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「私と駄菓子屋の店主」シリーズ

助けて欲しいが通じた時

作者: 平子 奈都亜

『私は感情が見える駄菓子屋のロリコンイケメン店主が好き』の続きです!

 私と駄菓子屋の店主が付き合い始めてから、早い事にもう1週間が経った。

 結局駄菓子屋は閉店する事なく、今日もたくさんの子どもたちが集まる場所となっている。

 私は学校帰りにお客さんとしてではなく、お手伝いとして駄菓子屋を訪れていた。店主が感情を見過ぎてしんどくならないように、助けられる所は助けたかった。

 今は1人暮らしをしていて、帰りが遅いからと言って咎める人はいないし。



 17時半。訪れていた子どもたちは駄菓子を買うだけ買って、店を出た。

 私はふぅ、と一息ついて伸びをする。漸く誰もいなくなった。店主と2人きりだ。

ついつい嬉しくてニヤニヤしてしまう。私と店主。見る人によっては、新婚夫婦に見えちゃうんじゃないかな。

 普通に考えて絶対にそんな事はないと頭ではわかっている。兄と妹に間違われるならまだしも。それでも私は、店主とこうして、店主とお客さんではない関係でいられる事が、何より幸せだった。



 その時、コトッと音がして私は音が聞こえた方を見る。すると、店主がお茶と茶菓子を小さな机に置いていた。


「疲れたろ。今日もありがとな」

「ううん! こちらこそ、わざわざありがとう!!」


 私がニコッと笑えば、店主は頬を赤らめて目を逸らす。恐らく、私の感情を見て恥ずかしくなったのだろう。今の私は、「幸せ」を大袈裟過ぎるほどに満面に出していた。

 私は茶菓子を食べ、お茶を飲み。店主はボーッとし。

 そんな時間でさえも、私は店主といられるだけで十分だった。

 しかし、1つ気になる事があった。前々から思っていた事なのだが、何故店主はあの時……私が今までの人生で1番苦しかったあの時、助けてくれたのだろう。

 店主はどちらかと言えば、コミュ障に近い。感情が見える事もあり、人が何を思って自分を見ているのか丸わかりであるため、人と仲良くするより避ける方が多かった。実際、開く店を駄菓子屋にしたのも、客層が少ないと勝手に思ったからだと数日前に教えてもらった。

 そんな店主が、あの時全く知らない私の事を助けてくれた理由。

 これを機に聞いてみる事にした。


「ねぇ」

「ん? どうした」

「何で、私の事を助けてくれたの?」

「……」


 店主は、目を見開いて固まる。私は何かいけない事を聞いてしまったのかと焦るが、店主はゆっくりと口を開いて言った。


「……似てたんだよ。お前の感情が、俺の知ってる奴に」

「えっ……」


 話は、私と店主が最初に出会った1年前に遡る。




 1年前。

 学校帰り、私は1人で公園のブランコに座っていた。

 身体のあちこちには傷があって。これらは全て父からつけられたものだった。

 私の父は、数週間前自分が社員として働いていた会社からリストラされたのが原因で酒に溺れていた。父親は自分の事を誰よりも優秀だと思い、他の人を馬鹿にしていて。まさか自分がリストラされるとは一切思っていなかったのだろう。

 何故優秀な自分がリストラされなきゃならない、他にリストラされるに値する人間はいるはずだ。

 そんな傲慢な気持ちから、ムシャクシャしては酒を飲み、酒だけでは飽き足らず私と母に暴力を振るった。

 母は実家に避難しており、もう少ししたら父に離婚を突きつけるらしい。

 それは私としても大賛成だ。私だって、母と一緒に父から逃れたかった。

 しかし、私はつい最近高校に入ったばかり。しかも、この高校に入るために死ぬほど努力したのだ。今となっては授業についていくのに必死だが、それでも入れた事は嬉しかったし、違う高校に行くのは負けた気がする。

 母の実家からは通えば良い話かもしれないが、新幹線を必要とするほどこの町とは距離がある。流石に厳しい。近くでアパートを借りる事も考えたが、母はそれを嫌がった。それほど父から離れたい気持ちが強いという事だ。

 私は、もうどうしたらいいかわからなかった。

 だから、この公園にいる。

 助けて欲しい。その気持ちを声に出せないまま、私は俯いている事しかできなかった。

そしてその時、お腹が鳴った。


「うっ……」


 1度は無視した。こんな気分の時に、何かを食べたいとは思えなかったから。しかし、空気の読めないお腹は、欲望のままに鳴る。お腹に何かを入れろと。

もう無視できなくて、ため息をついてから私は立ち上がり、この近くでコンビニを探そうとした。

 だが、コンビニは見つからない。代わりと言っては何だが、風変わりな駄菓子屋を見つけた。


「いつの間にこんな駄菓子屋できたんだろ……?」


 そう首を傾げながらも、再びお腹が鳴ったため私は駄菓子屋に入った。


「いらっしゃい」


 入るとすぐ駄菓子が目に入り、その奥に店主がいた。物凄くイケメンだ。整った顔立ち、くっきり二重に高い鼻、大人しい色の着物。勿体無いのがクルクル且つボサボサな黒髪と暫く拭いてないのがわかる黒縁眼鏡だろうか。この2つがしっかりしていたら、誰だって好きになるはずだ。

 私が駄菓子に近づくと、店主は私をジッと見てきて目を離さない。ビクビクしながら、私は幼い頃好きだった駄菓子を手に取って店主の前に置く。

店主はハッとして会計を始めた。


「……200円な」

「あ、はい……っ」


 私は財布から100円玉2枚を取り出して店主に渡す。店主はお金を受け取った後、素早い動きで私の腕を掴んだ。


「いっ……!」


 掴まれた所には、先日父が投げてきたビール瓶を避けた時、壁に当たって割れた瓶の破片が飛んで切れた際にできた傷があって。

 私は痛みに顔をしかめる。だいぶ治りかけてはいたから今日からガーゼを取ったが、まだ完全ではない。

 いきなり腕を掴まれたために恐怖を感じた私。しかし、店主の顔は悲しそうで。

 私は、訳がわからなかった。

 すると、店主は口を開く。


「大変だったな……。もう、無理しなくていい。何かあったら、ここに来いよ。茶と菓子くらいなら、いくらでも出してやる。……お前の居場所くらい、ちゃんと用意するから」

「……っ!」


 私の目には自然と涙が溜まっていた。

 店主が、何を思ってそう言ったのかはわからない。しかし、嬉しかった。

 居場所。私の居場所は、あんな父がいる家でもなく、遠くにある母の実家でもなく、死にものぐるいで入った高校でもない。

 この駄菓子屋に、あるのだと知れた事が。


 この出来事をきっかけに私は駄菓子屋に足を運ぶようになり、店主に今までの話を聞いてもらう事も多々あった。

 その間に母は父との離婚に成功し、実家に帰っていった。私はこの町に残り、セキュリティの高いアパートに入れさせてもらった。




 店主はどういう事かを教えてくれる前に、私が飲み終わり食べ終わった湯呑みや皿を片付けるため、奥に行ってしまった。


「もうっ……。誰よ、あんな時の私と感情が似てた人って……!」


 私は口を尖らせながら、店主が戻ってくるのを待った。



 俺は湯呑みや皿を洗いながら、ため息をつく。

 まだ、彼奴に言う時ではない。無闇に言えば、今は落ち着いているが感情豊かな彼奴を泣かせる事になるかもしれない。


「……」


 手を拭きながら、着物の袖をめくる。

 腕には、だいぶ薄くなったがたくさんの傷があった。

 助けて欲しい。あの時の彼奴が抱いていたその感情は、かつて俺も持っていた感情だった。

 感情が見える事は良い事ばかりではない。寧ろ、悪い事ばかりで。

 何もかもが嫌になって、俺は俺自身を傷つけた。

 助けて欲しい、そう思いながら。

 しかし、俺は誰にも助けてもらえず、ここまで来た。でも、彼奴には俺と同じ思いをしてもらいたくなかった。


「……俺も、いつの間にか彼奴の事を好きになってたんだろうな」


 自嘲気味に言って、フッと笑う。

 戻ると、彼奴はムスッとした顔で俺を見てきた。

 そんな顔、お前には似合わねぇよ。笑っててくれ。その笑顔で俺も救われるから。

 俺は悪戯っぽく笑って、彼奴に口付けた。


ここまで読んでくださってありがとうございました!

前作でいただいた感想から続きを書く事ができたので、とても有り難く、嬉かったです!!

本当にありがとうございました!

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