第30話 朝食の席で
俺が食堂に足を踏み入れると、そこには見ない顔があった。
「やあソウジ、昨日ぶりだね」
そいつは、真っ先に俺に挨拶をして来たので、こちらも挨拶を返した。
「どうも、でっ、誰あんた?
てか、いきなり名前呼びで、呼び捨てとか失礼なんだけど」
そお返すと、相手の顔が氷付き、隣で肩を貸してくれているフィリスが、あたふたし出した。
「なんてことを言ってるんですか彼は王国騎士団団長のスパルス・ドラグニスさんですよ昨日のお会いしましたよね⁉︎」
おお〜、早口で噛まず、息継ぎ無しで喋ったフィリスに感心してしまった。
でもそんなことを言われても全く思い出せない。
「えぇと、スパルスさんだっけ? どうやら俺と貴方は昨日会ってるみたいなんだけど、ごめん! 全く覚えて無いんだ!」
スパルスの顔がどんどん引きつった物になっていった。
「はは、ひどいなぁ、ちょっと落ち込んでしまうよ、でもほら、私の顔をよく見れば何か思い出すかもしれませんよ」
私の顔を見ればとか、ナルシかよっと思いながらも、言われた通り顔を見る事にした。
金髪に、顔はなかなか整った、まぁイケメンか。
金髪に、イケメン、ここまで辿り付いてやっと思い出した。
「思い出した! 昨日のいけ好かねえ、金髪クソイケメン野郎か! あっ、やば」
ついつい、思っていた事をそのまま言ってしまった。
そのせいかわからないが、周りで炊事をしているメイドさん達に睨まれた。
隣のフィリスはグリシアの時とは違う感じで怯えていた。
スパルスの顔を伺うように見て見ると、そこには驚き半分、怒り半分のような顔をしていた。
「いけ好かないクソイケメン野郎か、これはさすがに傷つくなぁ、まっ、まぁ、イケメンと言ってもらえて嬉しいよ。
それに、僕はソウジもなかなかのイケメンだと思うよ」
まるで嫌味を言われた気分だ。
俺はこの長い人生の中で、一度もイケメンだの言われた事もないし、告白された事もない。
まぁ、そのどちらも仕方がない事なんだけどね。
「またまたぁ〜、ご冗談を、俺がイケメンなんてありませんよぉ〜」
「いや、自分の良さと言うのは自分自身では分からないものさ。
だから、君自身気づいていないだけさ」
なんか、上から目線でイラッとくる。
そこで、こちらも嫌味ぽく言い返そうとした時。
「ねぇ、その話まだ続くの?
いい加減こちも朝食を食べたいんですけど。
後、スパルスもさっさと本題を話しなさいよ」
その声は、だんだん皮を被るのをやめ出した、アリシアのものだった。
そして、それを聞いたスパルスは、アリシアに頭を下げ、こちらによって来て。
「姫さもああ言っている事だし本題を話すとしよう。
今回の魔物討伐の件なのだか、本来なら私と他数名の騎士団が同行するはずだったのだが、すまない、昨日から上手く戦えなくなってしまったんだ。
そのため、今回の魔物討伐に私は同行する事が出来ない。
だがそのぶん、同行者を増やすつもりなので、ソウジに危険が迫る事はないことだけはわかって欲しい」
戦えなくなったて、スキルを奪うだけで、剣も振れなくなるものかねぇ〜。
そんな事を思いながらも、スパルスに簡単に返事を返すと、スパルスは満足そうに、頷き、もお一度謝ると、足早にこの場を後にしようとしたが、そこに一枚の紙切れを持ったメイドが近づいていき、そしてその紙切れをスパルスに渡した。
スパルスはそれを見ると、グリシアの方を向き、一礼してから、今度こそ食堂を後にした。
俺は、スパルスが食堂を後にするのを見てからいつもの席に着き。
「今の紙はなんだったんですか?」
先ほどの紙が気になったので訪ねてみると。
「先ほどの紙には、ソウジ様が使われる得物の要望を書いた紙ですよ。
なので食後はまず、武器庫に向かってもらえますか?」
俺は、素直に了承した。
俺の了承を確認して、グリシアは食事前の挨拶を取った。
そこでやっと気づいたが、今日の朝も、エルスにギブルそれにエミュまでいなかった。
だがそれは、分かりきっている事だった。
フェルトに教えてもらったことの中には、ステータスの〈運〉についても説明してもらっていた。
それは、ドロップ以外にも、自分に害を与えようとする者がいた場合、その者より自分の運の数値差が大きければ避ける事も出来るらしい。
なので、スキルを奪おうとする俺は前者になり、エルス達に会うことが出来ない事になる。
だから俺は、気にする事なく食事を続け、そして何事も無く食事を済ませた俺は、一つ頼み事を思い出し、グリシアに話かけようとしたが、一歩早く、別の声がかかった。
「グリシア様、恐れ多くも、お願いがあります」
その声の主はフィリスだった。
グリシアは「何かしらと」とフィリスの次の言葉を待った。
フィリスは震えていたが、なんとか言葉を続けた。
「今回行われる魔物討伐にソウジ様を連れて行くのをどうか考え直していただきたいのです。
グリシア様も知っての通り、ソウジ様は昨日のお怪我のせいで、今もまともに立つ事さえできない状態なんです。
なので、どうかお願いします」
何言ってんの⁉︎ この子は⁉︎
そんな事を言ったらきっと。
この後の事は大体想像できた。
俺はグリシアの方を向いた。
「それだけかしら?」
案の定、グリシアはかなりご立腹のようだ。
フィリスはいつも通り震えていた。
そんなフィリスの事などどうでもいいように、グリシアは言葉を続けた。
「今の発言、貴方は誰に言ったのか分かっているのかしら?
貴方の今の発言は、王の決定を、いえ、この国の決定を批判するものよ。
その意味分かりますよね?」
フィリスはついに恐怖のせいで、両目から沢山の涙を流していた。
そんなに怖いなら言わなければいいのに、などと考えていたが、俺の身を案じて言ってくれた事なので、当然フィリスを護ろうと口を開いたが。
「申し訳ありませんがソウジ様は口出ししないでもらえますか、これは我々の問題です」
と、ピシャリと言われ、ちょっとイラッと来た。
俺の身を案じてくれただけなのに、なんでそんなに、問い詰められないといけねんだよ、そんだけ俺には死んで欲しいてか? などと考えれば考えるほどイライラして来た。
「そこの者達! この者を、国家反逆罪で牢に入れよ!」
そお言われ、入り口に立っていた兵二人はフィリスに向かって歩き出し、フィリスは立っている事さえ出来ないのか、地面に座り混んでしまった。
そして、そのグリシアの発言が、俺の怒りの導火線に火をつけた。
「黙れ」
だがその声は小さく誰にも聞こえる事はなく、兵達はフィリスの両腕を掴み、無理やり立たせようとしていた。
その間も、グリシアの問い詰めわ続いていた。
フィリスは抵抗する気力もないのか、誰にも聞こえない小さな声で、何かを言う事しかできていなかった。
だが俺だけはハッキリと聞こえた。
「助けて」
と。
それだけで十分だった。
俺はもお一度同じ言葉言葉を口にした。
「黙れ」
自分でも驚くほど、低くドスの効いた声だった。
それは、決して大きな声では無かった、だがこの食堂にいた者達は皆、何かに縛られているかのごとく、身動き一つ出来なかった。
そして俺は、フィリスを取り押さえていた兵達に向かってさっきと同じ声で。
「その手を離せ」
たったそれだけで、兵達は何かに怯えたように、フィリスから手を離し、その場に尻餅をついていた。
それを見てから、深い深呼吸を一回して、グリシアを見た。
すると、グリシアは怯えたように震えだした。
そんな事は気にせず、次の言葉を発した。
「フィリスは俺の身を案じてくれたんですから、そんなに怒んないでくださいよぉ〜、そんなに怒ると小皺が増えますよ」
「へっ?」
いつもの口調に驚いたのか、グリシアには珍しい、間抜けな声だった。
「だから、フィリスを許してあげてください」
「わっ、分かりました」
グリシアの返事をいただいたので、俺は机を手すりがわりにして立つと、フィリスを読んだ。
フィリスの足取りは、さっきの恐怖が残っているのか、俺と同じでフラフラだったが、俺の前まで来ると、何も言わずとも肩を貸してくれた。
俺は感謝の言葉を言うと、フィリスは嬉しそうに頷き、出口の扉に向かおうとしていたが、それを制し、もお一度グリシアの方を向き。
「後、言い忘れたのですが、武器選びが終わったら、資料館に言ってもよろしいでしょうか。
ゴブリンについていろいろと知っておきたいので」
グリシアは言葉を発さず、頷くだけだった。
それを承諾と受け取った俺は続けて。
「それでは、昼食もそちらで取りますので、申し訳ありませんが、運んで来てください。
では、失礼します」
俺は適当に挨拶を終わらせ、食堂を出た。
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