第3話 道中で2
「キャァァァァ、下ろしてください! お願いいたします‼︎ キャァァァァ‼︎」
「喋ると舌を噛みますって、あと少しなんで我慢してください」
彼女は、目を力強くつぶり必死にしがみついたが、その時胸部の柔らかいものが押し付けられて……良きかな、と思ってしまた煩悩を振り払い、改めてマップを確認し、目視でも確認をし、転倒したせいか、壊れた馬車と魔物の死体の間に着地し。
「つきましたよ、どうやら貴女の主人さまと馭者は無事のようですよ」
聞いた途端彼女は目を見開き、俺の腕から勢いよく抜け出し。
「サクラさま‼︎」
と叫びながらマントのようなもので全身を隠すようにしている者に抱きつき。
「よっかぁたぁです! サクラ様の身に何かあれば私は、私は、うぅぅ」
主人の無事がそんなに嬉しいのか、主人様に抱きつきながら泣きじゃくる彼女に近づきながら。
「良かったですね、貴女の主人が無事で、それよりも男にサクラって他になかったのかよ」
と嫌味ぽく、別にあんな可愛い子を連れている事を妬んででは無い、本当に。
そんな事を言いながら近付いて行くと、彼女の鳴き声がピタリと止み、ゆっくりと立ち上がり、腰の刀に手を掛けると、おもむろに抜き、一閃。
咄嗟の反応で後ろに何とか避けれだが、足がほつれて尻餅をついてしまった。
「あぶねいだろうが‼︎ 急に何しやがんだよ‼︎」
急の一撃に非難の声を出すと。
「貴様がサクラ様の命の恩人だろうと! サクラ様の名を侮辱し! あろうことかサクラ様を男などと‼︎ 許さぬ! そこになおれ‼︎」
男などとって、言われても現に男じゃん。
改めてマップで確認して見たが、結果は変わらず男だ。
ここで一つの答えが浮んだ。
「あっ! なるほどオカマか、だから男などとって言った訳ね、そうだよね、心は乙女だもんね〜、ごめんね気づかなくて」
ヒュッ
頬を掠める刀。
「もう何も言うな、直ぐに叩き斬ってくれる」
背筋が凍るほどの冷たい声と、ます殺気。
剣速も上がって来ている気がするが、それは勘違いではなく、躱すのに余裕がなくなって来、さすがにまずいと思ったところで。
「そこまでですカノン‼︎」
その声が聞こえると同時に彼女の動きが止まり。
「止めないでくださいサクラ様、こやつはサクラ様様を侮辱されたのですよ」
「そちらの殿方が私の窮地を救ってくださったのでしょ、そのお方に刀を向ける事は決して許しませんよ」
そこから聞こえる声は、幼さの残る女の子の声だった。
そしてカレンと呼ばれてる彼女は、俺に刀を向けたまま、「でっ、ですが」と、なをも食い下がっていたが。
「それに、殿方が私の性別を間違えていたと言う事は、ちゃんとこの偽りのマントが機能していることの証明です。
なので、私の性別を間違えるのも仕方のないことですよ」
「そっ、そうですね、そうでしたね、サクラ様は姿を変えられておりましたね。
貴方に、二度も私の早とちりで刀を向けた事を許してくれ」
カノンは刀を仕舞うと、綺麗に腰をおり、謝罪を口にし、それにたいし。
「いや、生きてるから良いけどだな、勘違いとかで切りかかって来るのは辞めて、最後の方はガチでヤバかったし。
てか、さっきの其方の言い方だと、本当に女性って聞こえるんだけど、えっ? 本当に女性なの?」
「だからそう言っているだろう‼︎」
とまた刀に手を掛けるカノン。
「まった‼︎ まった‼︎ まったぁー‼︎ だから直ぐに刀に手を掛けるなよ‼︎」
慌てて止めるように促していると。
「私とした事が、命の恩人に顔も見せず、大変失礼しました」
そんな声が聞こえ、俺とカノンの動きは止まり、声のした方を見てみると、彼女? は体に纏うマントを脱ぎ始め、そして露わになったその姿に対して初めて出た言葉が。
「んだよ、幼女かよ、偽りのとか言ってんから、実は中身はナイスバディのレディーかと思えばこれだよ、開けてみれば、また幼女、どんだけ幼女が多いんだよこの世界、あ〜あぁ、悪いけど俺、幼女に興味無いんで」
そこにいたのは、肩より少し短い桜色の髪と、まだ幼さの中に大人びた落ち着きをもった顔の女の子がいたが、キャラ被りの酷いロリキャラだ。
「ソウジ、私も側から見れば幼女に当たると思うのですが?」
あっ、とまだ神託を発動したままだった事を思い出し咄嗟に小声で。
「フェルトたんは、ロリババァだから良いの‼︎」
「たんは辞めてくださいって言ってますよね、それにさりげなく私の事をババァって言いましたよね? あれですか? ソウジは私の事をいつも、見た目は乳臭い幼女で、内年齢は千歳越えのババァと思っていたんですね、そうですか」
どんどん沈んでいくフェルトの声、それに連れどんどん恐怖心が増してくる。
「フェルトさぁ〜ん、お〜〜い、聞いてる?」
必死にフェルトを呼んだが、帰って来た言葉は。
「では、しばらく失礼しますね、あとそろそろ、回避行動を取らないと死にますよ、それでは」
プッツンと神託は切られ、フェルトが最後に言っていた意味が分からず、神託に使っていた意識を元に戻すと、そこには、高く掲げた刀を手に持ち、一切の命乞いおも許さぬと言った目をしているカノンさんの姿があり。
「死ね」
「えっ?」
不意に振り降ろされる刀を前に、回避行動をとる事が出来ず、唯一できた行動が。
パァッシィン‼︎
顔の前で両手を合わせ、なんとか成功した、真剣白刃取り。
初めてながらな完璧な白刃取りに意識を集中させ、未だ押し込まれる刀に負けないように追い返しながら。
「死んじゃう‼︎ このままだと本当に死んじゃいますって‼︎」
「死ね」
うわ〜、心の無い機械のようだなぁ〜。
てっ、そんな事を考えてる場合じゃなくて。
「なんでそんなに怒ってんですか⁉︎ 俺何かしましたか? もしかして、サクラちゃんを幼女って言った事ですか⁉︎ でもそれは、俺の心の底から思っていた事でェェェ‼︎」
さらに刀に力が込められた。
「なんですかこの世界は‼︎ 本当のことを言ったら酷い目に合うって‼︎ 理不尽にも程がありますよ‼︎ てかサクラちゃんも見てないで止めて‼︎ この勘違い系、刀大好きカノンちゃんをォォオ‼︎」
さらに刀に力が込められ、決死の思いでサクラちゃんに助けを求めたが。
「ニコッ」
笑顔が帰って来ただけだった。
「いや笑顔が見たいわけじゃ無くて‼︎ この子を止めってて言ってんの‼︎ 本当に不味いんだって‼︎ 反省してます‼︎ 幼女って言ったこと反省してますから‼︎ そうです‼︎ サクラちゃんは! 幼女は幼女でも、大人の女性に憧れて背伸びしてる系のようジョォォォ‼︎ ギャァァァ‼︎」
さらに刀に力が込めら、どこからとも無く現れた、使い魔のワンちゃん二匹に左脇腹と、右太腿を噛まれていた。
「痛い‼︎ 痛い‼︎ 痛い‼︎ ごめんなさい‼︎ 本当にごめんなさい‼︎ 二度と幼児って言いませんから‼︎ あれです‼︎ サクラちゃんがあまりにも可愛かったから照れ隠しで言っただけなんです‼︎」
最後の方はやけくそだったが、それが功を奏したらしく。
「殿方も反省したようですし、流石にこれ以上は本当に不味いですね。
カノンそろそろそこまでにしなさい‼︎」
ついに助かると思ったが、刀から力が抜ける事はなく、むしろどんどん押し込まれていき、ワンちゃん達の歯もどんどん食い込んで来た。
「あれ⁉︎ カノン‼︎ もうやめなさい! 聴いているの? ……あぁ〜、こうなったらカノンは止められませんので………頑張って下さい」
「そんな‼︎ 見捨てないで下さいよ‼︎ お願いしますゥゥ」
最後の叫びは目をそらされて終わり、改めてカノンさんの方をみると小声で呪文のように。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス……」
「イヤァァァァ、ヤンデレ系女子はお呼びで無いんですヨォォ‼︎ お願いですから許して下さいよぉ‼︎ てか横の犬どもガチで痛いんですけど⁉︎ くそ‼︎ ヒール‼︎ ヒール‼︎ ヒール‼︎ ヒール‼︎……」
別に声に出さなくても回復魔法は使えるが、声に出した方が、効き目があるような気がしたし、何より目の前でずっとコロスと連呼しているカノンさんの恐怖を少しでも紛らわしたかったからなんだけど、恐怖心は薄れる事はなく。
そして、二人の呪文の言い合いは小一時間ほど続いたのだった。




