第19話 開戦の狼煙
「見てくださいムメイさん、あちらの出店では、見たことないアクセサリーを売ってますよ! ほら、早く行きましょう!」
とはしゃぎながら俺の手を引くサクラちゃんと対処的に。
「そうですね」
と最低限の反応をするだけの俺がいた。
先程からこんな反応しかしない俺に、最初こそは文句を垂れていたサクラちゃんだったが、諦めたのか今は気にしない様子で俺の手を引いている。きっとサクラちゃんも何かを察してくれたのだろう。
俺がこのような反応しかしないのは、この街についてから抱える違和感の答えを探すために集中しているためだった。
そして考え事をしているうちに目的の出店の前まで来ていた。
「いらっしゃいませ」と店番の女性が挨拶し、サクラちゃんにアクセサリーの説明をし始めていた。
その会話は「こちらが付けるだけで幸運になれるペンダントで」とか「これをつけるだけでお金が入る入る、有難い腕輪で、実際にこれを身につけたお客様からは」とか怪しい言葉がいくつも並んでいたが、それを楽しそうに聞くサクラちゃんの邪魔をするとこはせず、危なくなったら止めよう程度に考えていると、不意に耳に入った言葉に目を見開いた。
「こちらがお二人のようなカップルに人気のペアアクセサリーですが、つけてみますか」
俺は咄嗟にサクラちゃんの手を引き抱きしめ、店に背を受けるように、二人の間に割り込んだ。そして次に瞬間、シュッと風を切る音と鋭い痛みが背を襲った。
俺は痛みをこらえ、屋台を店番の女性に蹴り飛ばしたが、店番の女性とは思えない身のこなしで、飛び散るアクセサリーの数々を後退しながら躱し、手に持つ短剣をこちらに突き付けながら。
「ねぇえ? どうして私の攻撃に気づいたか聞いても良いかしら?」
俺は自身に回復魔法をかけながら、まだ状況を飲み込めていないサクラちゃんをより強く抱きしめながら。
「まず一つ目だが、これはこの街に入ってから思っていたことなんだが……この街の奴らは武器を隠して携帯する習慣でもあるのかと思ってな」
それは俺がこの街についてから抱える違和感の正体だ。
この街を歩く市民の半分以上が、その服の中などに武器を隠しており、その歩みも一般市民とは言えないほどの、その道を極めた者の歩き方だった。そう例えるなら影の騎士団のような。
「それだけですと、あなた様が言う通り習慣や、このような出店なら防衛用と考えてもおかしくありませんよねぇえ?」
確かに、それだけでは習慣や勘違いで済ませることができるが、彼女が発した言葉で全てが繋がった。
「次に二つ目だが、あんた、俺たちをカップルといったよな? 少なくとも中身を知らない奴らには、俺たちは男同士に見えるはずなんだが」
俺は旅の途中で教えて貰ったが、サクラちゃんが身につける〈偽りのマント〉は、他者からの認識を阻害する能力があり、俺も騙されたように、知らない者には、サクラちゃんは真逆の男性に認識されるはずなのに、女はサクラちゃんの正体を知っていた。
そしてたどり着いた結論が。
「あんたら、サクラちゃんを狙う賊か?」
オモダカから聞かされた、サクラちゃんは国有数の商人の家系だと、だから捕まえれば金がいくらでも手に入ると思った賊の仕業だと決定付けたが、先程の一撃がそのままサクラちゃんに当たっていたなら確実に死んでいたなど、まだ不可解なことはあるが、今はこれしか考えれなかった。
そして、賊だと告げられた女は。
「プッ! アハッハッハッハッハッ! ヒッヒッヒッー、私が賊って! ヒッヒッヒッ、お腹痛いは! けどまぁ、そう言う事にしといてあげるは、それにそろそろ時間だから失礼させてもらうわね」
その言葉を最後に、腹を抱えて笑う女は、懐から隠していた短剣をこちらに投擲してきたが、もう一本の存在も知っていた俺は、予想どうりと剣帯から愛刀を抜き短剣を弾くと。
「やっぱりあなた様には見えているのですね、ならまずは、あなた様から消えてもらいましょうか」
「やれるもんならやってみろよ、まっ、あんたが俺に勝つのは無理だと思うがな」
「いえいえ、私の勝利条件はここから生きて逃げるとこですので、あなた様に勝つことは簡単なことですよ」
なおも余裕の表情を崩さない女に不信感を持ちながら。
「ぬかせ、逃すわけねぇだろが!」
俺は女に目がけ、殺傷力の低い風魔法をぶち込もうとしたが、不吉に笑う女の顔を見て咄嗟に風魔法を周囲に発動したのが功を奏した。
カンッ! カンッ! と二本の矢が風の壁に阻まれ地面に落ち、改めて矢の飛んできた方を見たが犯人は既に逃亡しており、落ちた矢の方から聞こえる、ジーという何が燃える音に気づき、俺はサクラちゃんに覆いかぶさるように地面に倒れ、その周りに最大出力で風と水の壁を生成した。
そしてその直後、ドッンンッ‼︎ と巨大な爆発音と爆風が襲った。
俺たちには被害はほぼなかったが、周りの建物は酷いところで半壊しており、爆風に巻き込まれて苦しむ一般人の姿があり、その元凶を作った女やその仲間には逃げられてしまうという最悪の幕引きとなってしまった。
そしてこれは、この都市で起きる大きな戦いの開戦の合図でしかない事を今この時は知るすべもなかった。
次話は、来週投稿出来ると思います。




