第2話 道中で1
「一人旅って、出る前はとても楽しみでワクワクしますけど、いざ出て見れば、一人寂しいだけのものなんですよね〜。
はぁ〜、暇だな〜」
「暇つぶしの為だけに私を呼ばないでもらえませんか?」
フェルトがの反応が冷たい。
「そんなこと言われても、話し相手がいないのは暇すぎますし、元々神託って暇つぶしの為の便利なお喋りスキルでしょ?」
「今神託を暇つぶしの為の便利なお喋りスキルって言いませんでしたか⁉︎ 馬鹿にしませんでしたか⁉︎ いいですかソウジ! 神託とは神の声を聞けるとても神聖な物で、このスキルを手に入れるために普通なら、聖職者となってから、何十年も修行しなくてはならないものんですよ‼︎ それをソウジはタダで貰えたからって、言うに事欠いて、暇つぶしのスキルとは、不敬ですよ‼︎」
本気で怒っている様子のフェルトの説教を聞き。
「でも、神託って、確か先に起る災害とかを伝えるものですよね? でも今はそれができませんよね? ほらただのお喋りスキルじゃ無いですか」
「うっ、確かにそれはそうですが、それでも流石に、この三日で寝るとき以外は常に神託を発動しているのはやり過ぎだと思いますが?」
フェルトの言う通り、俺は王都を出てから今までの三日、寝るとき以外は常に神託を発動しているが、これには致し方ない事情があるのだ。
「それは元を正せば、夜に会ってくれなくなったフェルトが悪いんですよ。
俺の活動エネルギーは、フェルトに合う事で補充されるのに、あの日から一回も顔も見せてくれないし、だからこうしてフェルトの声を聞いてエネルギーの足しにしているんですよ。
もし今フェルトの声まで聞こえなくなったら、そこらに倒れて死ぬ自信がありますよ」
「流石のそれにはドン引きですが、何度も言っていますが、夜にソウジを呼べなくなったのは、私の方では無く、ソウジの方に問題があるんですよ。
私は毎日のようにソウジを呼んでいるのにそれを拒んでいるのはソウジの方では無いですか。
何度も言いますけど、夜のあれも神託と同じような物なので、相手が拒んだらそれまでなんです」
「俺がフェルトを拒むはずないのになぁ」
あの日とは、謎の声が聞こえた日であり、その日からなぜか、フェルトは俺を呼び出せ無くなったらしい。
「ですが、あれを妨害することをできるものなんて、私達神ぐらいですし、本当に心当たりが無いんですか?」
心当たりならあるにはあるが、あの声は思い出すだけでも気分が悪くなるし、あれは自分が見た夢の一部だと解釈しているので、未だフェルトには伝えていない。
「いや、何も無いよ」
「そうなると私にも原因はわかりませんね」
その後も、しばらくその話を続け、簡単に整備されただけの道を歩きながら。
「それで、次の村まではどのくらいの距離なの? いい加減歩き疲れたんだけど」
不意に話題を変えたそんな問いに、フェルトは少し考え。
「今のペースなら、後一日と半日ぐらいですかね」
それを聞いて、足を止め天を眺めながら。
「なぁ〜、なんで飛んで行ったらダメなんだよぉ〜」
「それは、あなたがこの神託をやめれば使っていいと言ってるじゃないですか。
神託も魔法も使って、いざと言う時に戦えなかったではダメですからね。
使うなら、魔法か、神託のどちらかです」
俺は、先の見えない道を見ながら。
「歩くのは嫌だけど、フェルトと話せないのは、もっと嫌だからなぁ〜」
「なら我慢して歩いてください」
嫌そうな声を出しながらも再び足を動かし出そうとしたその時。
「せっかく歩き出そうとしたらこれだよ、フェルト」
索敵に引っかかった反応があった。
「えぇ、分かっています。
これは盗賊ですね、ソウジ何度も言っていますが」
「分かってるよ、殺すなだろ」
フェルトが言うより早く怠そうな声で応えを返し、反応があった方に振り向いた。
「オイ、お前見るからに旅の者の様だが、冒険者も付けずに旅をするとはいい度胸じゃねぇかぁ。
俺たちが言いてえ事は分かるよなぁ?」
「身包み全部剥いで此処に置いて行ったら命だけは助けてやるですか? もういい加減それに付き合うのは面倒なんですよ、見てわかりませんか? こっちとら三日間歩き旅で疲れてる訳、だからあんたらの相手をするのが嫌な訳、分かる? 分かったならさっさと森の中にお帰り」
この旅を始めて盗賊に襲われるのはこれで4回目になる。
王都から離れれば離れるほど盗賊に襲われる頻度が上がって行く。
このままだと、明日明後日と王都から離れるごとに、増える盗賊の襲撃の事を考えると嫌気がさしてしまい、自然に溜息が溢れてしまう。
それが、盗賊達の怒り火に油をかける結果となり。
「馬鹿にしてんのか⁉︎ テメェはこの場で殺す‼︎ お前ら俺達を馬鹿にした事を後悔させてやれ‼︎」
盗賊達のボスぽい奴がいい終わると同時に、こちらに飛びかかって来た。
見える範囲で数は五人、索敵の反応と一致し、伏兵がいない事を確認して、改めて敵の得物を確認した。
剣と手斧が二人ずつに槍が一である事を確認し、最初に飛び込んで来た剣持の盗賊が振るより早く。
「遅えよ」と一言とともに頭部に拳骨を一発。
ドォッン‼︎
死なない程度に手加減した拳骨だったが、打たれた当の本人は地面に顔が埋もれている状況で、それを見た盗賊達の足は止まり、状況を理解したものから逃げようとしていたが、それを囲むように現れた土壁によって阻まれてしまい、唯一土壁がない方からは、ダウンしている仲間の首襟を掴み、引きずりながらこちらによってくる俺の姿があり、一人また一人と命乞いを始め出したので。
「手に持ってる武器を此処に置いて行くなら命までは許してやる」
盗賊達は我先に武器を捨てたので、こっちも土壁を消してやり、逃げようとした盗賊を制し、手に持っていた盗賊を仲間達に投げ。
「次また俺の前に現れてみろ、命はないからな」
と言うと、盗賊達は仲間を担ぎ、蜘蛛の子散らすように逃げて行った。
そして見えなくなるまでそちらを見ながら、森奥に消えた事を確認してから、彼らが置いて行ったら武器を回収しながら。
「たく、余計な手間を取らすなよ」
などと悪態をついていると。
「約束を守ってくれてありがとうございます、やっぱりソウジは優しいですね」
「違いますよ、あんな雑魚殺しても経験値の足しにもならないから逃しただけですよ」
「うふふ、そう言う事にしときますね」
フェルトの微笑みが聞こえただけでも良しとして、武器の回収も終わり、改めて進み出そうとしたが。
「次から次へと、面倒クセェなッ‼︎」
一難去ってまた一難。
反応を確認するために、マップを確認して見ると。
「これは、馬車が魔物に襲われてるってところか」
「そのようですね」
マップには、前を走る生き物の反応が二つと、その後を一定間を保っている人間が二人その事から彼らが馬車に乗っている事が分かり、索敵に反応した犯人がである魔物がその後ろを追いかけ、その距離は少しずつ縮まっていた。
「魔物は・・・てっ、ビックベアーかよ、これはご愁傷様としか言えねぇな」
「助けないのですか」
言われ確認のために、人間の方も見ていたが、どちらも性別が男だったので。
「彼らには申し訳有りませんが、これも運命という事で、諦めてもらいましょう」
と言いながらフードを被り、近くの茂みに体を隠し、隠蔽を発動し身を隠した。
「女性がいなかったから助けないだけですよね? 私としては助けてあげて欲しいのですが?」
「何が嬉しくて野郎なんか助けないと行けないですか? それに冒険者を雇ってない時点で彼らの自業自得ですよ」
「やっぱり女性がいなかったからなんですね、ですが確かにソウジのいう事にも一理ありますね、はぁ〜、彼らには申し訳有りませんが、ソウジが決めた事ならこれ以上何かを言うのも野暮ですね」
渋々ではあるが、フェルトが納得してくれたので、魔物が通り過ぎるのを静かに待ち、しばらくし、馬車と魔物が通りすぎて行くのを確認してからスキルを解除し茂みからで。
「あれだと、後数分もしないうちに捕まるな」
呑気な声でそんな事を言いながら、しばらくこの道が使えない事を確信したので、しばらく此処らで休憩しようと、伸びをし、木陰に行こうとしたが、突如現れた新たな敵性反応に反応する事が出来なかった。
ドン!
俺は胸ぐらを掴まれ木に叩きつけられた。
それは大したダメージではなく顔はフードで確認する事は出来なかったが、焦る事なく空いた手で、敵の頭に狙いを定めて魔法を放ったが、魔法より早く。
「ワンッ‼︎」
犬のような鳴き声が聞こえ、俺の抑えていた襲撃犯はその声に反応し、俺から手を離し距離をとった。
その咄嗟の反応のせいで、放垂れた雷光は敵のフードを軽く霞める程度だった。
俺は相手を見据えたまま、さっきの奇襲と突如現れた二匹の犬型の魔物を警戒し、念には念を入れて、敵に見えないように、マジックバックからエクスカリバーを取り出し腰にさし構えた。
「「グルルルゥゥ」」
こちらを威嚇する二匹の魔物。
「ソウジ気をつけて下さい。あれは、シャドール・ウルフという魔物でかなり厄介な能力を持っていますし、それを二匹も従える彼女は間違いなく今までの敵とは違います」
フェルトの注意に構えたまま。
「そのぐらいさっきの奇襲で分かってますよ、って彼女? フェルト今彼女っていた?」
「何をブツブツ言っている‼︎ 貴様がシン王国の回し者なのは分かっている‼︎ そしてあの魔物も貴様が操っているのだろ! 」
その声は、確かに女性の声だったが、彼女の言っている事は理解できず。
「ちょっと待った! シン王国の回し者? 誰が? 俺が? それにあの魔物って、さっきのビックベアーの事? それを俺が操ってるて? 嫌ないないない、君勘違いしてるよ、俺はただの冒険者で今は旅の途中なんだけど……いやシン王国の回し者てのは当てはまるのか?」
最後の一言は絶対にいらなかったと後悔した。
「やはり貴様が! ならば魔物使いが死ねば魔物も消える‼︎ さくら様のためその命頂戴する‼︎」
言うがはやし、彼女は腰にかけた剣……ではなく刀を引き抜きこちらに飛び込んで来た。
その一撃は早く、どっさに後ろに飛ぼうとしたが、背には木があり、後ろへの後退は出来ないと判断し、横に跳び回避行動を取ったが、完璧に避けきる事は出来ず右頬を掠めていた。
「今のを避けるとは、敵ながら天晴れですが、次は外しません」
「ちょっと待ってって言ってるだろうが」
「シン王国の回し者の言葉になど聞く耳持ちません、では御免」
そして振り下ろされる刀を再び避けようとしたが。
なっ! 体が動かねぇ
体が何かに押さえつけられているかのように体がビクともしなかった。
その間にも振り下ろされる刀。
クソ!と悪態をつきながら咄嗟に魔法を発動したが。
「ワンッ!」
さっきと同じく魔物の鳴き声に反応し、彼女は剣を止め後ろに跳んだ。
だが今回は彼女を狙った訳ではなく。
バァッン! と爆発音と火炎が爆裂し俺を飛ばした。
爆発からうまく着地し、改めて自分の被害を確認したが、さっきの魔法で、左腕は灼け爛れ骨も折れているようだ。
彼女の方を見据え、回復魔法をかけながら、フェルトにさっきの事を訪ねると。
「今のが、シャドール・ウルフの能力の影ぶみと魔力感知です、効果は言わなくてももうわかりますね?」
「あぁ」
簡単に返事を返して、右手を右手で抑えながら立ち上がった。
「貴様は先ほど、自信を冒険者と言っていたが、一塊の冒険者が魔法を使える訳がないだろう、ゆえにその魔法こそが王国の回し者と言う確たる証拠だ」
「だから違うつってんだろうが‼︎ 流石にそろそろ我慢の限界だぞ」
「聞く耳を持たんと言ったはずだ、それに、その口振りでは、まるで今までは本気を出していなかったようだが、こちらも時間がなのでな次こそ必ず貴様の首を断つ」
その言葉が示すように、彼女から放たれる殺気も先ほどまでとは比べものにならない。
「そうだな、次の一撃で終わりにするとしますか」
「ほう、流石に自分の今置かれている状況がわかったようだな、既に貴様は影ぶみで身動きが取れず、私には魔法は当たらない、貴様に勝てる要素などはなから無かったと、では終わりだ、死ね」
三度振り下ろされる刀、そして。
カァァァァッン‼︎
鉄と鉄とがぶつかり生まれた甲高い音、そして彼女の首元に突きつけられる刀。
「なっぜだ……貴様は動けないはずだ」
彼女は信じられないと言った感じだった。
「悪いね、この刀はそう言ったことにめっぽう強くてね、それで、今の状況は理解できるよね」
そんな事を言っているうちにも、先ほどの衝撃でお互いにフードが取れ素顔を晒し、そして初めて見る彼女の素顔は、整った顔と、この世界では自分以外初めて見る黒髮で癖なく真っ直ぐ伸びており、その上ポニーテールときた、お世辞無し綺麗だと思ってしまった。
そんな彼女に見惚れていると。
「くっ! 殺せ‼︎ さくら様も救えなかった私には生きる価値などない」
リアルくっころが聞けたことに喜びを感じてしまったが、改めて見る彼女の顔から流れる涙を見て、とてつもない罪悪感が襲ってきた。
「たく、泣かれたら俺が悪い見てじゃんか」
その言葉が終わると、そのまま刀を下ろし、代わりに傷付いた左手をあげ。
「降参だ、だからもう泣かないでくれ」
「えっ? なっ、何をしているんだ?」
彼女は俺が何をしているのか理解できずにいるようなので。
「だから降参だって言ったんだよ。
俺は出来るだけ女性を傷つけたくないんだよ。
もともとあんたが勘違いしてるだけなんでな、話し合いで解決したいだけだ。
これでもまだ信じられないてなら、これでいいだろ」
手に持つ刀を地面に捨て、改めて彼女を見ると、酷く驚いたようなら顔をしながら。
「貴様は王国の回し者では」
「ない」
「魔物使いでは」
「ない」
「冒険者とでは」
「ある、ほれこれが証明だ」
プレートを見せた。
「まさか全部私の勘違い?」
「だからそう言ってんじゃん」
そう答えると彼女は糸が入れように座り込み、そしてそのまま。
「申し訳ございませんでした! 勘違いであなたを傷つけてしまい、当選謝って済むとは思っておりませんが、今はこれでどうかお許しを、この罰は後で必ず受けますので、どうか今は私を見逃して欲しい」
「ちょっ! 土下座は辞めてよ、分かった良いから許すから、顔を上げて!」
彼女の土下座に焦り、早口になってしまったが、こちらも膝をつき、彼女をさとし。
彼女が顔を上げると。
「かたじけない、では私はこれで」
「それはちょっと待った」
この場から離れようとする彼女の手を掴んだ。
彼女は必死に腕を振りほどこうとしたがそれは叶わず。
「ちょっと落ち着いて、何をそんなに焦ってるか教えてもらえる?」
「貴方様が、違ったのです、ならば急がなければサクラ様が、我が主人さまの命が」
「それって、さっきの馬車の中の人の事だよね、なら教えてあげるけど、今から走っても間に合わないよ、馬車の動きも止まってるし」
「なっなぜそんな事がわかるんだ、まだいそげば間に」
焦る彼女の言葉を断ち切りはっきりと。
「合わないよ」
それを聞いた彼女はその場に泣き崩れてしまったが、俺もさっきの言葉の続きを告げた。
「走ったならね」
「えっ?」
彼女が顔をあげこちらを見た時には、俺はもう構えに入っていた。
「左手の負傷がなければもうちょっと早くできたんだかな。
鷹の目発動、マジックアロー作成、土付加、風付加、雷付加、火付加。
たくよ、男を助けるのは嫌なんだかな彼女の涙を見るよりかはマシなんでなッ!」
言葉が終わり、手を離し、打ち出された、一歩の矢は木々を貫き、目標にあたり、そして。
「爆ぜろ」
その言葉がスイッチだったように遠くから聞こえた爆破音。
フゥ〜と一息つき、弓をしまい落とした刀を拾い、呆気にとられている彼女の方に向き手を差し伸べ。
「行きますよ」
と笑みを浮かべながら、一言声をかけ、彼女が手を伸ばすと、それを掴み、こちらに引き寄せ、そして、彼女をお姫様抱っこすると。
「舌を噛まないでくださいね」
と抵抗する時間も与えず、伝えて地を蹴っり、響く彼女の叫び声と、俺の笑い声が木霊するのだった。




