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嘘の魔法使いと嘘の世界  作者: 録音ソラ
一章 はじまる物語
4/7

はじまり

 首都キャメロットを中心に広大な草原が広がる国、アヴァロン。

 他国との繋がりも外交もなく、閉ざされた国ではある噂が広まっていた。


 見えない村。


 現在、キャメロットから南へと進んだ先に木々が鬱蒼と生い茂ってある森がある。その場所は元々、野花や野草が生い茂るだけの何もない単なる草原だった。

 しかし、ある日を境に突如として木々が生え、森が出来ていたのだ。その森は地面に光が当たる場所さえ与えないほどに木々が鬱蒼と生い茂り、何もかもを寄せ付けないような、そんな森だった。


 ある日、その森に近くへ魔物を狩りに行った者が数日の間、戻らないことがあった。その男を知る者は皆、魔物に殺されてしまったのか、と不安に思い、森には入らずに周囲を何日も捜索していた。


 どれほど探したところで骨一つ出てこないため、完全に諦めかけていたある日、その男は何事もなかったかのように皆の前に帰ってきたのだ。


 その者は、魔物に殺されそうになったところを救われ、村へと案内されたという。

 その森の周辺や、その森の中に村があるなどということは誰一人として知らなかった。

 地図にすら載っていない。

 その話を聞いた者が確かめるため、その場所に行ったが何も見つかることはなかった。

 しかし、その後も相次いでその村で救われたという者が現れた。

 しかし、彼等が口にする村への入り口は様々で、探しに行った者は誰一人として見つけることも出来ず入れることはなかった。

 入った者たちは皆、殺されるところを救われた、怪我を治して貰えた、病に効く薬を貰えた、などと何かと助けられた者たちばかりだった。

 だからこそ、何かあるのではないだろうか。

 そう考える者もいた。

 その村は怪しいのではない。

 何か裏があるのではないか。

 そのような噂も立ち始めた。

 良い意味でも、悪い意味でもその村は国中で噂となっていった。


 --


「と言うような状況になっておる。本当にこれで良いのか?このままだと森を焼き払うなんてことになりかねんぞ」


 小太りした男が少年へと「どうする気だ」と目でも訴えながら話しかけている。少年は椅子に腰掛けながら、ただ楽しそうに笑みを浮かべ答える。


「思ったより噂が広まるのが早かったなぁ…最悪な手段を使われないように計画が進めばいいんだが……まぁ、これであいつはどんな手であれ動くだろうから問題ない。厄介ごとが待ってるぜ、村長」


 村長と呼ばれた男は、はぁ、と大きくため息をついた。呆れたような表情で俺の方を見ながらグダグダと文句を言ってくる。


「…助けを求める声が聞こえたから。それだけの理由で所構わず無償で助けていったら余計な尾ひれがついてこうもなる。というより、尾ひれがつかなくても怪しさしか感じられんわ、そんな場所。それに何もないはずの場所に突然森が出来たら嫌でも噂になるだろうに…」


「だが、こうでもしないとなぁ…この村の存在が気付かれないまま、何も進まない。ここまで頑張った俺の苦労はパー。ちょー悲しい」


「お前さんの頑張りは知らん。が、何も進まないのは確かに大問題だ。しかし、ここまで噂が広まれば厄介ごと潰しのためにアレ以外が来る。村なんてすぐに焼かれて死んで計画も何もかもおじゃんだ、おじゃん。大体ここには武装したものなど」


「そのときは、そのときでーなんとか…なる…かも」


 村長の言葉を遮るように誰かが声を上げた。声はどうやら机の下から聞こえてきていた。少年と村長は机の下へと覗きこむとそこには服がはだけ、ほぼ半裸状態の黒髪の少女がダルそうに欠伸をしながら寝そべっていた。


「戦闘なら私にお任せー…かな?」


「お前に戦闘なんて任せたらそれこそ計画おじゃんだ、バカたれ。本当に誰も近寄らなくなるだろうが」


 ダルそうに寝そべる少女の背中には両手で数えられるほどの矢しか入っていない矢筒を背負っている。普段はダラダラとしているこんなのでもこの村一番の弓の名手であり、魔物であればどんなものであろうとも百発百中の一矢一殺である。


「まぁ、何かあったら頼りにはしてるんだがな。頼りにしたときぐらいは動いてくれよ?」


「がってん、でーい……」


 少女はダルそうに声を上げて片腕をあげる。本当に弓の名手かと言いたくなるぐらいにその上げた手はプルプルと震えている。腕あげるのがそんなにきついのか。

 などと考えながら少女の頭を足で、わざわざ手で伸ばしてのやるは面倒だし、撫でてやり、少年は今も呆れている表情の村長に言った。


「これであいつが来なければ、全てが終わりだ。計画も、この生活も、生き残ってしまった意味も。

 兵士だけが来てあいつが来ない、なんてことになっても、村が潰されても、何されても終わりだ。俺たちにできるのはただ待つだけだ」


 少年は窓の外を見る。そこにもただ鬱蒼と木々が生い茂っている。しかし、その視線はその木々の更に先、キャメロットを見据えるように。


「こんなクソみたいな嘘の世界をぶっ潰す為にも、あいつが必要だ。餌はまいた。あとは食らいつくのを待つぞ」


 少年の背後には、一本の石に突き刺さったままの剣があった。刀身に傷一つなく、汚れもなく、作られた当時のままのような状態のその剣はただ静かに部屋に佇んでいる。

 自らを振るうものをただひたすらに待ち続けているかのように。

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