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人生最大の失敗となった神との出会い



彼は睡眠から目が覚めるも辺りは暗闇に覆われていた。


いや少し違う。

彼の前にはすでに消えかけている火のついているロウソク。


さらに目の前には、着ている服は清潔感漂う純白のワンピース、最近は天然すら珍しくなっているブロンドヘアーの女性が額を地面に擦り付けている。日本で言うところの『土下座』である。


「ナニコレ」


彼はその言葉を呟くことしか出来なかった。





何故こうなったのか?それは軽く犯罪スレスレな光景になる数時間前に遡る。



「ちゅかれたーー」

「おかえりおにぃ」

「ただいま愛しき妹よ」

「何馬鹿やってんの?ご飯冷めるよ」


6畳一間と二人で住むには狭く、その玄関の部分で倒れ込んだ男遠村尚人は、妹の「冷めるよ」と言う言葉に反応し、すぐに立ち上がり奥へと向かう。

奥と言ってもすぐ目と鼻の先だが。


そこには普段では有り得ないぐらい豪勢なご飯が広がっていた。


今でも湯気が立ち上がりアツアツなのが分かるご飯。その横には一つの梅干し。


いつもならば塩と水なのだが、あまりの豪勢さに腰が抜ける。


「こ、これはどどうしたんだ?もしかして盗」

「違うよ。お隣さんがご飯をくれて、オカズにってくれたの」

「うう...まさかそんな人がいるなんて」


尚人の妹の遠村雅と尚人は2人とも涙を零しながら抱き合う。


そもそも彼らがこんな過酷な生活をしているのは、蒸発した両親が関係している。


元々二人の両親と尚人と雅の4人で生活していたのだが、五年前に両親が大量の借金を作ってしまい、それを払いきれずに二人を見捨てて両親は逃げた。


到底子供の2人に払える金額ではないので2人も逃げる事を決意。


結果として安いアパートに部屋を借り、兄である尚人がコツコツとバイトをして金を稼ぎ、妹の雅は家の中で勉強しながら日々を生きている。


そんな2人にとっては米自体が懐かしい。食べるのは数年ぶりぐらいだ。


「雅は食べたのか?」

「私は...食べたよ。だからおにぃ食べてよ」


雅は笑顔で米を差し出す。


その笑顔は長年一緒にいた尚人にとっては簡単に分かる...嘘だと。


「雅...お前も食べろよ。ほれ」

「で、でも」

「いいからいいから。二人で食べた方が美味しいだろ」

「うん」


箸で米を数個掴み前に突き出して、それに食いつくように雅は口開けて齧り付く。


久しぶりの米を味わうように何度も何度も噛み続ける。


口全体に米本来の甘さが広がった所で、口の中に溢れている涎と一緒に飲み込む。


米がゆっくりとゆっくりと喉を通り、胃に落ちた瞬間はあまりの美味しさに、さらに欲しいと喉が鳴る。


そんな妹に答えるようにさらに米を差し出す。


我慢我慢と涙を零しながら止めようとするが、止められずにもう1口食べてしまう。



結局尚人は妹に食べさせ続け、口に含むことの出来たのは潰れて茶碗にくっついていた、米粒だけだった。


けど、心は妹の可愛い表情を見れてかなりの大満足だった。


すでに日も暮れ2人は一つの布団に一緒に入っていた。

妹の年齢は8歳。そんな妹に欲情してなるものかと心を鋼にして耐える、いつもの日課だ。


「ふぅ......明日も頑張るか...雅のためにな」


隣で安定した寝息を立てている妹の頬を数回撫でて、自分も明日に備え睡眠に入る。




いつも通り目覚めて一度蹴伸びをして立ち上がると、辺りには一切の光がなく真っ暗闇の中だった。


「あれ?おかしいな......雅もいないし......夢か?ならもう1回寝」

「待ってください!」


突然耳元で大声を上げられ、ビックリしてその場に倒れ込む。


「すすみません」

「別に良いけど...誰?」

「あっ、そうでした。まだ自己紹介してませんでしたね。私の名前はエルム...神をやっている者です」


尚人の前に突然赤い光が現れ、ドドン!と効果音が鳴るかと思うぐらいのドヤ顔をエルムは決めている。


微かな光により鮮明には判断出来ないが、尚人は初めて女性が綺麗だと思った。


基本は「妹こそ至高」「妹こそ女神」「妹なら目に入れても痛くない」といった、重度のシスコンを患っている尚人は、巷で有名な女性を見ても綺麗だと思ったことは無い。


目の前にいる女性はまるで女神のように微笑む。


何か顔が熱くなってくる......まずい何て話せば


女性との会話経験など妹以外ほとんど皆無な尚人が、初めて綺麗だと思った女性に声をかけられる訳もなくその場に固まる。


固まったタイミングで改めて彼女の全体を見た。


彼女の服装は汚れ一つ無い真っ白なワンピースに、髪はアニメのような綺麗な透き通った金髪で、顔も現実ではありえないぐらい整っている。

それこそモナ・リザよりも上だと思える程に。


まさに完璧そう身体は完璧だった。自分の事を女神だと言わなければ。


「遠村尚人さん。貴方は私に認められ異世界に転生することになりました」

「なるほどなるへそ......寝よう」

「ちょっ!寝ないでください!起きて!一大事なの起きて!!」


どんな体制、場所でも寝られる尚人の力を持ってしても、耳元で大声を上げられれば眠る事など出来ない。


渋々起き上がり夢なのだろうと思いながらも、自称女神の話を聞く。


「ごほん。それではお話させていただきます。貴方は」

「あ、めんどくさい話抜きでいいですよ」

「あっはい。それじゃあ異世界行ってお金を稼いできなさい」

「やっぱり説明してください」


全く聞くなら最初から聞いてよね。と言った表情で首を横に降るエルム。


どつきたくなったが所詮は夢だしと思い、話を聞く。


エルムの説明はかなりめんどくさく。

理解出来たのは一つだけだった。



金を作れ。


実に簡単でシンプルだ。


「何で金を稼ぐんですか?」

「それは世界を救う」

「いやホントの事教えてください」

「ですから世か」

「ホントノコトイエ」

「...借金を返済したいからです」


やっぱりそうだった。うん何となく理解出来た。だったこの女神様の目、自分と同じ目をしてた。借金を背負った目だ。


「で、何で借金したんですか?」

「その...ちんちろりんで」

「は?」

「あの時は行けるって思って、絶対相手イカサマしてますよ」

「額は?」

「5000...」


何だ5000万か...家の借金と同じぐらい......夢にしてはリア


「5000京円です」

「.........死ねクズ野郎」

「ちょっ!さっきまでの丁寧さはどこに行ったんですか!」

「は?丁寧さ?そんなの借金が俺より多い時点で、無くなるわ」

「うぅ酷いですよぉ」

「もう俺に関わらないでくれ。それじゃあ」


付き合ってられんと眠りにつこうとするが、大粒の涙を流して胸に飛び込んでくる。


眠れん。


「ああぁ!もう!で何だ?俺に何をさせたい!」

「良かった聞いてくれるんですね」

「あぁ聞くだけだ」

「実はこの借金を返さ」

「おやすみ」

「最後まで聞いてくださいよぉぉ!!」


あまりにもうるさいので渋々聞いてやった。


やはりと言うか何というか、結論借金を背負って異世界に言って金稼げ。


馬鹿にするのもいい加減にしろよ。バカバカしい。


「お願いします。手伝ってください!」

「俺じゃなくても良いだろ」

「ダメなんです貴方じゃなくちゃ!だってチート持たせて異世界行かせても、いつの間にか借金の事なんか忘れてハーレムエンド。ならばと逆にチートなしはすぐに死にました。その次はと何度も何度もやりました。けど結果はどれも惨敗、それで分かったんです何でも中途半端な人がいいと」

「よし死ね。俺は帰る」

「聞いたの貴方じゃないですかぁ!!」


何故だろうか泣かれると渋々従ってしまう自分が怖い。


エルムの話を聞くために何も無い床に座り込む。


「なぁもしかしてだが、この空間に何も無いのは」

「差し押さえされました」

「この消えかけのロウソクなのは」

「電気が止められました」

「お前が馬鹿なのは」

「それは元か...何を言わせるんですか!!」


エルムはぷんぷんとぶりっ子のように、頬を膨らませるそっぽを向く。


けどまぁ夢だしカッコつけもいいかな。


「いいぜやってやるよ」

「ホントですか!」

「あぁもちろんだから、条件として俺の家の借金をチャラにしろ」


無理だろうとも所詮は夢だと切り捨て、夢の中ぐらいと言い放つ。


もし借金が無くなれば雅を学校に行かせてやれる。可愛い綺麗な今風の服を買ってやれる。

まさに天国!ビバ人生!


「分かりました。正しい絶対に借金返済して下さい!そうすれば叶えます」

「ならいいぜ送れよ」

「稼ぎ方はどうします?」

「そうだな...」


魔物を倒すとかはやだ痛いから。

てことはコツコツ働く?無理だろ稼げないし。


巫山戯て言ったこの発言をすぐに後悔する事になる。


「コンビニなんてどうだ?バイトでやってるし丁度いいだろ」

「分かりましたコンビニですね。それと何だか勘違いしてる見たいですけど、ここ夢じゃないですよ」

「え?」

「それではファイトですよ!」


その契約クーリングオフ!!と叫ぶ前に尚人の姿は掻き消え、異世界へと転生することになる。


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