第47話 昔話2
遅くなりすみません
「日丿輪 総司となりどこか分からない所に飛ばされた俺は、特に何もする事がなく、自分で何をすれば分からず、自分の存在意義が本当にわからなくなりましたが、それでも最低限の食事などはとっていました。
そんな生活をしている時に、ふっと目に入ったのが、テレビで、俺は生まれて初めて、テレビを見てみる事にしました。
正直、あの時の自分は、テレビとかは庶民の娯楽と思っていて、俺はそんなものを見るのは無駄だと思っていました。
予想どうり、たまたまついたチャンネルでは、子供向けのアニメが放送されていて、内容も幼稚で王道、何が面白いのか、まったく分かりませんでしたが、気づけば俺はそれが終わるまで、見続けていました。
俺もそれで終わりと思っていましたが、気づけば、無意識の内に続きを楽しみしている自分がいました。
そして、翌週も気づけば、そのアニメを見ていました。
俺はそのアニメが生きる楽しみになっていました。
今となっては、誰かを救うために、どれだけ倒れても、それでもくじけず、努力して、そして最終的には勝つって感じの、正義の主人公がでる、子供向けの王道アニメのどこに惚れ込んだのか分かりませんが、それでも、生きる希望になったのは確かな事なんです。
そして、少し端折ると、そのアニメをから始まり、俺は様々なサブカルチャーをする事により、今の俺になりました。
以上! 終わり」
俺はフゥ〜と一息しながら、自分の過去をちゃんと伝えられた、達成感に打ちひしがれていた。
「少しどころか! かなり端折りませんでしたか⁉︎ さっきまでかなりシリアスな感じだったのに! 私は、ソウジが端折った部分の説明を要求します‼︎」
「いやぁ〜、そこはどうでもいいかなぁ〜、と思うんですが?」
話せって言われても、端折った部分は俺がニートになるまでの話だから正直話したくないだけなんだよね〜。
「どうでも言い訳ありません‼︎ だってそこを知らないと、今のソウジの事が何も全く分からないままなんです‼︎」
「いやそんな事は無いと思いますよ? そのアニメのおかげで今の俺になったってだけじゃ無いですか?」
「そんな事あります! だって効かないままだと、私のソウジのイメージが根暗ひねくれ野郎になっちゃいますよ⁉︎」
うっ! 結構胸に刺さるものがある。
「分かりましたよ、話せばいいんでしょ?」
「はい、お願いします」
フェルトの返事を聞き、渋々ながらも話出した。
「えっ〜と、でっ、そのアニメにはまった俺は、その作品のゲームがある事を知り、早速やって見る事にしました。
んで、案の定どはまりしまして、そのゲームってのが、オンライン限定アイテムや、追加でクエストなどの配信がある事を知ったので、ネット回線を設置し、初めてオンラインでやったんですよ。
そしたら、その中だと誰も俺を特別扱いする人がおらず、むしろ罵倒されることの方が多かったんですよ。
普通は、そんな事されたら嫌になりますが、俺は逆で、嬉しかったんですよ」
「えっ! ソウジってドMだったんですか⁉︎ ロリコンでドMって、もう手の施しようが無いレベルの度し難い変態じゃないですか」
いきなり話の腰を折られた。
話せって言われたから話したのに、いざ話したら、変態扱い、これってひどくない?
「話の邪魔をするなら、これで終わりにしますよ?」
と伝えるとフェルトは申し訳なさそうに。
「すみません、もう余計な事は言わないので、続けて下さい」
それを聞いて、続きを話しはじめた。
「嬉しかったって言うのが、罵られて嬉しかった訳じゃなく、俺を一人の俺として見ていてくれた事なんです。
特別視せず、向き合ってくれた、俺はそれが嬉しかったんです。
当然それが、現実の俺に対することではない事は分かっていましたが、それでもうれしかったんです。
だから俺は、ゲームやそう言った物にはまって行き、父から送られてくる、一人暮らしには少し多いいぐらいのお金は、そのほとんどがそう言った物に消えて行き、そして俺は、世で言う、廃人ゲーマー件、自宅警備員になったって訳です。
これで、終わりです。
あっ! 後これは、この際なのでついでに言いますが、俺がフェルトを好きになった理由は、現実の俺の名前を普通に呼んでくれたからなんですよ」
「えっ、そうだっんですか・・・ってそれだけなんですか⁉︎ ソウジが私のことを好きになった理由は、しかもそれをこのタイミングで言いますか⁉︎」
「いや、このタイミングを逃したら、二度と言えない気がしたので、テヘペロ」
それに嘘偽りはないと、自分で確信が持てる何かがあった。
それに対するフェルトの反応はと言うと。
「今のは、ちょっとイラッとしました。
なので今度は、最後の所を詳しく教えてください」
そう言われる事は予想できていたので、片手で頭を掻きながら。
「実は俺、この世界に呼ばれ、力が無いと分かった時、心の中では喜んでいたんですよ、だって、何にも無い俺なら、特別視せず接してくれると思っていましたので。
まぁ、結果は様付けのままでしたが、だからですね、フェルトが初めて、俺の名前を、特別扱いもせず、呼び捨てで呼んでくれた時は、心のそこから嬉しいと思い、同時に恋にも目覚めったって話です。
他人から見ればその程度の話、童貞特有の病気だと思われると思いますが、俺はこの気持ちが間違いだとは思っていません」
俺はちゃんと想いを伝える事が出来ただろうか?
そんな事を考えていると。
「そうですか、これでやっとソウジの事がちゃんと分かった気がします。
ソウジは自分の事を、心の無い傀儡と言っていましたが、私はそうは思いませんよ?
だってソウジは、あの時、妹を守るために男に飛び込んだのでしょ? 自分だって本当は怖いはずなのに」
「いや、だからそれは多分、父に言われた言い付けを守っただけだと思いますよ?
それに心が無かったからこそ男に飛び込む事が出来たんだと思いまし?」
正直フェルトが何を言っているのかわからなかった。
「ならなんで、ソウジはフィリスをかまったのですか? ソウジは今も心が無いと言っていますが、それなら、何の言い付けもないフィリスをかばう必要は無いと思いますが?」
「それは、フィリスが彼奴らの身勝手な理由で責められていたからで」
「そこですよ、ソウジ! 心が無いなら、そこで何も感じないはずなんです。
でもソウジはそこで、怒りをおぼえ、フィリスをかばいましたよね? それって心が有るから出来る事だと思いますし、その事から、ソウジは誰かの為に行動の出来る優しい人だって思う事だって出来ますよ」
フェルトの言葉はとても嬉しかったが、それで、俺が人を殺したという過去が消える訳じゃ無い。
「でも、俺は男を殺したんですよ、笑いながら」
「確かに、ソウジが過去にした事が消える訳ではありませんが、それは過去の事です。
だから私は、ソウジにはこの世界で、第二の人生を歩んでもらいたいと思っています。
幸いこの世界で、ソウジの過去を知るのは私だけですしね。
これが自分勝手な意見なのは分かりますが、でも私は、ソウジには過去ではなく今を見て、誰にも優しい、いつもみたいに明るいソウジでいてもらいたいんです。
それに今でも過去の事を悔やんでいるのなら、それ以上に、誰かを救っていけばいいんですよ。
だから、そんな辛そうな顔をしないで下さい」
辛そうな顔?
それを言われて気づいた、自分では平然を装っていたはずなのに、目からは涙が落ちていた。
「何ででしょうかね、勝手に涙が出るんです」
「それが、ソウジに心が有る証明です。
だから、貴方は、きっと憧れていた、アニメの主人公みたいな、優しい人になれるはずです。
だから、もう過去は見ず、今を見なさい、そして優しい勇者になって下さい。
ふぅ〜、そろそろ時間ですね、まだ話したい事はいっぱいありましたが今日はここまでみたいですね、では最後に、ソウジこれだけは覚えておいて下さい。
貴方は決して一人では無いと」
その言葉をスイッチにしたように、いつも通り、視界が歪み始めた。
だが俺も最後にフェルトに伝えて置きたい事があった。
「もし、フェルトの言う通りになれたとしても、俺は目的の邪魔をする者は、きっと彼奴らと同じ様に殺してでも、目的を達成します、だから俺は決して、優しい勇者にはなれませんよ」
「そうですか」
その声はどこか哀しそうに音色だった。
そしてそれを最後に目の前が暗転した。
いつも通りこのまま意識を失い、目が覚めるのを待ったが、目の前に広がる闇は、一向に消える気配はなく、そして。
「ヤットミツケタ、オレノヨリシロヲ」
その、背後から聞こえた、全身の毛がさかだつ様な、粘着質の声から少しでも早く離れようと振り向いたところで意識を失った。




