第7話 別れ
時間というのは無情にも過ぎていくものだ。
あの後必死で考えたが、許してもらえそうな謝罪は結局浮かばず、そしてその時は来てしまった。
馬車は徐々に速度を落としてゆき、最後に小さな揺れ止まった。
「兄ちゃん残念ながら時間だ……なんか思いついたか? ってその様子じゃダメだったみたいだな」
頭が力なく項垂れ、返答を返す余裕もなかった。
「まぁ、元気を出せ、カノンのコトを本気で思ってたんかもしれんけど、人間諦めが肝心と言うし、今回は縁が無かったってことで諦めろ。
それでいちを確認なんだが、兄ちゃんがどこまで行くか分からんが、目的地付近まで一緒に同行するか否か何だが……どうする?」
その問いはきっと、このまま気まずいまま旅をするかどうかと言うコトだろう。
俺もこのまま気まずいままは嫌なので、断ろうとしたが。
「私はこのまま一緒に同行してもらった方が嬉しいのですが?」
といつの間にやら馬車から降りていたサクラちゃんがそんなコトを言っていたが、そんなことよりも、その横の殺気に満ちた目でこちらを見ているカノンさんが怖くそれどころではなく。
「サクラ様、このような何処の馬の骨かも分からない虫ケラを同行させるなど、私は断固として反対します」
ついに虫ケラ扱いを受けてしまい、断る決意を決め、切り出そうとした時。
「もしやそちらのお方は、冒険者の様ですか?」
とそんな声が何処からともなく飛んでき、そちらを確認すると、そこには、杖をつきおぼつかない足取りの老人がいた。
最初は俺のことかと思ったが、その老人の視線の先にいるのはカノンだった。
きっとカノンさんの腰に吊るしている刀を見て言ったのだろう。
カノンさんは少し困ったような顔をしながら。
「いや、私は冒険者ではないのだ、冒険者はそこにいる虫ケラ以下の男だ」
とこちらを指差していたが、虫ケラ以下って何だよ! と心の中で突っ込みながら。
「ご紹介に預かりました、虫ケラ以下の冒険者のムメイです、それで何か?」
自己紹介と同時になぜ冒険者と聞いてきたのかをたずねると、老人は心底嬉しそうに、こちらが心配してしまうぐらい大きな声で。
「皆の者‼︎ ついに冒険者の方が来てくださったぞ‼︎」
その声につられるかのように、今まで建物中にいた人達などがドンドンと老人の周りに集まり歓喜の声を上げ始めた。
そんな光景に正直引いてしまった。
だって何もしてないのにこんなに歓喜の声を上げられて、中には手を合わせて泣きながら拝む人までいたら、誰だって引いてしまうのが当然だと思う。
なのでこの状況の訳を聞くことにした。
「あの、すみませんが、何ですこの馬鹿騒ぎは? 俺はあんた達に何かした記憶はないんですが? てかここに来たのも初めてなんですが?」
そんな感じにたずねてみると、先ほどまでの歓声が嘘のように止み、先程の老人が代表し。
「ムメイ様は、この村にクエストを見て来られたのでは?」
「ハァッ? クエスト? んなもん受けた記憶ねえよ! 第一今は旅の途中だから、冒険者業はお休み中なんですが」
正直に応えると、皆の顔がドンドン曇っていき、挙句にはその場にへたり込んで泣き始めるものが多々いた。
その光景を見た、カノンさんは睨むように、サクラちゃんは何かを訴えかけるような視線を向けて来たが、俺は悪くないと断言できるので、悪びれることもなく彼らから視線を外すと。
「貴様と言う奴は‼︎ この姿を見て何とも思わんのか‼︎」
カノンさんが怒りを込めた声をぶつけて来たが。
「思いませんよ、だって彼らが勝手に勘違いして、勝手に盛り上がって、勝手に落ち込んでるだけじゃないですか、ほら俺は悪くありませんよ」
自分でも少し冷たい気はするが、あまり面倒ごとには巻き込まれたくないのでこれぐらいがちょうどいいと思っていると。
「もういい‼︎」と一瞥され。
「皆の者、あの虫ケラはああ言っているが、良ければ私に話してくれないか? 私も多少腕に自信があるだが」
と言うと、彼らは少し歓喜し、そしてまた老人が代表して話始めた。
「実は、半年以上前から、この村は盗賊に襲われ、食糧は荒され、挙句には女子供が連れ去られ、私たちも必死の抵抗も虚しく被害が増える一方で、この村の女子供は既に八割以上拐われ、そして、抵抗した男性陣も大きな怪我を負ってしまい、最後の希望にと冒険者ギルドに盗賊団の討伐を依頼したのです。
そして、それを受けて来てくれたと勘違いをしてしまった訳なんでが、私たちには、もう時間がないのです! なので大変な無茶振りをしているのは分かります、ですがどうか、盗賊団を討伐し連れ去られたもの達を救って来てはもらえませんか?」
それを告げると、老人は深々と頭を下げ、それに続けと他のもの達も皆頭を下げた。
カノンさんは、サクラちゃんに何かを確認し、そして。
「ああ、もちろんうけ」
「いくら出すんだ?」
カノンさんの遮りその声が響いた。
「何を言っているんだ貴様は‼︎」
「何って、こいつらは仕事を頼もうとしている、それも命の危機がある仕事をだ、それを何の対価もなしにやらせようなんて虫が良すぎると思ってね」
カノンは何かを言おうとしていたが、それより早く。
「む、無論、報酬は払う、この村の民皆の金を寄せ集め、金貨二枚近くを用意している」
金貨二枚は確かに彼らからすれば喉から手が出るほどの大金かもしれない、現に金貨一枚は、元の世界で言うところの百万ぐらいの価値がある、それを二枚近くとなると、彼らのような農業をしているもの達からすれば一生手に入らないかもしれないだろう。
だがそれに対しての返答は。
「はっ、笑わせないでくれ、その程度の額で盗賊団を討伐してくれだァ? お前らはバカか? いいか、盗賊団などの撃退や討伐は、少なくても金貨五枚が相場だ、それを半額以下でやれとは、悪い冗談としか思えないんだが? それに冒険者ギルドに依頼して、なぜ今まで誰も来なかったか考えなかったのか? その時点で気づけよ、あんたらの依頼はリターンの少ないクソ依頼なんだよ、それでもまだ冒険者に助けて貰いたいなら、あんたらはそいつの奴隷にでもなるしかないんだよ、少なくともここにいる全員の人権がもらえるなら喜んで仕事をうけてくれるだろうよ」
「兄ちゃんそろそろやめときな」
途中でオモダカの忠告が入ったが、続けた。
「第一そんなに苦しんでいるならなぜ王国に依頼しない? これはこの国の問題でもあるんだろうが、ならまずは王国の方に依頼しろよ、そんな事も分かんねぇのか? そんな事も分からねえからいつまでたっても襲われる側なんだよ! あんたらは!」
「やめろカノン‼︎」
オモダカは俺ではなくカノンを制しするように声を出していた。
俺も視線を下に下ろすと、そこにはあと僅かで喉元に達している剣先があったが動じる事もなく。
「何ですかこれは? 俺は間違ったことは言ってませんよ、だから早くその刀を下ろして貰えませんかカノンさん」
そう訴えたが、カノンは怒りのこもった声で。
「貴様に彼らの何が分かる‼︎ 国に見捨てられた彼らの気持ちが‼︎」
「えぇ、分かりませんよ、俺って人の心が分からないってよく言われてましたので」
お互いに一歩も譲らない状態だったが。
「お前の言う通りだよ、だけどお前は何も知らないからそんな事が言えるんだ、捕らえられた女子供が奴隷としてどこに売られているか知ってんのかよ? 王国だよ、お前が言う王国だよ‼︎ 皆んな、勇者なんて物のために生贄にされんだよ、そんな物のせいで俺の姉ちゃんは……うぅぅ、お前なんかこの村から出て行け‼︎」
ガンッ‼︎
一人の少年が声を荒げ、そして投げられた石を避ける事なく受けた。
その間になだめられたカノンは刀を下ろし、こちらを睨んでいた。
よくみると、俺を睨んでいたのはカノンやその少年だけではなく、周りの人たちも皆同じような目でこちらを見ていた。
だがこれでいい、俺は兎に角面倒ごとには関わりたくない、だからこれでいい、ここまで行けば俺にこれ以上頼む事はしないだろう、そしてこのままこの場を立ち去ればそれで終わりそう思い、馬車から降りようとしていた時。
「その仕事私が受けされてもらう、報酬もいらん、だから安心してくれ」
そんなコトを言うのはカノンさんだった、それを聞いた人達は割れんばかりの歓喜を上げ俺もこれに紛れて、ひっそりと立ち去ろうとしたが。
「待ってください、今日もう遅いので、私達とここで一泊していきませんか……と言っても、さすがにムメイさんが村に入るのは厳しそうなので、馬車の中になりますが」
サクラちゃんは俺のコートの裾を掴み止めようとしたが。
「すみませんがこのままここにいるのは嫌なので、ここでお別れです。
短い間でしたがお世話になりました」
と告げ、軽く頭を下げると、さすがにこれ以上止めようとする事は出来なかったのだろう、サクラちゃんは裾から手を離し寂しそうな顔をしながら、小さな声で「それではお気をつけて」と告げ、俺ももう一度頭を下げその場を後にした。
タイトルが適当ですみません




