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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が気持ちを自覚した日
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調査:痕跡

 長田さんの部屋を見せてもらった。

 少し甘い女の子の香り。整った勉強机。携帯と参考書が置いてある以外は何もなく消しカスすらない。床も本などで散らかっておらず俺の部屋とは正反対だ。

 そして――むせ返るほどの妖魔の気配。

「こんなに強いの、初めてだ」

 桜がそう呟いた。

「下呂さん、よく耐えられてますね」

「薬を飲ませたからな。あいつにあまり無理をさせたくないから後で三船に送ってもらおうと考えている。あいつは下呂係、下呂が体調を崩したら世話する係だからな。もちろん二人とも、普段は優秀なうちの探偵だ」

 そう軽口のように照虎さんは言うが、顔色が悪い。不安を押し込めて無理をしている表情だ。


「――妖魔の痕跡はありますが、長田さんを連れ去るのは難しいと思います。なので、洗脳型か何かが長田さんを自主的に家出させるように仕向けたと考えるのが現段階では自然です」

 桜がそう言うとすぐに照虎さんは携帯を取り出した。

「なら、歩いて行けそうな道から妖魔の気配を探そう。下呂を使うしかないか……仕方がない」

「あの、俺がやりますよ」

 急いで提案するが首を横に振られる。

「君たちには修学旅行中の妹の様子について聞きたい」


 修学旅行中の長田さんは、顔色が悪い時が多かった。クラスが違うから会う機会はほとんどなかったが、2日目と4日目の様子を見る限り本調子ではなさそうだった。


 2日目。初めてのスキーに緊張しながらも楽しみにしていた。スキー場で他の子と逸れて不安になっていた時も、いつものように笑って頑張ろうとしていた。

 4日目。朝の寺社回りは顔色が悪かった。本人はお腹が空いているからかな、と言っていたけれど無理をしているようだった。テーマパークでは顔色が普通だったが――。


「――なので、大丈夫です」

「――に? ――はちゃんと――」

「いえ、本当に――から。――なんて、――」



「――久那敷さんと話していた」

 そうだ。話していた。

「久那敷さんと連絡をとろう」

 今は一つでも多く情報が欲しい。



「一度新月くんをこちらに戻して。久那敷の人間用の電話番号なら最初の時点で受け取っているから新月くんの電話からかけてもらうわ。高岡はそのままそちらで中継しつつ妖魔の気配が途切れた場所を探して。下呂さんたちと交代よ」


 片丘さんの指示を受け、俺は路地先の屋敷に戻った。片丘さんの表情は険しかった。

「新月くんたちとその少女が同じクラスなら良かったのにね。バスも別だったのでしょう?」

「はい……俺がもっと気をつけていれば、こんなことには」


 ――パチン。


 片丘さんに頬を叩かれた。

「うじうじ言わない。全てを零さないで済む人間はいないの。今できることをやりなさい」

「――はい!」

 ――そうだ。今できることをしなければ。

 立ち止まっててはいけない。



「ああ、あの同級生の女の子?」

 久那敷さんはすぐに電話に出た。そして、当然のように言う。

「顔色が優れていなかったから気になってさ――と言ったつもりだったけど、うまく伝わってなかったのかな?」

「――っ」

 とぼける気か。

 長田さんが顔色を心配されただけで、あんなに困惑した顔をするはずがない。

「ところで、僕に電話をくれたということは――手を組むということでよろしいのですか?」

 だめだ、ペースに乗せられる――。


「『まだ組むとは言ってないわ。情報提供に協力しないのなら、もうそんな機会は訪れないでしょうけど』――と、うちの、ボスが」

 急に読めと紙を突きつけられ、通訳することになって冷や冷やした。正直、片丘さんの凄みを出せた気がしない。

 それでも、片丘さんの言葉を受け取った久那敷さんは諦めたように笑い声をあげた。

「はいはい、分かりましたよ――僕はただ指摘しただけです」

「……何を、ですか」

「決まっているじゃないか」


「『とんでもないものに憑かれてるみたいだけど大丈夫?』って。そしたら心当たりがある顔をしていたけれど――本当にあの子は、ただの人間なの?」




 急いで桜を通して照虎さんに連絡をとる。

 長田さんはそもそも妖魔を見ることができる人なのか――しかし帰ってきた返事は当然のものだった。

「俺が高岡君に妖魔絡みの依頼を渡していることすら教えていない。妖魔の存在なんて何も知らない、一般人だ」 



 妖魔を知らない。

 けれども妖魔に憑かれてその気配を家まで色濃く残したまま消えた。

 それも妖魔に突然さらわれたのではなく、自分の意思で出ていったようになっている。



 長田さんに憑いた妖魔は、いったい――?

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