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村人勇者の英雄譚  作者: ワカメ
一章 王国生活
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第51話 最後の夜

 日は落ち、あたりを照らすのは小さく揺れるランプの火だけ。


「さってっと、フィリス達はちゃんと待っててくれてるかなぁ〜」


 そんな呑気な声を出しながら、資料館の扉を開いた。


「あっ、ソウジ様お待ちしましたよ」


 扉がまだちゃんと開いていないのに、フィリスはこちらに駆け寄っていた。


 その後ろからは。


「おかえり、大丈夫だったかい、ソウジ君」


 と、落ち着いた声と、それと同じぐらいゆっくりとこちらに歩み寄って来た、リンスさん。


 その二人に対し。


「遅くなって、すみません。

 それで、俺、明日にはここを出て、しばらく帰れませんので、最後にどうしてもリンスさんにお礼を言いたくて。


 あっ、後フィリスも」


「私はついでなんですか⁉︎」


 フィリスが驚いたような声をあげていたが、スルーし、いつもの席に向かおうとしたが、リンスさんに止められ、案内されたのは、昨日と同じ、リンスさんの自室だった。


 そこには、肉などが多く並び、酒が置かれた机があった。


「今日が最後の夜なのでな、ぱあ〜、とやろうと思うてな。

 ほれ、せっかくのご馳走が冷めてしまうぞ、早く席についたついた」


 言われるがままに席に着き、挨拶をし、ご馳走を口に運んだ。


 その料理たちは、今まで食べた物の中で一番美味しかった。

 そのせいか、一向に手が止まらなかった。


 そんな俺を、リンスさんは嬉しそうにみながら。


「ソウジ君、酒も飲みなさい、これは、なかなかの一品じゃぞ」


「うっ、俺まだ未成年なんで酒は飲めないんです、すみません」


「安心せい、そっちの世界がどうかは知らないが、こっちの世界では、十五歳から立派な大人じゃ、だからほれ」


 もう既に酒が回っているのか、リンスさんの顔が少し紅かった。


 そして言われるまま、グラスを向けると、ワインに見えるお酒を注がれ、しばらく時間を置いてから口に運ぶと、ほんのりと香る、果物の匂いと、甘酸っぱさと後から苦味が襲って来たが、案外嫌いではなかった。


 勢いよく飲み干すと、再びリンスさんの方にグラスを向けた。

 リンスさんも嬉しそうに二杯目を注いでくれた。


 その後は、たわいもない会話などで盛り上がったり、リンスさんから、「プレゼントだ、今後の君の活動に役に立つはずだ」と言われ、目のラインを隠せる、社交界などでつけるような仮面を渡された。

 確かに仮面はいずれ欲しいと思っていたので、お礼を言い受け取った。


 そして今回の飲み会も、フィリスが酒に負け、眠ってしまったので、そこで終わりになった。


「儂もそろそろ寝るとするが、ソウジ君はいつ頃ここを出るんだい?」


「明け方にはここを出るつもりなので、リンスさんが起きた時には、もう居ないと思います」


「そうか、ならこれが最後のお別れの挨拶になるな」


 そう言うと、リンスは優しく俺を抱きしめ、優しい声で。


「また儂に元気な顔を見せに来てくれるか?」


「当然、一年後ぐらいに、元気な俺の顔を見せてあげますよ。

 そして、その時は、リンスさんも一緒にこの国から出ませんか?」


 そんな問いかけに、嬉しそうな声で。


「確かにそれは名案だが、儂は先王からこの国の事を任されているのでな、それは出来ぬが、もし誰かに攫われたのなら、それも仕方あるまいな」


「その歳で、お姫様願望とか笑えませんよ」


「そうか、儂はいつでも、夢見るお姫様だがな?」


 そして二人は堪えられなくなり、笑い始めた。

 笑い声はしばらく続いた。


 そして笑い声は止み。


「それでは、先に休ませていただくよ、お休みソウジ君」


「お休み、リンスさん」と告げると、リンスは奥の寝室にいってしまった。


 そして、静まりかえった部屋で、再び椅子に腰を下ろし、目の前で、うつ伏せで寝ているフィリスに目を向け、自然に伸びた手がフィリスの頭を優しく撫でていた。


「この国から出る時は君も攫って行くから覚悟をしとけよ。


 お休みフィリス」


 リンスさんには明け方といっていたが、俺は今直ぐに出て行くつもりだったので、これで良かったと、自己満足に浸りながら。


 撫でていた手を、そっと離した。


 キュッ


 引いていた手を誰かに握られた。


「それは本当ですかソウジ様?」


「起きてたのかフィリス?」


 フィリスは「はい」と簡単に返事を返し、また同じ様な質問をして来た。


「本当に私も攫ってくれるんですか?」


「起きてるなら起きてるっていってくれよ、恥ずかしい」


「誤魔化さないで下さい、本当に攫ってくれるんですか?」


「たく、ほんとだよ、君も攫っていく」


「本当の本当に?」


「本当の本当だ、何度も言わせないでくれよ、恥ずかしい」


 そう言うと、握っていた手を強く引かれ、バランスを崩した俺は、受け身を取ろうと机に手を突こうとしたが、気が付けば、目の前にはフィリスの顔があり、そして、二人の唇が触れ合った。


 最初は早く離れなければと抵抗しようとしたが、体から力が抜けて、抵抗することが出来なかったが、時間が経つにつれこれも悪くないと思い始め、抵抗する事なく、フィリスを受け入れた。


 そして二人は唇を離した。

 それは永く続いたと錯覚してしまうほどに甘い体験だった。


 フィリスは酒のせいかは分からなかったが、顔が朱に染まり、そして。


「私、待ってます、いつまでもソウジ様が攫ってくれるのを。

 だから、気おつけて、行ってらしゃい」


「あぁ、待っててくれ」


 俺はそれだけ告げると、身をひるがえし歩き出し、資料館から出ると、魔法を発動し、空をかけた。


 必ず二人を迎えに来ると、強く心に刻み。



 そんなソウジの姿を見ながら、ある者は小さな声で。


「神に魅入られた者には、生き方を変える大きな災いが襲いくる。

 それは、自身の大切なものからゆっくりと、自身の心を壊す様に、だったかな。

 どうやら君との約束は守れそうにない、すまないソウジ君」


 こうして、最期の夜が終わった。

投稿を一カ月ちかく開けてしまい、申し訳ありませんでした。

次話もいつになるか分かりません。

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