推理:誤解
桜は探偵ではない。
探偵は片丘さん。
それを聞いて納得したような、どこか腑に落ちないような気持ちになった。
「えっと……どういうこと?」
「それは私が動けないからよ」
片丘さんが静かに言った。
「私は妖魔としての力が強すぎるあまり、この地に封印されている……とでもいう感じかしら。私はこの細い路地では力を最大限に引き出せるわ。この空間だってそうよ。けれども、ここから出ることはできないの」
淡々と彼女は言った。その目には自分の現状を憂いているようで、諦めがついているようだった。
「高岡は私の足。私の耳。私の目」
まあ脳みそは私の代わりになんてならないけど、と彼女は鼻をならした。高岡は苦笑いする。
「だから、表向きは俺が探偵で真の探偵は片丘さんなんだ」
「そう……なんですね」
他にも知りたいことはたくさんある。
どうして彼女が縛られているのか。
どうして探偵業などしているのか。
どうして桜が彼女を手伝っているのか。
しかしそれを問うのは今することではない。
「片丘さん。推理してください。俺の意見と、桜の見たこと、聞いたことで」
彼女は笑った。
「ええ」
創られた窓の外で現実の月が光っていた。
冷めてしまった紅茶を温め直した後、彼女は語り始めた。今回のことの推理を。
「高岡の仮定が間違っていたのよ」
「え、淫魔じゃないんですか」
「依頼者の家に何かがいるのは確か。けれども、妖魔が憑いているのは彼氏の横田ではない。疑い深くなった依頼者本人、井藤よ」
「え、井藤さんが……?」
「そう。それなら彼女が夜勤でいない間に妖魔の気配が薄くなったことも納得いくわ」
「あ、そっか。横田さんにはその妖魔は憑いてないから関係ないですもんね」
「つまり、この事件の原因は……」
「サプライズやらをしようとした彼氏を疑ってしまった彼女に憑いた妖魔よ」
さてと、と片丘さんは言いどこからか瓶を持ってきた。中には透明な液体……おそらく水が入っている。
「今から確かめに行ってきなさい」
「……え?」
再び彼女は妖しく笑った。
「仮定を証明しなくてどうするの?」