第十一話 初めての憑依
ドアはゆっくりと開いていったが、途中でドアが開くのが止まった。
あれ? せっかく身構えてたのになんで途中で、開くのが止まるんだよ、と思っていると、中途半端に開かれたドアから、アシスとフィリスが顔をのぞかせていた。
「何してるんですか?」
顔をのぞかせて一向に入ってこようとしない二人に訪ねると、二人はお互いに見つめあい、そしてアシスが代表して答えてくれた。
「本当に終わったか分かりませんし、それに実は、他の人に見られて興奮する特殊な性癖をお持ちの方かもしれないので」
ちょっと待ってほしい、さっきと今で、どんだけ変態扱いされてんの。
確かにこっちも焦って変な事を口走ったけど、それでもこの扱いは酷い。
「そんな特殊な性癖はありませんよ⁉︎」
「そお言われましても、アソコを床にぶつけて快感を得ようとする特殊な性癖を持ってましたので。」
「いや、それは・・・」
嘘とはいえ自分の口で言った事なので否定しにくい。
「否定されないですね」
「ぐぬぬぬ」
否定したいのにできない。
「それは否定出来ないけど、これだけは信じてほしい、俺は人に見られて興奮するようなやつじゃない‼︎」
目を見開き、力強く放った言葉が効いたのか、二人はドアを開いてくれた。
「分かりました、そこまで言うなら信じます」
やっと二人が部屋に脚を踏み入れたが、警戒されているのか、一定の距離を保たれている。
だがそれも、コッチにとってみれば好都合だった。
俺はアシスを見つめた。
「そんなに見つめられても困ります、それとも私の顔に何かつ…」
アシスが喋っている途中だったが気にせず、口に出さず、脳内で「憑依発動」と念じた。
すると一瞬にして目の前が暗転した。
目を開けるのが怖かった。
一瞬にして目の前が暗転したんだ、誰だってスキルの失敗を考えて、目を開けるのは怖いはずだ。
俺は目を閉じたまま手足を微かに動かし、手足がある事を確認し安堵したのもつかの間、前から何かが倒れる音と、隣から慌てた声が聞こえ、俺はゆっくりと目を開けた。
そして視界に入ったのは、地べたにうつ伏せに倒れている自分の姿がだった。
それを見て、憑依が成功した事に安堵し、改めて今の体を見た。
そして気がついた、胸部に本来ならないはずの二つの山があった。
俺は二つの山を、自分の手よりも小さく華奢な手で触ろうとしたが、それを、先程から横で騒いでいるフィリスに止められた。
「せっかくいいとこだったのに!」と頭の中で考えながらフィリスの方に気を向けた。
「何を呆けてるんですか、ソウジ様がいきなり倒れたんですよ⁉︎」
「別に気にしなくてよくんっんん、えぇ分かってます、フィリス今すぐ、ソウジ様の安否確認をしてもらえますか?」
最初のはまずかったが、なんとかごまかせたか?
「何変な事を言ってるんですか? 私は回復魔法も使えませんし、そう言った知識もありませんよ⁉︎ だからアシス先輩が行くべきですよね」
やっぱり俺の見たて通り、アシスが先輩でよかったんだな。
これは当たりを引いたな。
「いえ私は、さっきまで汚らわしい物を触っていた者に近づきたくないので」
「それは私もですよ‼︎」
「先輩命令です、いいから速く行きなさい、これも貴女の成長のための特訓なんですからね」
やはり先輩命令には逆らえないのかフィリスは渋々倒れる俺の本体の方に向かって行き、体を揺すったりしていた。
フィリスの目が他に向いている内を狙い、ステータスオープンと念じた。
すると、先ほどと同じく、目の前にウィンドウが現れた。
名前〈アシス(憑依)〉
年齢〈21〉
性別〈女〉
職業〈メイド〉LV12
体力〈2050〉
魔力〈130〉
力〈46〉・俊敏性〈57〉・運〈6〉
〈スキル〉
〈家事〉LV5〈料理〉LV4〈短剣〉LV4〈回復魔法〉LV2〈毒殺術〉LV3
〈記憶閲覧〉
〈強奪スキル選択一覧〉
となっていた。
かなり気になるところがあるが、時間がないので後回しにする事にし、まずはスキルを奪う事にした。
使い方がよくわからなかったが、適当に回復魔法を押してみると、強奪スキル選択一覧の下に回復魔法が追加されたのを目にし、後も同じように押していき、最後の一つを選択し終わると、タイミングを見計らったかのように制限時間になり、再び目の前が暗転した。
鈍い痛みが走った。
今回は直ぐに目を開け、痛みの原因を確かめようと体を起したが、今度は頭部に鈍い痛みが走り「アゥッ」と可愛らしい声が聞こえた。
声の主に目を向けると、おでこを抑えてうずくまるフィリスの姿があった。
そしてこちらに近づく足音に気づき、そちらを見ると、慌てた面立ちのアシスがいた。
「貴女は何をしているのですか? それにソウジ様は、鼻をケガなされてますし」
そお言われ鼻を触って見ると、痛みとかなりの量の血が手についていた。
痛みの原因が分かり一安心すると同時に、憑依の危険性を改めて実感した。
「何しているのかって、アシス先輩が行けって言ったんじゃないですか!」
「何を言ってるんです? 私はそのような事は言ってませんよ」
二人が言い合いを始めそうだったので割って入る事にした。
「その事はどうでもいいんで、誰か、鼻が治せる人を連れてきてもらえませんか?」
それを聞き、我に返ったアシスがこちらを向き「私が治します」と言い手をこちらに向けると何かを言い始めた。
「癒しを求める者に癒しの祝福を、ヒール」
しかし何も起こらなかった。
アシスは事が理解出来ないのか、何度も詠唱を繰り返したが、何回やっても結果は変わらず、何も起こらなかった。
「大丈夫ですかアシス先輩?」
見かねてかわからないがフィリスが心配そうに訪ねていたが、アシスはそれに返事を返さず、狼狽しながら「ありえない」だの「回復魔法が使えない」などと言っているが、全ての元凶である俺は涼しい顔をしながら。
「全く回復してないんで、このまま食堂まで案内してもらえませんか? そこに行けばエミュさんがいるんでしょ? ならそこまで我慢しますよ」
と鼻を押さえながら言い、ゆっくりと立ち上がった。
それを見た、アシスは暗い顔をしながらも、注文通り食堂までの案内を初めてくれた。
歩きながらも、未だに現実を受け止めきれず、何かをつぶやいているアシスと、それをなだめているフィリスの後について行き、無事に目的地の食堂に着くことが出来た。
食堂の前には、扉の双方に槍を携えた兵士が立っていたが、俺を見るや否や、槍を収め、扉を開いてくれた。
俺は、フィリスとアシスの先を行き、全ての真実が待つ、食堂に脚を踏み入れた。
明日も投稿出来ると思います。




