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村人勇者の英雄譚  作者: ワカメ
一章 王国生活
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第二十七話 邪神

「それでは改めて、ソウジにしてもらいたい事を説明させてもらいたいんですけど、その前に見てもらいたいものがありますので、そちらを見てもらってから話したいと思いますので、ついて来てもらえますか?」


 あの後、しばらく雑談を楽しみ、今やっと本題に入り、フェルトの後について歩いていた。

 歩き続けていると、この白く何も無い空間に、黒いシミの様な物が見えて来た。

 それは歩くにつれて大きくなってゆき、次第にシミの正体があらわになって来た。


「んだよ・・・あれ?」


 俺は驚愕していた。

 正体があらわになって来たあの黒いシミは、まるで蛆が幾重にも重なりあった様な、見ているだけで気分を害する、そんなものだった。


「ソウジにはあれが何に見えますか?」


 フェルトは歩みを止めず、そんな質問を投げかけて来た。

 俺も歩みを止めずその質問に答えた。


「何って、まんま祟り神じゃないですか」


 あれ絶対、弓で射抜いたら呪われる奴だ。


「ソウジが言う祟り神がどんなのかは知りませんが、きっとそれも醜いものなのでしょね。

 それに、その名もいいところをついてます」


 フェルトはまた何も言わなくなったが、少し経つとまた口を開いた。


「あまりもったいぶっても仕方ないので、そろそろ、アレについて説明させてもらいますね」


 簡単な返事を返すと、フェルトは淡々と話し出した。


「先ほどソウジは、アレの事を祟り神と表していましたが、アレはそんな物ではありません。

 本来、祟り神は、畏怖され忌避されるものでありますが、手厚く祀りあげることで強力な守護神となると信仰される神々であるんです。

 つまり、祟り神もまた一つの神様の形なのです。

 ですが、アレは、信仰も何も関係無い、ただ己が欲望を満たすために、ただ己が力を手に入れるために、禁忌を犯した神の成れの果て、言うなら〈邪神〉」


「邪神⁉︎」


 俺は復唱してしまった。


「はい、アレが邪神です、名をガレス、邪神・ガレス。

 ガレスは、いきすぎた下界にへの干渉を行い、下界の者達を戦火の中にまきこみました、それを見かねた他の神々は、ガレスの愚行を止めるため、力を封じ、下界に追放しようとしましたが、それを知ったガレスは、怒り狂い、あろうことかその神々を殺し、喰らったのです。

 そして、神々を喰らう事で力を手に入れたガレスは、その力を持ってして、下界にある大陸の半分を枯れた地に変え、そこに新たに魔物や魔族を生み出し、現住人であった人族や獣人達と長きに渡る大陸間戦争を生み出しました。

 そんなガレスに危機感を覚えた神々は、ガレスを討ち倒さんと挑みましたが、神を喰らったガレスに、個の力でどうこお出来る訳もなく、一人また一人と倒され、そして喰われていきました。

 ならば軍ならと、団結した神々は、今度こそと息巻いていましたが、その戦いも、敗北で終結する事になりました、神々はその敗北を受け入れる事が出来ず、敗北の原因を考えました、そして知ってしまったのです。

 ガレスがもう神では無い何かになっている事に。

 本来、神は下界の者達の信仰が己が力になるものです、なので下界の大陸間戦争によって、神々の信仰も薄れていき力が弱まっていきましたが、それはガレスにも言える事だと思っていましたが、それが間違いだったのです。

 ガレスはとうの昔、いえ、最初に神を喰らった時から信仰の力を棄てていたのです。

 なら何から力を得ているのか? と神々は考えました。

 その答えは、いとも容易く分かりました。

 それは、下界の者達の、怒り、憎しみ、恨み、苦しみ、悲しみ、恐怖などと言った負の感情だったのです。

 それを知ってしまった神々はガレスを倒す事は出来ないと理解しました。

 なぜなら、ガレスが生み出しました大陸間戦争こそ、ガレスの力を無限に生み出す泉そのものであり、泉は尽きることなく、広がっていきました。

 ですが、尽きることの無い膨大な力をガレス一人が制御出来る訳もありませんでした。

 そして、ガレスが制御出来ず、体から溢れ出た負の感情は、時間が経つにつれ収束しまるで一つの意思を持った生き物の様になり、自分達の産みの親とも言えるガレスを飲み込もうとしました、当然ガレスも抵抗をしたでしょう、ですが、その抵抗も長くは続きませんでした。

 負の感情はガレスの内側からも襲ってきたのです、簡単に言うなら、暴走でした。

 そして、体を奪われたガレスは、みるみると見た目が変わっていき、その姿は憎悪を具現化した様な醜き姿でした。

 その時からです、ガレスが邪神と呼ばれ始めたのは。

 邪神となったガレスは、欲望のまま力を求め、下界にさらなる災厄を撒き散らし、それにより多くの者達が息絶えて行きました。

 そこまでの被害を出して、やっと神々は一つの決断を出しました。

 それは、自らの命を犠牲にガレスを封印することでした。

 そして、ガレスと神々の最期の戦いが幕を開けました。

 その戦いは、神々にとっては死戦であったがため、誰一人として迷いがありませんでした。

 まず、邪神の動き止めるために、過半数の神を犠牲に、鎖を生み出しました。

 その鎖はガレスの体中に巻きつき、動きを止める事に成功しました。

 そして残った全ての神は、ガレスの力を完全に封じるために杭となり、ガレスを襲い、地面に張り付けにし、ガレスの力が弱まっていくのを感じ、封印が成功したと思いました。

 ですが、ガレスも必死だったのでしょう、最後の最後で、自らの体を下界にばら撒き始めました、体のほとんどをばら撒いた所で、ついにガレスは力尽きましたが、ばら撒かれた体の一部は、下界に着くと同時にその姿をかえました。

 一つは、無限に魔物を生み出す、魔物の巣窟。

 もう一つは、下界の者に寄生する物の、二つに別れました。

 それはきっとガレスがいずれ復活を望んで撒いた、無自覚の種だったのでしょう。

 そしてその狙いは見事に的中し、この神の世界に封じられた、邪神のコアとも言える、心臓がゆっくりと、でも確かに脈打ち始めたのですが、それは自分目で見てもらった方がよろしいですよね」


 フェルトの長い説明を集中して聞いているうちに、気がつけば、フェルトの足は止まっており、その手はあるものを指していた。


「こっ、これが・・・じゃ、邪神なのか?」


「いえ、正確には、邪神の心臓です」


 そこにあったのは、全長二十メートルはありそうな、脈打つ不気味なものと、それを縛りつける鎖、幾多にも突き刺さっている杭があった。


「これを見て、ここまで話せば、私がソウジ、貴方に何をした欲しいか分かりますよね?」


 フェルトが俺に何をして欲しいかなんて、会話の最初の方から分かっており、当然返事も決めてあるが、一つだけさっきの話で気になることがあった。


「ああ分かるよ、その邪神が復活しない様に、その下界に落ちたって言う、体の部位をどうにかして欲しんだろ?」


「はい、その通りです、ですがそれはとても過酷なものになります。

 もしかしたら、死ぬ可能性だってあります。

 なので、それを踏まえた上で、私に協力してもらえますか?」


「俺の返事はもお決まってるよ。

 だが、俺が返事を返すその前に一つ質問に答えてくれ。」


 フェルトが頷き、承諾を得たことを確認し、気になっていた事を訪ねた。


「フェルト、君は何者なんだ?」


 俺が気になっていたのは、先の話での「残った全ての神は、ガレスの力を完全に封じるために杭となり」といていた、ならこの世界に神はもお一人もいないはずだ、なら俺の目の前にいる神を名乗るフェルトがいるのはおかしな話だ。

 この俺の問いを聞いたフェルトは、さも当然のことを聞かれた様な趣だった。


「ソウジが気になっているのは、なぜこの世界に神がいるのかってことですよね?」


 俺は無言で頷いた。


「その答えは簡単な話です。

 ソウジは私が何の神か覚えていますか?」


 俺は少し考え。


「確か、生の神だったよな、でもそれとこれとは関係ないだろ。

 もし、自己再生が出来るとしても、神はその命を、鎖か杭に変えたんだろ? なら自己再生も関係ないはずだろ?」


「はい、ソウジの言う通りですが、神の力は信仰によるものとも言ったはずですよ」


 そんなことを言われてもさっぱりわからないので、両手を上げ、降参と伝えた。


「では答え合わせです。

 あの明日も生きていられるかも分からないところで、人々が一番望む物、それは生きることです。

 先ほどの話で私は、神々は力を失って言ったと言いましたが、訂正します。

 一人だけ力が高まっていた神がいました。

 それが私、生を司る神、フェルト・ラングルスだったのです。

 当然、私も力の全てをかけ、死を覚悟しました。

 ですが、その時、奇跡が起きたのです。

 生きたいと言う、多くの願い、信仰が私に再び受肉を与えてくれたのです。

 そのおかげで、神の力のほとんどは失いましたが、今もこうして、ここにいられるわけです。

 これで、分かりましたか?」


 その話が終わりになるにつれ、フェルトの声にはどこか悲壮感があった。

 それはきっと、今まで共に生きた共を失い、

 たった一人、この何もない空間で、数十年、はたまた数百年もの間一人でいたのだから。


「あぁ、よく分かったよ、フェルトずっと一人で頑張って来たことが、でもこれからは、俺も一緒さ」


 フェルトは驚いたような顔をしながら。


「そっ、それってつまり?」


「返事は決まってるっていたろ、俺に手伝わせてくれフェルト」


 フェルトの顔をには涙が流れていたが、その顔はとても嬉しそうに笑っていた。


「本当に、本当ですか?」


「本当の本当さ、男に二言はないよ、だから泣かないでください」


「えっ、私泣いてますか? おかしいですね、何も悲しくないのに、うれしいっ、はず、なのにっ」


 俺はそれが、嬉し泣だと知っていたが何も言わず、静かにフェルトが泣き止むのをまった。






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