見えない村
歩き始めて3日。
ようやく、噂の村の近くに着いた、思う。
実際着いているのか、分からない。
村が全く見えないのだ。
噂でしか聞いていないため、実際どの様に見つからないのかは知らなかったのだ。
森の周囲を一周してみたものの何かが見えることはなかった。
やはり、森の中へ入るしかないのか
今は昼間で明るいのだが、目の前の森は暗い。
葉が光を遮っているのだろう。
時折、光が少し入っている様だが
しかし、迷っているばかりではダメだ。
そう言い聞かせ、自らの足を森の中へと進ませた。
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しばらくすると、反対側へとたどり着いたようだ。
まっすぐ進んでいるつもりだったので、多分反対側に出たのだろう。
しかし何も見つからなかった。
やはり、噂は噂でしか無いのだろうか。
なら、見てきたと言うものは嘘をついていたのだろうか。
などと考えていると、ふと。
背後に気配を感じた。
人では無い。
この気配は魔獣のものだ。
魔獣は、昔からいる動物が魔力を帯びたもの、らしい。
ただ、魔力とは何なのか、それが分からない私にはただの動物でしか無かった。
いや、違う点が一つある。
魔獣だけは気配を感じ取ることができる。
その気配がこちらへと近付いてくる。
肉眼でも見える距離にまで近付いてきた。
見えたのは、狼のようなものだった。
魔狼。
この国で魔獣と言えば、魔狼。
それほど多く住み着いている魔獣だ。
近頃は、冒険者達に依頼を出し、討伐してもらうことがあり、相当な数が減ったらしい。
基本的には、飛び掛かり相手を噛み殺す。
その様にしか動かないため、討伐などは簡単な方だ。
ただ魔狼。
そう安心して、剣に手を掛けた。
その時、三匹の魔狼が同時に襲いかかる。
鞘から抜き出しつつ、斬りかかる。
確か、居合と言ったか。
椿に教わった剣術の一つだ。
しかし、刀では出来ても剣では上手くいかなかった。
あまりにもスピード不足。
魔狼に斬りつけることが出来ても振り切ることができない。
剣が目の前の魔狼に刺さったままの状態となる。
そうなれば、他の魔狼に噛み殺される。
死ぬ。
そう感じた時、おかしなことが起きた。
目の前の魔狼に刃が届くあと少しのところで剣が持っていられないほど重くなった。
そして、魔狼は噛み付くのではなく、体当たりをしてきた。
「ぐっ…!」
少し飛ばされた。
勢いとその魔狼の重さが、少しだが体を飛ばすほどの威力を生み出していた様だ。
その場で倒れ込んでしまった。
状況としては最悪だ。
剣は一本しか持ってきていない。
今は地面にめり込んでいる。
他の武器は確実に仕留めきれるとは言い難い。
そして、三匹は私の周りにいる。
今立ち上がり一匹は抑えられても、残り二匹に噛み殺されるだろう。
ならば、どうする…?
こう考えてる間にも、魔狼が迫って…来ない。
一匹もそこから動いていない。
どうなっているのか。
わけがわからないと混乱していると
「ようやく見つけたー…かな」
一人の少女が森から現れた。
その少女は、椿によく似ていた。
きっと椿と同郷の人なのだろう。
綺麗な黒髪、少し幼さが残る顔、小柄な部類に入る身体、椿より凹凸はあるもののそう感じた。
「あなたは?」
「私は未羽。その銀色の髪、アリスィア様ー…かな?」
少し不安そうに同意を求めてきている。
「はい。私はキャメロットの王、アリスィア・ペンドラゴンです」
「わーい、合ってたー…いえいっ」
森にしか見えない場所にどう、凄いっ、と言わんばかりにアピールしている。
変な子にしか見えない。
「ところであなたは何処から…」
そう聞くと待ってましたと言わんばかりに、手を掴み、引っ張る。
「あなたが探している場所ー…だよ?」
探している場所、つまりは見えない村。
何処にあったというのか。
この森の中から出てきたのだから見えていたはず。
一体何処に…
「えっ…?」
手を引かれ、森に一歩入った途端、目の前の森は消えた。
森に入った筈なのに、そこには森はなく、小さな小屋や井戸、畑などがあり人も住んでいる。
村がそこにはあった。
「ようこそ、見えない村。アーテル村へ」
いつ現れたのか、目の前には見知らぬ青年が立っていた。
そして、微笑みながら言った。
「君を待っていた」