第4話 道中で3
爽やかな風が木々を揺らし音色を奏で、暖かな日の光が照らす路に、そこに相応しくなく、荒い息を繰り返す者が二人。
一人は刀を地に刺し、片膝をつき刀に体重を任せながら。
「はぁはぁ、どっ、どれだけ耐えれば、気がすむんだ?」
それに対し、もう一人の方は、両手リア膝をつきながら。
「はぁはぁ、どっ、どれだけ耐えればって、言いますけどねぇ、耐えなきゃこちとら真っ二つなんでねぇ、 そりゃ〜、全力で抵抗しますよ」
そう返すと呼吸を整えるため、お互いに何を仕掛ける訳でもなく、荒い呼吸を繰り返し、そしてしばらくすると。
「ふっ、その様子だと、もう魔法は使えないのでは無いのか? ならば好機」
少し呼吸が調って来たカノンは、余裕の笑みを浮かべていたが。
「ふっ、魔力は確かに尽きかけだが、そちらさんは体力切れと見た、本当はもう一歩も動けないんだろ? そうなんだろ? ん?」
こちらも負けじと、余裕の笑みを浮かべながら返したが。
「貴様の言う通りだ、正直今こうしているだけでもかなりきつい、だが貴様は何か忘れていないか? 私は魔物使いだ、私が動けずとも魔物達がいる‼︎ 行け! ガロウ! グロウ‼︎」
シーン
しかし何も起こらなかった、それもそのはずだろう、その当の魔物達は、寝そべったまま、ハッハッハッ、とこちらも荒い呼吸をしていた。
そりゃ〜、主人のわがままで小一時間も、噛み続けていれば疲れるよねと思いながら魔物達に同情の視線を送っていると。
「何をやっているだ! 早く行かないか!」
と主人様に怒鳴られたが、少し顔を上げ、最初に主人のカノンを、次に俺を見て、再び顔を下げた。
その行動が何を意味しているかは分からなかったが、何と無く。
「お前達も、使い魔使いの荒い奴が主人で大変だな」
そんなことを言ってみると、二匹は寝転がったまま。
「「クゥ〜ン」」
と、まるで俺の言葉が通じ、あたかも賛同してくれた様に思えてしまう。
どうやらそれは合っていたらしく。
「なっ! お前達! なんでそこで賛同するんだ!」
カノンさんが慌てふためいていたので、追い討ちをかねて。
「ガロウとグロウだっけ、お前達も疲れたろ、こっちにおいで、残りすくない魔力で悪いが、回復魔法を使ってあげるよ」
二匹は耳を立てこちらを見ると、ゆっくり起き上がり、こちらに向かって来た。
その間に後ろからカノンが「そっちに行くな」や「それは罠だ」とか言って、必死に二匹を止めようとしていたが、二匹は振り返ることも、歩みを止めることもなく、そして俺の前に着くと、二匹は行儀良く、お座りをし。
「「ワンッ」」
と、まるでお願いいたしますと言っているみたいなので。
「よしよし、ちょっと待てっくれよ」
そう言うと、意識を両手に集中させ、今度は無詠唱で発動し、その間にも、グロウとガロウに対して。
「どうだ気持ちいいか? 俺を噛み続けて疲れたろ? これは俺からの詫びの気持ちだ、少ないかもしれんが我慢してくれ」
と話しかけていると「ワンッ」と先ほどとは違い、嬉しそうに弾んだ声が帰ってき、回復魔法が心地いいのか、二匹はとも目を閉じ、「クルルルルルル」と喉を鳴らしていた。
「ふぅ〜、すまんがここまでだ、気持ち良かったか?」
俺はギリギリまで魔力を使い二匹を癒してやると、二匹はこちらに歩み寄り、感謝の気持ちなのか、顔をペロペロと舐め出した。
少しくすぐたかったが、何と無く愛着の湧いてしまった二匹の、頭を撫でてお返しをしてみると。
「「クゥ〜〜ン」」
と、甘えた様な声を出しながら、俺の胸らへんに頭を擦り始めた。
何これ可愛いと思い、こちらも休みなく撫で返していると、ふと目に入った、こちらに右手を必死に伸ばし、大事な使い魔を取り返そうと必死な主人のカノンに向かって、下卑た顔をで。
「ふっ」
嘲笑う様に反応を返すと、カノンの伸ばされた右手はプルプルと震え、そして力なく落ち、刀を握っていた左手も地につき、顔だけはこちらを見たまま。
「私の子達が寝取られたぁー‼︎」
と叫び、そして、ついに頭も地に落ち、ヒクヒクと泣き出してしまった。
そして、この時を待っていたように。
「どうやら勝負がついたようですね」
サクラちゃんはそんなことを言いながらカノンさんの隣にまで行くと、カノンさんの肩に手を置き。
「ガロウもグロウもあちら側に寝返ったようですし、カノン貴女の負けです。
殿方も、あまり意地悪をしないでカノンに、そちらの子達を返して上げて下さい、お願いいたします」
こちらも泣かれるのは予想外だったし、だからって返そうにも、タイミングを失っていたし、何よりこの子達を手放したくなかったが。
「分かりました、ほら、ガロウ、グロウ、本来の主人の所に戻って上げな」
二匹は寂しそうな声を出してなかなか動き出そうとしなかったが、俺がもう一度「行きな」と言うと二匹はカノンさんの方に戻って行き、泣いている主人の顔を舐め始めた。
カノンさんも、それに気づくと、二匹をもう二度と離さないというぐらいの力で抱きしめ、二匹も抵抗することなくそれを受け入れていた。
「カノンが大変失礼しました、この子は私の事になると、頭にすぐ血が上ってしまうんです、なので、カノンの代わりにもう一度私が謝らせていただきます、本当に申し訳ございませんでした」
「生きてるからいいけど、本当にお願いいたしますよ、あんなのを何回もされたら命がいくつあっても足りませんよ」
ちょっと嫌味ぽく返事を返すと。
「サクラ様が謝る必要などございませぬ、これは、私が」
カノンの言葉の途中だったが、サクラに軽いチョップをされ。
「落ち着きなさい」
それ言われ、カノンは静かに「はい」と言い、ゆっくりと立ち上がると、サクラの後ろについた。
そして、カノンが自分の後ろに来たのを確認し。
「では、改めて自己紹介をさせていただきますね、私の名前はカスミ・サクラと言います、以後お見知り置きを。
そして、私の従者の」
「センジュ・カノンだ」
サクラちゃんに、促されカノンは嫌そうに名乗り、そして。
「残るは、オモダカこちらに」
サクラちゃんがそう言うと、倒れた馬車からひょっこりと顔を出す者が。
「なんです、もう終わったんですかい?」
そんなことを言いながらこちらに歩み寄り、サクラちゃんの近くにまでつくと。
「オモダカ、貴方も挨拶を」
オモダカと言う男は呼ばれた訳を理解し。
「そう言うことですかい、それでは、あっしの名前は、ゲンジ・オモダカと言います、一応、馭者の方をさせてもらっています。
そんで、そちらの兄ちゃんの名は?」
ゲンジと言う少し年老いた男に促されたのは不本意だが、ここで名乗らないのもあれなので。
「俺はムメイ、冒険者をしていて、今は旅の途中と言った所です、男以外は以後お見知り置きを」
ゲンジは「嫌われちまったかな」と呟き、再び馬車の方に戻ろうとしたが。
「オモダカ、馬と馬車はどうですか?」
その問いに対して、少し残念そうに。
「馬の方は大丈夫ですが、馬車の方は車輪がいかれちまって、起こしても使い物にはなりませんねぇ、なんでここからは歩いて、次の町にでも馬車を置いている事を祈るしかありませんねぇ」
「そうですか、分かりました、戻って下さい」
サクラちゃんに言われて、自分の仕事に戻るオモダカを見ていると。
「それではムメイさん、助けて貰った御礼をしたいのですが、何かご要望はありませんか」
サクラちゃんの方に視線を戻し、考える仕草なく。
「なら、カノンさんを俺に下さい」
「なっ! 何を言っているんだ貴様は‼︎」
「初めて見た時から、惚れてました、まだまだ未熟な所は有りますが、よろしくお願いします‼︎」
と腰をおり手をカノンさんの方へ向け、手を握ってくれる事を待ったが。
「私が聞きたいのはそんな事ではなくてだな! それに応えだって嫌に決まっているだろう‼︎」
「そんな」と言いながら、その場に両手にをつくように倒れていると。
「流石にカノンを差し上げるのは無理ですが、私で良ければ応えは、はいなんですが?
実は私もムメイさんに惚れてしまいましたし」
「なっ! 何を言っているんですか⁉︎」
カノンさんも驚いた声を出していた。
「はっ⁉︎ 何言ってんのこのよう……サクラちゃんは、なんで俺に惚れたとかは置いといて、応えはノーに決まってんだろ、てかまずサクラちゃんに手を出す事に犯罪臭もするし」
「何でって、今にも死にそうな所を助けて貰って惚れぬ女はおりませんよ、ほらあれです、吊り橋効果ってやつですよ、それに私は十二歳ですし、もう結婚も出来る歳ですが?」
「イヤイヤ、俺が言いたいのはそうではなくて、てか十二歳って、こっちではどうかは知りませんが、俺の中だとアウトなんですよ! もう分かりました、カノンさんは諦めますので、この話は終わりにしましょう。
その冗談に付き合うと色々とあれなんで」
俺もこれ以上この話をするのは流石に疲れるので、諦める事にし、新たに御礼の方を考えていると。
「私は冗談ではないのですが、分かりました、この話は一旦ここまでとしまして、他に何かありませんか?」
今、聞き捨てならない言葉があったが気にせず。
「なら、しばらくの間ご同行させて貰えませんか? 一人旅は暇ですし、歩きは疲れるし、カノンさんとも一緒にいたいですし」
「貴様はさっきから何を言っているんだ‼︎」
また、カノンが声を荒げていたが、それを誰も気にする事なく。
「私としても、それは大歓迎です……が今は馬車がアレなので、歩き旅になりますがそれでもよろしいでしょうか?」
確かに馬車が壊れてたら、結局は歩く事になると気づき、仕方ないと思いながら。
「少し失礼しますね」と断りを言うと馬車向かって歩き。
「壊れてる車輪ってどこですか?」
とオモダカに尋ねると、少し戸惑っていたが、壊れた車輪を教えてくれ、その車輪まで行き、破損具合を確認し。
「車輪が半分に折れているだけか、なら何とかなるかもな」
と呟きながら、意識を集中させ、土魔法を発動し、折れた先を新たに作り始め。
「あと少し、もってくれよ」と祈るように魔法を使い続け、そして。
「はぁはぁ、何とか、足りたようだな、はぁ〜〜」
魔力ギリギリだったが、何とか簡易車輪を作ることが出来、あとは起こすだけなので、魔力不足で疲れている体に鞭打って、馬車を起こそうとしたが、力足りずでビクともしないので、身体強化も使う事を考えたが、その後の反動を考えたら、使うかどうかを考えてしまう、そんな感じで躊躇っていると。
「ありがとな兄ちゃん、車輪が治りゃあこっちのもんよ」
そんな声が聞こえると同時に、グワッと勢いよく馬車が起き上がり、俺は尻餅をついてしまった。
そんな俺に対して。
「命だけじゃなく、馬車まで治して頂けるなんて、何と言えば良いのか」
サクラが感謝の言葉を口にしようとしていたが、それを制し。
「別に気にしなくて良いですよ、今のは簡易的な処置なので次の町でちゃんとした修理をしないといけませんし、俺もこれに乗せて貰うのでこのぐらいはさせて下さい。
そんで、正直立ってるのも辛いので中で休ませて貰っても構いませんか?」
「えぇ、構いませんよ、それでは私達も中に入りましょうか、カノン」
カノンは短く反応を返すと、サクラちゃんに続いて馬車の中に入って行き、俺も後に続けと中に入り、サクラちゃんとカノンさんが座る反対側の空いた席に腰を下ろすと、王国
の馬車と違い、座席はふかふかで、座り心地がよく、座っただけで、直ぐ眠気が襲って来たので。
「すみませんが、少し休ませてもらいますね」
と断りを入れると。
「はい、ゆっくりと休んで下さい。
では、オモダカお願いします」
と前についた小さな引戸開け言うと。
「はいよ、ではいかせてもらんます」
と返ってき、同時に鞭で馬を叩いたような音も聞こえ、馬車がゆっくりと動き出した。
俺も動き出したのを確認しながら、ゆっくりと目を閉じ、深い眠りの中に落ちて行った。
一週間に一話は投稿したいと、頑張っております。




