彼女たちのはじまり
夢を見た。
眠った時に見る夢は、その日見たものを整理するためのものだと聞いたことがある。
しかし、このような風景は見たことがない。
夜に見る星空のようなその場所で、一つの人影を見つける。
髪の長い少女だ。
その人影は徐々に近づいてくる。
「君は誰?」
私は近づいてくる人影に問いかける
ー久しぶりに会ったのに、その反応は悲しいなぁ
髪の色まで見えるほど近づいてきた。
緋色の髪を少女は微笑みながらそう言ってくる。
「…君は誰?」
私は、もう一度聞いてみた。
ーわたしは…もう一人のあなた……なんちゃって
少女は何が楽しいのか、体全部を使って笑っている。
長い髪を振り回し、足に絡まり…あ、コケた。
立ち上がりながら、少女は言った。
ーそろそろ起きないと
唐突に何を言っているのだろうか。
私には、わからなかった。
ー始まるよ、あなた次第だけど
少女は微笑む。
何が、と聞こうとした時、目の前が真っ暗になった。
そして、目が覚めた。
「あれは…一体…」
果たしてあれは夢なのか?
夢であれば何故こんなに鮮明に覚えているのか?
いや、話をしていた相手の顔が思い出せない。
やはり、夢なのか…。
などと、考えていると、ふいにノックの音が部屋に響いた。
「…誰?」
「起きておられました、アリスィア様。椿です。朝の鍛錬の時間になりましたので起こしに」
「…あー、今日は椿の鍛錬の日でしたね………もう少し寝てからに」
しましょう、という声は出なかった。
強引に扉を蹴り開けられた。
入ってきた椿は決して筋肉モリモリのマッチョウーマンとかではない。
私が知る中で国1番の可憐な少女だ。
見た目は小柄で、凹凸は…あまりなく、筋肉一目でわかるほどはなく、無駄な贅肉もあまりないため、もっと食べたほうがいいのではと言いたくなるほど細い体つきで、黒色の綺麗な髪のポニーテールをいつもしている。
国内では、確かヤマトナデシコだとか、意味は聞いたことがないので知らないけれど。
そんな彼女は今、鬼の形相をしている。
そして、私は
椿の目の前で土下座をしていた
何をされるか分かったものではない。
プライドなど等に捨てた。多分。
「一国の王とあろう方が、簡単に頭を下げるべきではありません」
少し困ったように言ってきたので、恐る恐る顔を上げる。
「許してくれるの?」
「元より怒ってなどおりません」
はて、ならあの蹴り開けられたドアは一体…
「怒っているならば、土下座なさる前に顔に蹴りをいれております」
はて、一国の王とは一体何なんだろう。
飾りだったかな?
「蹴り開けたような」
「この時間に起きておられたので驚きのあまり」
果たしてこの人はどのような生活をして来たのだろうか。
ここ最近は、私を叩き起こす生活だった気もする。
そんな話をしていると、一人のメイドが入ってきた
「失礼します、先程噂の調査を終えた兵が戻りました」
「この部屋へ連れて来てくれないかな」
「畏まりました」
そういうと、メイドは部屋から出る。
習慣なんだろう、ドアを閉めようと手を伸ばしている。
今はないのに。
気付いたのか、慌てて手を引っ込めて走っていく。
可愛い
そんなこんなしているうちに、一人の兵が来た。
「報告を」
「はっ」
兵は国内での噂を一つ一つ言っていく。
南の森の周辺で起きていること、入れたのは救いを求めていたもの、冒険者や兵士と言った武装した者は入らなかったこと。
しかし、ほとんどはすでに耳に入っている情報だった。
「最後に、その村で石に刺さった剣が見つかったとのことです」
「石に…?」
石に刺さった剣と言えば、選定の儀の時に使用されたものを思い出す。
しかし、あれはこのキャメロット城内にあるはず。
では、全く別の…もしくは…
「…分かりました、引き続き調査を」
「はっ」
兵が出ていく姿を確認し、着替え始めることにした。
着替えは椿が用意してくれていた。
「ありがとう、椿」
「せめて護衛を一人でも」
一人で行こうとしていることもバレていた。
どうしようか。
「私も椿ほどではないにしろ、戦えるよ。それに、大勢で行っても入れなければ意味がない。食糧だって無限じゃないんだから。私に…任せて?」
とりあえずお願いしてみる。
「……せめて、しっかりと装備を整えてからでしたら」
椿はなんだかんだ甘い人だ。
「うん」
椿と共に装備を整え、こっそりと城を抜け出す。
この街は、城を守る内壁、街を守る外壁の二つの壁に守られている。
母がその様に設計したという。
今はどの様な魔物であろうと、外壁を越えることはないのだが…
椿に見送られ、南へと歩いて行く。
目指すは噂の村だ。