僕のプロローグ
あらゆるものを見て、あらゆるものを知っていくんだ、と父は言った
だから僕は、あらゆるものを見て知った
自分に出来ることを知り、力の使い方も知りなさい、と母は言った
だから僕は、あらゆることに挑戦し、出来ることを知っていった
あらゆることを知れば、何か出来ると
あらゆることが出来れば、いつまでも平和に暮らしていけると
そう信じていた
しかし、現実は非情だった
戦争が起きた。村は焼け、多くの人が死んでいった。その中には父や母もいた
僕は逃げることしか出来なかった。父も母も村の人達も置いて、ただ一人逃げることしか
だけど、それももう無駄だと感じた。目の前の至る所に死体。死体死体死体死体
逃げたところで絶望が待っていただけだった。そう知った。知ってしまった。こんなこと知りたくもなかった
見えてしまうのが悪いんだ。ならー
僕は目を潰した
嫌な感触だった。その感触は嫌に体に染み付いて、痛みが体に染み付いて、暗闇がまた恐怖となって
目に焼き付いた死体の山は見えなくなることがなくて
ただ叫ぶだけしか出来なかった。痛みを無くすため、恐怖を無くすため、焼き付いたものを忘れるため。何のために叫ぶのか、自身ですらわからない。しかし、ただ叫ぶしかないと。言葉になっていなくとも
その叫びは唐突に止められた
熱い何かが口へと上ってくる。止めどなく上ってくるそれを吐き続ける。口の中は鉄の味が充満していた。意識が遠のく。そろそろ死ぬのだろう、と。死の恐怖が再び迫ってくる
その時、目の前に光が見えた。それは人のカタチをした光だった。目がないというのにそれははっきりと見えた
ー君はこんなところで死ぬのか
声もはっきりと聞こえた。死にかけの体だというのに
見ればわかるだろ、と言ってやった。声が出ているのかはわからない
ー折角わたしが見える人が出来たというのに死んでしまうのは困るよ
無邪気な笑みを浮かべてその光は言った。そんなこと言われても死ぬものは死ぬ。そうなることしかわからないのに
ーそれは君の見えた知識が少な過ぎただけ。わたしが君に奇跡を与えよう
何を言っているのか、さっぱりわからなかった
ーまた、君と話をゆっくりとしたいから
何も理解出来ないまま、僕は光に呑まれた
次に目が覚めた時、まず目に入ったのは青い空だった。生い茂る木々、温かな風、先程まで争いがあったとは思えない雰囲気だった。しかし、荒れ果てた村はそのままだった。自分だけが生き残り、守りたいものを全て失った。そんな現実を再び見せられた
僕はアレの欲の為だけに生き返ることになった。だからこそ、アレを憎む。
そんな絶望と憎しみに呑まれた、僕の物語