第17話 旅路での雑談
どのぐらい経ったか、俺とオモダカは互いに言葉をなくしてから、気づけば太陽はちょうど天辺にまで登っていた。
そしてその時を待っていたと言わんばかりに馬車の中から。
「すみませんがお二人さん、そろそろ日も登りきった頃ですのでここらで昼食にしませんか?」
そうサクラちゃんが昼食の提案をしてくれた。がそれに対してオモダカは何も考えていないように自然に。
「ん? 昼食ですかい? それならいつも通り勝手に食べてて頂いて」
「んっんっ〜、オ、モ、ダ、カ」
話の途中で割って入り、オモダカになにかを促すような行動をするサクラちゃんに何かを察したように。
「おっといけねぇ、そうですねここらで昼食にでもしますかい」
そう言うと、オモダカは慣れた手つきで縄を引き、馬車をゆっくりと止めた。
「それでは中で待っていますので、二人も早く来てくださいね」
それを伝えるとサクラちゃんは、小窓を閉め、中で慌ただしい音を立てていた。
きっと昼食の用意でもしているのだと思いながら、オモダカの方を向くと。
「悪いが、仕事中だからって席を外すのは無しだぞ。一応は雇い主のメンタルケアも仕事のうちなんだからな」
オモダカに俺が言おうとしていた事を先に言われてしまい、喉まで出かけていた言葉を飲み込む結果となり、しぶしぶと。
「分かっていますよ」
「そうか分かってもらえたか! ならついでに護衛中も中でサクラ様の相手でもしていてほしんだがな」
「それはお断りします」
とやりとりを終わらせて、地に足を下ろし、馬車の中を目指そうとすると。
「後なんだ、さっきの事は心の隅にでも置いといて、今まで通りに接してくれた方が助かるよ」
それに、軽く頭を下げて返事を返し、オモダカと共に馬車の中に入るとそこには見慣れない物があった。
「その机はどうしたんですか?」
気になり訪ねてみると。
「この馬車ってお金をかけている分、意外に多機能でこう言ったものを収納してあって、他にもベットなんかもあるんですよ」
へぇ〜、と感心しながら意外な便利な馬車を見渡し、机を挟むように座っている二人の隣が空いているので迷わずカノンさんの隣に腰を下ろした。
すると。
「なんでカノンの方に腰を下ろすんですか⁉︎」
「そっ、そうだぞムメイ、ここは普通に考えてサクラ様の方に行くべきところだろう!」
「えっ⁉︎ なんでですか? 俺はただ好きな子の隣に座りたいだけですが?」
いつも通り素直に応えると、隣のカノンさんは顔を伏せ、何かをぶつぶつ言っており、少し赤くなっている気がしたが、前に座るサクラちゃんは、えらくご立腹のようで。
「普通はカノンの隣には親でもあるオモダカの席で、空いているのは私の隣だけとは思わないのですか? それに貴方が一番に護るべきは私ですよね? なら隣にいた方が守りやすいとは思いませんか? ええ思っているはずです、あの仕事熱心なム・メ・イ様なら」
中々痛い事をついてくるサクラちゃんに、俺は先程教えられたばかりの言葉で。
「そうですが、つい先程オモダカさんに根を詰めすぎては仕事で大きな失敗をするとご忠告をいただいたばかりですので、俺もそれに習えと、食事の場ぐらいは少し息抜きをと」
それを聞いたサクラちゃんは未だ席に着かず立ち尽くすオモダカをキッと睨みつけ、オモダカも気まずそうに目をそらしていた。
そんなオモダカを見ながらふっとこれまでに数度オモダカに助けらた事を思い出し、その恩返しと言って良いのかは分からないが助け船を出す事にした。
「それにサクラちゃんにとってもこの席は悪く無いと思いますが?」
「それはどう言うことですか?」
言うや否やすぐに返答は返ってき、俺も続きを話し始めた。
「それはですね、俺が向かい側に座ることで、お互いの顔を自然によく見ることができるわけです。
隣どうしでは、自然に顔を見ることなんてできませんよね?」
そう伝えると、サクラちゃんは少し考え。
「確かにムメイさんの言うことも一理ありますね。はぁ〜分かりました、しぶしぶですがよしとしましょう」
それを聞いたオモダカはゆっくりとサクラちゃんの隣に腰を下ろし、皆が席に着いたところで食事が始まった。
メニューは、普通の旅人の食べ物より少し豪華で、柔らかいパンに、サラダ、おまけにどこで作ったのか温かいスープまであった。
それはどれも絶妙な味付けで、正直王国の飯よりも美味しいと思うほどだった。
そして昼食を取りながら今後の予定や、雑談をしながら、大体一時間が経つぐらいに。
「んじゃ、そろそろ行きますかねぇ」
とゆっくりと立ち上がりながら言うオモダカに続けと俺も立ち上がり、スイッチを入れ替え。
「そうですね、そろそろ行きますか、では」
と彼女らに軽く挨拶をし、馬車の中から降りた。
その際にもサクラちゃんは不満そうな顔をしていたが今回は何も言わずに行かせてくれた、きっと彼女自身も俺が仕事中には何を言ってもダメとでも思ってくれたのだろう、とそんな事を思いながら馭者の席に座り、遅れながらきたオモダカもいつもの席に座り、後ろの二人に向けてだろうが、一言声をかけ、小窓を叩くノックの音を確認したオモダカは慣れた手つきで縄を振り、ゆっくりと馬車が動き出した。
そしてしばらく経ったが、朝から引き続き会話のないこの空気に少し耐えれなくなって来たので、何か話題を振ることにしたが、すぐには思いつかずに。
だって仕方ないじゃん、俺みたいなリアルなヒューマンとここ数年まともに会話をしてない引きこもりニートに話の話題を出せって方が無理じゃん。
などとくだらない自己正当化理由を考えていると。
「なぁ兄ちゃん、少しばかり聞きてぇことがあるんだがいいかい?」
こちらか話題を振ると言う難題を、相手さんの方から解いてくれたこの流れに乗るしかないと思い。
「なんです?」と尋ねると、オモダカはどこか言いにくそうな顔を作り。
「兄ちゃんは仕事なら人斬りもするのかい?
もしもなんだがあっしらを狙う族がいるとして、そいつらから逃げるには殺すしか無いとなったら、斬るかいそいつらを、その刀で」
「斬りますよ、それしか方法が無いならね。
まぁでも殺さなくて済む方法が少しでもあるならそれに賭けますがね。
なんたって俺には人斬りを嫌う、か………彼女がいるんでね」
危うく忠告されていた神という単語を使いそうになったがなんとかなったと思いながら、俺はオモダカの返答を待ち。
「そうかいそれなら安心だ」
どんな意味での安心かは分からなかった。
オモダカの言葉の意味を考えようとしたが。
「そんじゃ兄ちゃん、さっきの昼食の席で話したが、次に物資の補給をするのが、シン王国、西の都市セイランだが、そこで兄ちゃんにはサクラ様の警護だけに集中してほしい。
どうせヤンチャなサクラ様の事だ新しい街でジッとしてる方が無理な話なんでねぇ、そんなら一切、サクラ様の面倒見は兄ちゃんに任せて、俺とカノンでサッサッと身支度を済ませようと思ってんだがどうだい?」
話を聞くことに集中したので、オモダカの言葉の意味を考えれなかったが、まっいっかと気にしないことにし。
「分かりました、ではセイランではサクラちゃんの警護に就かせてもらいます」
と伝えると、オモダカは嬉しそうな声で。
「そうかい、んじゃ任せたぜ兄ちゃん!」
「任されましたが、セイランまでこのままのペースだとあと二週間ちょいかかるんじゃないんです? 正直それまで物資が保つことの方が驚き何ですが」
そんな当たり前のような疑問をぶつけると、オモダカは笑いながら。
「そんだけ買いだめてるってこった! そんじゃ、セイランに着くまではのんびりと護衛してくれや!」
そんなオモダカに「はいはい」と返し、言われた通り、のんびりと護衛の旅を楽しむのだった。




