第四話 村人召喚
「ではここに、手をかざして、しばらく待っててください」
アリシアに言われた通り、台に置かれた、一枚の紙に手をかざした。
すると、紙が光り出した。
「これでいんだろ⁉︎」
「なんでちょっとふててるんですか⁉︎ 全部悪いのは、あなたでしょ⁉︎ 私も、お母様に怒られるし、散々ですよ!」
「んなぁこと俺が知るか! だいたいなぁ、全部俺が悪いって言ってけど、あんたが、すぐに殴らなければ、怒られずに済んだんじゃねえのかよ⁉︎ 本当に、体も胸も小さっけりゃ、器も小さいってこったな!」
「本当にあなたは、私を怒らせるのが、得意なようですね!」
「そうやって、すぐ切れるところが、器が小さいって言ってんだよ!
ちったぁ、母親や、そこにいる、エミュさんを見習えよ!
まぁっ、見てくれは無理だと思うけど、プゥクスクス」
「もう我慢の限界よ! この場で、私を侮辱したことを、後悔させてやる!」
アリシアが、近くにいた兵士から剣を抜き取り、襲いかかろうとした。
それを、エミュさんが必死に抑えてくれていた。
言い忘れたけど、エミュさんは、グリシア様の、そば付きのメイドで、気絶していた自分を回復魔法で癒してくれた、落ち着いた感じの、天使のようなお姉さんだ。
「お嬢様! 落ち着いてください、そんな事をしても、身長も胸も大きくなりませんよ⁉︎」
「エミュまで⁉︎」
あっ、言い忘れたけど、エミュさんは結構な天然である。
「いい加減にしなさい! アリシア」
グリシア様の、鋭い声に、アリシアはビックっと反応し、すぐに静かになった。
ザマァないぜ。
「もっと、言ってやってくださいよ、グリシア様」
「勇者様、貴方もです!」
「えっ? 俺も? なんで?」
「勇者様、アリシアだって、一応、女の子なのですから、身長や胸のことを言うのは、失礼なことです、だからアリシアが怒るのは納得のいく理由ですよ」
「あれ? お母様、いま、一応女の子って言いませんでしたか?」
「言ってませんよ?」
グリシア様の言う通りだ。
アリシアだって、一応は、女の子なんだから身長や胸のことを言われるのはいやだよな。
「すみません、俺が間違ってました」
「分かってもらえれば良かったです、ですが謝る相手が違いますよ?」
そう言われ、アリシアの方に体を向け。
「すまん、言いすぎた」
「今更謝っても、許しません」
そうだよなぁ、今更謝っても許してもらえないのかぁ。
別に良いけど。
「アリシア、勇者様も反省して、謝罪を口にしたのですから、許してあげたらどうです?」
「うぅ〜、お母様がそお言うのでしたら、許しますけど」
「それに、殿方は皆、好きな相手に、ついつい意地悪をしたくなるものなんですよ、だから、勇者様も、アリシアに一目惚れして、意地悪をしたのかもしませんよ?」
「えっ⁉︎」
アリシアは、顔を真っ赤にしてこちらを見つめてきた。
「そうなんですか?」
「それは、絶対にないから安心して」
「そこは、ちょっとぐらい悩みなさいよ!」
また、アリシアが騒ぎ出したところで、ステータス更新が終わった。
「どうやら、終わったようですね、それでは、見せてもらってもよろしいでしょうか」
「構いませんよ」
手元にある出来たてホヤホヤのステータス表を、グリシア様に手渡した。
「ありがとうございます、では失礼して」
グリシア様が、ステータス表を手に取ると、その周りに、アリシアやエミュさん、あと兵士達が集まって、ステータス表に目を向けていた。
だがすぐに、グリシア様は困った顔をした。
「何かありました?」
「すみません、これは、なんと読むのですか?」
グリシア様がステータス表をこちらに向け、指を指していた。
そこには、〈日丿輪 総司〉と自分の名前が書かれていた。
「えっとですね、これは、ヒノワソウジと読みます」
「そうなんですね、ありがとうござい勇者様」
そう言えば、確かに俺まだ名乗ってなかったな。
そうして、グリシア様は、再びステータス表に目を向けた。
「なんか自分の、プロフィールを見られてるみたいで、照れますね」
冗談を言いながら、皆を見ていることにした。
だが、すぐに皆の顔色が変わった。
それは、一瞬の出来事だったが、俺はその顔を忘れることが出来なかった。
あの顔は、なんだったかなぁ?
あぁ、そうだ、あいつらと同じだ、失望した時の顔だ。
そして、なるべく自然を意識して。
「また何かありましたか?」
グリシア様に尋ねた。
「いえ、あのぉ、そのぉ」
グリシア様にしては、珍しく、歯切りが悪い。
やっぱり、何かあったのだろう。
しばらくの間、考え困った顔をしていたが、決心が付いたのだろう。
「こちらを見ていただけますか?」
そお言われ、自分のステータス表を差し出してきた。
それを受け取り見ることにした。
ステータス表はこう書かれいた。
名前〈日丿輪 総司〉
年齢〈18〉
性別〈男〉
ここまでは問題ないな。
なら問題はこの後か。
職業〈村人〉LV1
体力〈1000〉
魔力〈0〉
力〈34〉・俊敏性〈45〉・運〈10〉
村人が気になるが、この数値が高いかわからないから、置いとくとしよう。
次の行を見た。
〈スキル〉
〈言語理解〉〈文字理解〉
このスキルのおかげで、言葉や文字がわかるのか。
他には、何もないなぁ。
個人的には、ここでチート級のスキルが欲しかったなぁ。
まぁ、自分が見ても、強いか強くないのかわからんし、聞いてみるか。
「これの、どこに問題が?」
グリシア様達は、困った顔で、周りと相談しだし、グリシア様が代表して、こちらによってきた。
「えっとですね、勇者様は、職業覧を見られましたか?」
「村人でしたよね」
「はい、本来ならそこに、〈勇者〉と入るはずなのですが、勇者様の場合は、そのぉ、大変言いにくいのですが、最弱職の〈村人〉何です。
正直言いますと、〈勇者〉と〈村人〉だとステータスに、10倍以上の差がつきます。」
あぁ、納得した。
そりゃぁ、勇者召喚をして、勇者じゃなく、村人だったら、困るわな。
でも、もしかしたら、ステータスは、すごいとか?
「でも、ステータスは、良かったりしませんか?」
「それは、〈村人〉の中では、トップクラスだと思いますが、そこにいる、エミュや兵士を同レベルと考え、比べると、遥かに低いです」
「スッ、スキルがすごかったり?」
「このスキルは、勇者召喚された、異世界の人、全員が持っているスキルです」
あぁ、終わった。
俺の異世界での勇者業が、始まる前に終わった。
それは、失望もしますわな。
「これは、言わない方が良いと思いますが、勇者様はこの中で一番弱いです。」
「グッハァッ」
硝子の心に、言葉の右ストレートがクリンヒットした。
そして、力無く地面に倒れこみ、嗚咽を漏らした。