御祓:災害
「……そしてこの推理が正しければ」
片丘さんは苦々しく言葉を紡いだ。
「彼女は今、スキー場のその地点にいるわ」
高速を使ったバス移動で約半日、途中休憩なしだとしても今から出たら朝になってしまう。それに、長田さんが消えてから半日経つことに。
「まだ生きてはいると思うけれど、連れ戻すなら早いほうがいいわ。何が起こるか分からない」
「そう言われても……」
「とりあえず、照虎さんに伝えてきます。何か伝があるかもしれない」
考え始めた俺と対照的に桜はすぐに外へ向かった。こういう時すぐ行動に移せる桜が羨ましい。
「……新月くん。高岡が持っている御祓の水は2つなのよね?」
「はい。そのはずです」
「……災害型の祓い方はまだ不明瞭なの。足りるといいけれど」
無理をして捻出してくれた御祓の水。チャンスは2回あるけど、2回「も」あると思ってはいけない。
「それに、暗闇の中崖の下に行く方法も考えなければね……どうしたものかしら」
妖魔の推理は終わっても、まだ何も終わっていない。現在進行形で、進んでいるのだ。
「今すぐ長野に向かうのは厳しい」
合流した照虎さんはそう言った。
「交通手段がないのもそうだが、二次災害が起こりかねない状況で君たちを連れて行けない。朝に着くよう車を走らせることは可能だが、崖を降りる方法がない以上巻き込めない」
「そんな……」
一番悔しいのは照虎さんのはずなのに、彼はずっと冷静だった。
「……それに、妖魔好みの女性がいない。過去の例を見るに、選ばれる女性は未成年だ。三船さんは適していないし巻き込めない。俺たち男だけでは妖魔を観測できない」
桜が静かに告げる。これは久那敷さんとも一致した意見だ。久那敷さんは妖魔の気配を感知できたが、厳密には長田さんの憑かれている状態を見たからだ。いわゆる経験則だ。俺たちだけでは、感知することはできないだろう。
悔しいが手詰まりだ。一刻も早く、助けに行かなきゃいけないのに……何も。
携帯が鳴った。かけてきたのは――千賀坂だった。
「もしもし。さっきはすまなかったな。調合が一区切りついたのでかけ直したが平気か?」
「平気……だけど」
呆れた声が携帯越しに届く。
「平気そうではないが。先程の質問と関係があるのか?」
「……」
声が漏れていたらしく、桜と目があった。桜が頷く。
「実は……」
素直に事情を話すと、千賀坂は「なんだ」と言った。それから本当に何でもないかのように言う。
「うちのジェットを貸そう。崖下にも降りられるハイテク機能付きだ。今から手配するから、指定する場所まで直ちに向かってくれ」
「…………はい?」