第34話 ギブル
今回はギブル視点です。
俺は始めてみた時から彼奴が気に食わなかった。
彼奴の話す事全てが上っ面のだけのように聞こえ、全てを見透かしたように、それでいて見下しているかのように。
だから俺は、王に彼奴に会わないように進言した。
王は、心配しすぎだと言ったが、それでも言い続け、そして王も納得し昼食の席を外してくれた。
もちろん夕食も共にする事を、辞めるように進言したが、王はしつこいと怒り、夕食の席に向かって行った。
だが運良く、彼奴は負傷して、この食堂には顔を出さなかった。
俺は安堵した。
けれど次の日の朝食は一緒だと聞き俺は焦った、王は俺の言葉に耳を貸さなかったからである。
俺も諦め、何かあれば俺が対象すればいいと思い、王と共に食堂に向かった。
だがその途中で、エミュが王の前に現れ、「師が魔法を使えなくなりました」と衝撃的な事を口にした。
それを聞いた王は、食堂に行くのを辞め、エミュの師であるパラケス・レクレールがいる医務室を目指し、朝食も後で取ることになった。
俺はこのまま何事もなく、彼奴が魔物討伐と言う名の死刑台に運ばれる事を願った。
だが、その願いは儚く消え去った。
俺が王の命令で、王妃がいる食堂を目指している時だった。
俺は見てしまったのだ、負傷し一人ではまともに動けないと報告されていたはずの彼奴が、まるでその負傷は、はなから無かったかのように、それでいて、魔法でも使わなければ出来ないような、跳躍をしたのだ。
その時の彼奴の顔は笑っていた。
俺は、汗が止まらなかった。
それは、彼奴の異質な力を見てしまった性だと思った。
俺は、王の元に急いだ。
そして見たもの全てを話し、今すぐ俺に彼奴を殺すよう、命を下さいとお願いした。
だが王は、呆れたように鼻で笑い、隣にいた、エミュまでもが憐れみを込めた目でこちらを見ていた。
それは耐え難い屈辱だった。
だが、俺の使命は王を守ること。
ならばと、俺は王に彼奴が魔物討伐に向かうまで、会わないで下さいとお願いした。
王は、「なぜ儂が、あの小僧から、逃げるような真似をせねばならぬのだ?」と怒りのこもった声で言うと、この場を後にしようとした。
だが俺も引き下がる事は出来なかった。
俺はこの場を後にする、王の前に再び立つと、なんのためらいもなく、両膝を地につけ、頭のこうを地面につけた。
それには王も驚いていた。
そして王は渋々といった感じであったが、彼奴には会わないと約束をしてくれた。
その後、俺は再び王妃の元に急いだ。
そして、食堂入り口に辿り付き、その扉を開けると、そこには異様な光景が広がっていた。
まず最初に目に飛び込んできたのは、テーブルに両手を付き、顔を蒼白にし、荒い呼吸を繰り返していた王妃だった。
すぐに王妃に駆け寄り、改めて周りを確認すると、王妃の様な症状の姫やメイド達の姿があり、その中で最も酷かったのが、兵達だった。
彼らは尻餅をついたまま、立ち上がろうともせず、屈強であるはずの王国の兵士が、あろうことか、ズボンを濡らしていたのである。
俺は王妃に事の全てを聞こうとしたが、王妃は荒い呼吸を繰り返すだけで、何も言えそうな状態では無く、諦め王妃達をエミュのいる
医務室に運ぼうとした時、王妃は微かな声で「ソウジ」といったのである。
それを聞いた途端、俺にも金縛りがかかったかの様に他の者同様に動けなくなった。
この場の全てを彼奴がしたとなると、俺たちはとんでもない者を敵に回したのではと思ってしまったからである。
その後なんとかその思考を、遮断し、他の者を呼び王妃達を医務室に運ぶ事が出来た。
そしてその様な王妃の姿を見た王は、始めて事の重要性を理解した様だった。
全て、彼奴が来てから、おかしな事が起こり出した。
発端はアシスの回復魔法からであった、その時は何か別の何かだと思っていたが、今日になり、アシスと同じ症状の者が多くこの医務室に運ばれて来ていた。
王は、影の騎士団を呼び出し「彼奴を確実に殺せ」と命を出した。
ならば、俺が行けば、と提案をしたが、王は見えない何かに怯える様に「貴様が入っては! 誰が儂を護る⁉︎」と声を荒げた。
その後、王を自室にまでお連れし、彼奴が魔物討伐に向かったと言う報告を待つことにした。
しばらくすると、その報告は来た。
それに奴が、毒入りの昼食もちゃんと食べた事も分かった。
王はそれを聞くと上機嫌に笑い出したが、俺は胸に引っかかる何かのせいで笑う事も出来なかった。
そして時間は過ぎていき、夕食の時間が来た。
王は、上機嫌で食堂を目指していたが、俺は未だに帰って来ない、騎士団が気になり、王にその事も伝えたが、王は「少し帰りが遅れたくらいで心配しすぎだ」と言い、そのまま歩みを止める事なく食堂を目指した。
そして食堂に着くと、そこにはすでに王妃や姫が座っており、その近くにはエミュの姿もあった。
そして王が席に着くと夕食が始まった。
その夕食での会話は、やはり彼奴の事だった。
その内容は、魔物討伐でどの様に死んだのかというものであり、王達は騎士団が帰って来るのを今か今かと待っていた。
その時だった、いきなり食堂の扉が勢い良く開けられ、そこから息を切らした一人の兵が入ってき、その兵は「恐れ多くも! 至急王に伝えねばなりません案件のため! このご無礼お許し下さい!」と言うと、王はその兵を許し気がないかの様に怒りを込めた声で「なんだ、申してみよ」といた。
兵は呼吸を整え言葉に出そうとしたが、それを遮る者がいた。
「いやぁ〜、別にそんなに急がなくてもいいのに、俺が食堂に行けばいいだけなんだから」
と本来なら聞こえるはずの無い声が耳に入り、体がこう着してしまった。
それは王達も同じらしく王妃や姫に至っては、その声を聞いただけで、昼食の時と同じ症状を発症していた。
その間も、その声の主はゆっくりとした足音を立て、この食堂に近づいて来ていた。
そして、ついにその声の主は開けっ放しになっていた扉からその姿を見せた。
そこには、全身を赤黒く染め、生臭い異臭を放つ、日丿輪 総司の姿があった。
俺は咄嗟に王の前に立とうとしたが体が動かなかった、それが彼奴の異質な何かのせいなのか、それとも奴が右手に持っている者のせいかは分からなかったが、だが一人また一人と奴が手に持つ者に気づいていき、一人はその場で嘔吐し、また一人はその場で、尻餅を付きズボンや床のカーペットを濡らしていた。
奴はそんな異質な光景には、さも興味がない様に口を開いた。
「ただいま、日丿輪 総司、魔物討伐の任を終え、戻りました。
それで、これから王にこれについて、お話したい事があります」
と言うと、奴はおもむろに右手に持っている者を机に置いた。
その時の奴の顔は心のそこから笑っている様な、一種の悪魔の様に見えてしまった。
次話は、主人公視点に戻して、33話の続きを書きたいと思います。
でも今回の話で、若干ネタバレもありますが、許して下さい。




