の方よろしくお願いします」


 と会釈して、それを確認した受付さんは「こちらです」と、サクラちゃんの前を歩幅を合わせて歩いていく。

 俺もサクラちゃんの後をついて行こうとしたが。


「申し訳ありませんがムメイさんは、こちらでお待ちしてもらってもよろしいでしょうか?」


 といつもとは違う、真剣な声音であった。

 それでも、先の件があるので、ここも絶対安全では無いので、断ろうとしたが。


「安心してください、私に何かあろう者なら、きっと彼女達が、その命に代えて私を守ってくれるはずです」


 俺が思っていた事を見透かした事を言うサクラちゃんに、それでもと食らいつこうとしたが。


「それに、好きな人だからこそ知られたく無い事も有りますので、どうか今だけは私のお願いを聞いて下さい」


 一瞬サクラちゃんの顔に少し寂しそうであり、また陰りが見えた、そんな表情に弱い俺は大人しく引き下がり「分かりまし」と返すと。


「ありがとうございます。ムメイさんは本当に優しいですね。

 それでは数刻後戻って来ますが、その間はその目で盗み見などもしないで下さいよ」


 俺は言われた通りに、スキル〈心眼〉を解除し。


「言われた通りにしましたので、危なくなった時は全力で俺の名前を呼んでくれれば、最速で、最短で、一直線に、サクラちゃんの元に向かいますんで」


 それを聞いた、サクラちゃんは嬉しそうに。


「はい、ありがとうございます」


 その後、サクラちゃんは、受付さんの案内で二階に繋がる階段を上がり、俺の視界から消えた。


 一人になった俺は、周囲の目など気にせず、目を閉じ、誰にも聞こえない程度の独り言を呟き、誰が返答を返した訳でも無いが、今度は少し大きな独り言で「ありがとう」と呟きサクラちゃんが戻って来るのを静かに待った。

来週も投稿出来るよう頑張ります。

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