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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が気持ちを自覚した日
60/60

結末:汚手

 緑色の非常口ライトの光と、薄くもまばゆい映画の光が2人を照らす。

 上映が始まってから15分。客はこの2人しかいない。なんて陳腐で寂しい劇場なのだろう、と考えながら席へ向かった。


「――よく来てくれたね。君が来てくれて嬉しいよ」

 そう柔らかく微笑んだ久那敷を見て、興味なさそうな表情を浮かべる。

「ふうん。皆口を揃えてイケメンだの顔が整っているだの言っていたけれど、大したことないじゃない」



 久那敷は目を見開いた。そして隣に座ったのを確認すると、困ったように笑った。

「何かしら、そんな顔をして。不愉快だわ」

「――いえ、来てくれるとは思っていたんですよ……本当に」

 本当かしら、と思ったがやめた。散々口車に乗せられたのだ。今更真偽なんて考えるだけ無駄だ。


「――僕を選んでくれたということでいいんですよね?」

 その問いかけに、反射的に顔をしかめた。告白をした時みたいな響きの甘さに、おえっとなったのだ。


「私は、千賀坂さんを巻き込みたくないの。彼女はあちらの人――桐野朔や長田愛結と同じ側。人間なのよ」

 そう返すと久那敷は目を細めた。確かにこうして見ると狐顔のように見える。

「だから、不本意だけど僕と組むと?」

「ええ、そうよ。千賀坂さんのほうがあなたより貢献度が高かったから切り捨てても良いのだけれど、民俗学の知識もまあまあ役だったからね」

 千賀坂さんを巻き込みたくない気持ちは本心だ。彼女は眩しい。あまりに眩しくて、あまりに脆い。



「――それにしても驚いたよ。僕に正体を見せるなんて」

 その言葉に思わず鼻を鳴らしてしまう。

「あなた程度の血なら祓えないとわかっているからよ。私を祓えるのはおそらく高岡桜だけでしょう――彼の家は、彼は特別だから」

「僕の本当の仕事わかってて言ってるんだ。まったく、敵わないなあ」

 馬鹿にしないで、と言う代わりに舌打ちをした。見当はついている。どうせバックにいるのはあの家だ。遠山家だけのはずなんてなかったのだ。


 それを悟られないように、不敵な笑みを、冷えた笑みを、高圧的な笑みを浮かべる。

「あなたのその態度、気に食わないけれど信用してあげる。私の足にも、耳にも、目にも及ばないけれど――いくら汚してもいい手にはなれるでしょう?」

「はは、あなたは酷い人だ」

 苦笑しながら久那敷は席を立った。



「――それにしても、なんだか変な趣味に目覚めてしまいそうです。僕、Mっ気なんてなかったのに。責任取ってくれません?」

「気持ち悪いこと言わないで。――この子に何かしたら即契約解除よ。そのあと焼き殺してあげる」

「ははっ、そんな力ないことくらい知っていますよ」

 そう笑って、久那敷は劇場を出た。――最後に桐野朔の姿を目に焼き付けて。

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