第48話 決意
「ハッ‼︎」
「キャ‼︎」
俺は、一息はくと同時に顔を上げていた。
そしてそのまま荒い呼吸を繰り返しながら、さっきの声の主が何だったのか、一瞬だけあれの正体が見れた様な気がするが、思い出す事ができない、それに思い出そうとすれば、頭が痛む。
まるで思い出す事を拒んでいるような感じだった。
俺は、机に肘を乗せ、その手で、片目を抑えながら、ゆっくりと呼吸を整えようとしていると。
「あっ、あのぉ、大丈夫ですかソウジ様?」
その声を聞いて、起き上がった時に小さな悲鳴が聞こえていた事を思い出し、そちらを向くと、約束のフィリスがそこに、心配そうな顔で立っていた。
「大丈夫ですよ、ちょっと怖い夢を見ただけです」
と伝えながら、立ち上がろうとしたが、うまく足に力が入らず、そちらを見れば、小刻みに震えていた。
そんな無意識の足の震えを、両手で押さえつけていると。
「本当に大丈夫なんですか? すごい顔ですよ?」
言われて、光の差し込む窓を見ると、そこには薄っすらと自分の顔が映り、自分でも驚いた。
そこには、一日ではありえないくらいに窶れた自分の顔があった。
そんな自分の顔を見ながら、自傷気味に小さく笑い。
「たかが夢でここまで怯えるとかバカかよ」
と小さく呟き。
パッーン
自分の両頬を叩いていた。
「よっし、もう大丈夫! おはようフィリス、でっ急で悪いんだけど、顔を洗いたいから、水場まで案内してくれない?」
勢いよく立ち上がっていた。
「はっ、はい、わかりました、水場まで案内させていただきますね」
フィリスも驚いていたようだったが、直ぐにいつもの様に案内を開始してくれた。
資料館からでる際に、リンスさんがいなかった事に気がつき、フィリスに尋ねて見たが、フィリスも、分からないらしく、首を横に振っていた。
挨拶をしときたかったが、いないなら仕方ないと、納得し、水場までフィリスについて行き、水場に着くと、簡単に歯磨きや顔を洗い、少し離れていた所で見守っていたフィリスの下まで戻った。
その後、何もする事がないので、資料館に戻ろうとしていたが、運悪く、俺を探していたらしい兵士さんに捕まり、案内されるままついて行き、そしていつもの食堂の前まで来ていた。
「ここに来るの嫌なんですが」
と俺は、兵士に不満をぶつけたが、兵士さんは、「至急の要だと、王様がお呼びですので」としか返してくれないので、嫌そうな雰囲気を全面に出しながら、食堂にへと足を踏み入れると。
「いやいや、最速してしまいすまない、だがこちらも大事な用のため、許してくれ」
俺が入るや否や、エルスの声が飛んで来た。
「わざわざ呼び出すなんてよっぽどのことなんですよね? 言っときますけど、俺は今日、夢見が悪かったおかげで機嫌が悪いので、これで、つまらないことだったらキレますよ」
これは、割と本当の事なので、つまらない事ならどうしてやろうかなどと考えていたが、エルスの話はどうやら、宝物庫の件だったので、俺も大人しく、いつもの席に腰を下ろした。
「では、ソウジ君、急で済まないんだが、宝物庫の事なんだが、それは、この話が終わってすぐでもいいかね?」
この後すぐとは、急過ぎるが、特に断る理由も無いので承諾し、そのまま宝物庫に向かおうとしたが、エルスに止められてしまった。
「まぁ、待ってくれ、まだ話したい事があるんだ」
「俺には、話したい事が無いのでお断りします」
と返したが、「今後の事だ」と言われたので、しぶしぶ足を止め、エルスの次の言葉を待った。
「ソウジ君は今後どうするつもりだい? 君には契約で、一年間の自由があるが、君はこの世界のお金も無いはずだ、だからこちらもお金を渡そうとは思っているが、何に使うか分からないのは怖くてね、なのでお金を貸す条件に君の監視と今後の活動について教えるって、言うのはどうだろうか?」
また俺を下に見ている様だが、奴の言い分は、俺が金を必要としていればの話なので、はっきりと。
「いや、お金は入りませんよ、自分で稼ぎますし、それに監視と行動を聞くのって、契約違反だと思いますが?」
お金を入らないと言われたのが予想外だったのか、エルスはしかめっ面を作りながら。
「あぁ、確かにソウジ君の言う通り、契約ギリギリの提案かもしれないが、だが、なら、君はどうやってお金を稼ぐのだい? 正直、君の様な身寄りの無いものなく、この世界にも疎い者を雇うような所などそうそう無いぞ・・・まさか」
「多分、王様がいま思っている事は正しいと思いますよ」
その返しにしかめっ面から呆れたような顔を作り。
「バカな事は考えない方がいい、君の世界でも似たような物があったのかもしれないが、この世界での、あれの利点など、国の行き来の時に、入国検査をしなくても良いくらいなものだぞ、だが君は契約でこの国から出る事は出来ないから、その唯一の利点も無くなってしまう、だから悪い事は言わない考え直したまえ」
それは、俺が契約に縛られていたらの話なので、今の俺には関係ないし、俺は端からこの国から逃げ出すつもりなので、これほど都合のいい職は無い。
それにこれは、異世界に来たらお約束見たいなものなので、なんと言われても辞めるつもりは無いので、はっきりと弾むような声で。
「いえ、なんと言われても俺は、冒険者になります。
これは絶対です」
そんな俺の発言を聞いたエルスは心底呆れたように。
「はぁ〜、君は本当のバカなのか、移動も出来ない冒険者など、ギルドの命に逆らうことの出来ない奴隷の様な者だぞ、それでいいのか?」
その事も、ちゃんとフェルトから聞いている。
冒険者は皆、冒険者ギルドに入り、基本的に民からからの依頼を受ける様になっているが、時たまに、魔物などが異常発生した時には、ギルドから緊急の依頼としてその場にいる冒険者は強制で駆り出されるらしい。
それも覚悟の上だし、エルスは言っていないが、冒険者にはもう一つの利点がある、それはダンジョン攻略を自由にする事が許されている。
だから、今後の為に冒険者は絶対条件なので、またはっきりとした声で。
「絶対だと言ったはずですが? これ以上この話を続ける様なら契約違反だと思われても仕方ないと思いますが?」
そこまで言った所で、エルスが少し苦しみ始め。
「分かった、これ以上は止めない」
それを言うと、エルスは数度、大きく呼吸を繰り返し。
「もう、ギアスを使いこなしているとは驚きだよ、それもリンスから聞いたのかな?」
「いえ、なんとなくですよ」
と適当に返して、改めて自分の意思表示をした。
「俺は、この後の武器選びが済み次第、冒険者登録をし、明日から冒険者として働くため、こちらには、期限ギリギリまで戻って来ませんのでその用に」
と伝え、宝物庫に向かおうと足を動かした。
その間に、背後から、エルスが宝物庫の事で色々言っていたので、軽く手を挙げ返答を返して、もう二度と来ないだろう食堂を後にした。
そして、俺は新たに始まる異世界生活に胸を躍らせながら、歩いて行った。
この話で、一応の一章は終わりで、後少しある話は、閑話で書きたいと思っています。




