表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村人勇者の英雄譚  作者: ワカメ
2章 出会いと別れ
52/73

第1話 旅立ち

 リンスさん達との最後の夜から一カ月が過ぎていた。

 俺は歩き慣れた道を歩いていた。

 その先には、ギルドの入口があり、慣れた手つきで扉を開けた。


「おっ! 我らがギルドの若きエースのご帰還だ‼︎」


 と、ドアを開けただけでそんな声が飛んでき、それを初めに、次から次へと声をかけられた。


「クエストはどうだったんだ?」「たまには酒に付き合えよ」などといた声が多かった。


 それに対して、「楽勝でしたよ」「またの機会に」などと返し、カウンターに足を進めた。


 そしてカウンターにつくと「クエストお疲れ様です、ムメイさん」と明るい声をかけてくれた。


「簡単なクエストだったので、疲れていませんよ。

 それより、また虫に驚いてお漏らしをしていませんか?」


「なっ! いつの話ですか! その事は忘れてくださいとお願いしてるのに‼︎」


「はっはっ、ごめんごめん、そんなに怒らないでくださいよ、アナちゃん」


 今、俺の受付をしているアナちゃんは、初めてギルドに来た時にお世話になった人で、その後も何かとお世話になっており、仮面の事などを他の冒険者たちに聞かれた時は、話をそらしてくれたり、さりげなくフォローもしてくれている。


「アナちゃんって! 全然反省していませんね⁉︎」


「もちろん! てっ、それよりこれが、ジャイアント・オーガの牙と魔石です。

 これでクエストクリアでいいですよね?」


「誤魔化さないでいただきたいですが、拝見します」


 と、言うとカウンターの下から、モンスターの魔石や部位を鑑定する道具を取り出して真剣にそちらを睨んでいた。

 この道具があれば鑑定スキルを持っていなくても鑑定が出来るらしい。

 直ぐに仕事の顔に戻れるアナちゃんに関心しながら、鑑定が終わるのをしばし待ち。


「はい、確認しました。

 これでクエストクリアになります。

 そしてこのクエストクリアでランクがBランクになります。おめでとうござますムメイさん」


 その言葉が告げられると同時にギルド内から歓声が上がった。


「たったの一ヶ月でBランクったぁ、恐れ入ったぜ」


「よっ‼︎ さすがは期待のエース、ランク更新記録を塗り替えやがった」


「祝い酒でも奢れ〜」


 などと言葉が飛んでくる。


 それを背に、アナちゃんに苦笑しながら。


「ありがと」


 アナちゃんも嬉しそうに笑いながら。


「では、いつも通り他の素材などはこちらにお願いしますね」


 とおもむろに、人が一人簡単に入りそうな大きな皮袋の口をこちらに向けた。

 俺も慣れたように、クエスト中に手に入れた素材や魔石を全てマジックバックから取り出し流し込んだ。


「んっ! また今回も随分と沢山狩ってきましたね。

 ではこちらも、いつも通り鑑定が終わり次第、宿泊費と食費を差し引いた残り額を現金支払いでよろしですよね?」


 いつもならアナちゃんが言った通り、ギルドの宿代と酒場で食べた食費を差し引いてもらって残った額を貰っているが、今回は少し違った。


「いや、今回は残り額の全てを彼奴らの飲み代にしてやって下さい」


 さっきより大きな歓声が上がった。


「おい聞いたか⁉︎ あのドケチのムメイがついに、硬い財布の紐を緩めたぞ」


「何かの聞き間違いか? あのドケチのムメイが奢るだと⁉︎」


「ドケチのムメイ、オメェ頭でも打ったか?」


 酷い言われようだ。

 てか俺、影ではドケチって言われてたことを知り、少し哀しくなってしまう。


「誰がドケチだ! 誰が! たく、俺だって今日でお前らと会えるのが最後になるかもしれねぇのに、酒の一杯も奢らねなんて事をする訳無いだろ」


 その言葉が終わる頃には、さっきの大歓声が嘘の様に静まりかえっていた。


「あっ、あのムメイさんそれって、ここから、出るって事ですか?」


 代表するかの様にアナちゃんが訪ねて来た。


「最初から言ってたろ、俺の目的は旅をする事だから、ここである程度のランクと資金を手にしたら、ここを出るって」


「確かに聞いてましたが、そんな急に急がなくても」


「そうなんだけどさ、俺も時間がそんなに無くてね、だから旅立つ前ぐらいは、ねっ」


 アナちゃんもこれ以上何も喋らず、また静かな静寂が生まれると思ったが。


「なら今日は、ムメイのランクアップ記念であり、お別れ会って所か‼︎」


「おい皆んな、せっかくドケチのムメイが奢ってくれんだ‼︎ なら奴の旅の資金を全て飲み尽くす勢いで、飲んでやろうぜ‼︎」


 と次から次にへとそんな声が上がり、瞬く間に、大歓声に戻っていた。


「当然私達も飲んでいいんですよね?」


「当然ですよアナちゃん達、受付のお姉さん達も飲んで下さい」


 アナちゃんもそれを聞くと嬉しそうに。


「分かりました、では今回の素材などのお金は、私達の飲み代に回させて貰いますね。

 もし足りなかった時は、ちゃんとムメイさんに請求しますので、よろしお願いしますね」


 と可愛い笑顔を見せてくれた。


「当然ムメイも今日ぐらいは、一緒に飲んでくれるんだよな?」


「いや明日の早朝には、旅立つんでな、今日はもう休ませてもらうよ」


 そんな事を言いながら、片手を軽く振りながら、ギルドから借りている部屋に向け歩き出していた。


「なんだよ、最後まで付き合いわり奴だなぁ、あっ、こっちにも酒のお代わりを樽で‼︎」


 そんな感じでせわしなく酒の注文が飛び交ってい、本気で旅の資金まで飲まれるのでは? と本気で思いながら、その場を後にし、二階にある自分の部屋を目指し、ギルドの階段を上がった。


 そして自分の部屋につくとベットに倒れこんで、仮面を外し、天井を見ながら、下から聞こえた来る騒ぎ声が今は心地の良い子守唄の様に聴こえ、自然に任せる様にゆっくりと目を閉じた。



 コンコン


 どれぐらいの時間が過ぎていたか分からなかったが、ドアをノックする音で目が覚めた。


「またフェルトには会えなかったか」


 そんな事を呟きながら、仮面をつけるとドアの方まで向かい。


「誰ですか?」


 ドア越しに尋ねると。


「私です、アナです、こんな夜分遅く......でも無いですね、この時間なら、朝早くにすみません、少し話があるので開けてもらえませんか?」


「なん・・・だと」


 こんな時間に女の子が一人で訪れる理由を考え、一つの答えを思いついた。


 まさか、俺がここを発つからその前に告白でもしに来たのか? そうなのか?

 それ以外に考えれる事は無いし、告白で間違いないはずだ!

 ふっ、まったくモテる男はつらいぜ。


 そんな事を考えながら、ニヤつく顔をなんとか抑え、ドアを開けた。


「こんな時間にどうしたんです?」


「あのあの、ムメイさんが早朝には発たれると言っていたので、その前にどうしても伝えなきゃならない事が有りましたので」


 モジモジしながらそんな事を言って来るアナちゃんを見て、告白である事を確信し、できるだけ紳士ぽく。


「立ち話もなんですので、中に入りませんか?」


 そう提案したが。


「いえ、すぐ終わるのでここで大丈夫です」


 確かに告白ぐらいなら直ぐに終わるかも知れないが、言うのにはなかなか勇気がいる事だし、直ぐには切り出せないと思うが、アナちゃんがここでいいのならと、それに従った。


「あのこれを、どうぞ」


 一枚の紙を渡された。

 はぁっはぁん、なるほど確かに手紙なら渡すだけでいいから、確かに直ぐに終わるな、と納得し、告白にラブレターを書くなんて愛い奴やの〜、なんて事を思いながら、月が沈み、僅かに顔を出す朝日の光と、怪しく揺れる蝋燭の火を頼りに手紙を見た。


 そこには、ハッキリとこう書かれていた。


 請求書

 酒代・二十金貨


「えっ?」


 目にゴミでも入ったかなぁ?


 ゴシゴシ


 目をこすりもう一回見たが。


 請求書

 酒代・二十金貨


 結果は変わらなかった。


「では、こちらにお願いします」


 アナちゃんはいつもの笑みで、手には小袋が用意されていた。


 俺は引きつった笑みで、金貨二十枚を小袋に入れると。


「では確かにいただきました。

 ムメイさんはこのまま発たれますか?」


「うっ、うんそうだね、いろんな意味で目も覚めたしこのまま発つ事にするよ」


「分かりました、では受付嬢を代表して。

 またのお越しを楽しみしておりますムメイさん」


 満面の笑みでそんな事を言われ。


「あ、ありがとう」


 と引きつった笑みのまま返し。


「ああ、あと言い忘れてましたが、下では他の方達が眠っておりますので、静かに出てくださいね。

 では、失礼しますね」


 それを最後にアナちゃんは自分の部屋の方に消えて行った。

 最後までそれを見送り、手っ取り早く支度をし部屋を出た。


 その後一階につくと、アナちゃんの言う通り、他の冒険者達が彼方此方に倒れていびきなどの四重奏を奏でている道で、足元に気おつけながら進み、扉まで着くと、そこらに転がる冒険者達を恨めしそうに睨んでから冒険者ギルドを後にした。


 そしてそのまま、王都から出て、周りが木々だけになった所で。


「そんな事だろうと思ってたよ‼︎ コンチキショォォォォォ‼︎」


 一人の少年の叫び声が、何も無い木々の中をこだました。

遅くなりすみません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ