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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が気持ちを自覚した日
51/60

依頼:命懸

「これって――」

「愛結の字だ。間違いない」

 長田さんの筆跡は俺も何度か見た事がある。ほんの少しガタガタだけど、これは本人の字だ。

 本当に長田さんが――『探さないでください』と書いたんだ。

「――二人とも。私にも話が聞こえるよう電話を繋いだ状態にして暖かい場所へ行って。見えていない人間は私の屋敷に入れないから。彼をお願いするわ」

 片丘さんが静かに指示を出す。俺たちは頷いてそっと照虎さんの背中を押して路地から出た。



 車に乗せられて着いたのは長田家。駐車スペースは2台分あるが、既に1台置かれていた。

「ああ、そういや下呂が戻したから応援で三船みふねを呼んでたんだ。とりあえず、中に入って話そう」

 三船さん? 長田探偵社の人だろうか。

 それよりも下呂さんが戻したということは――妖魔を探知したからということだ。


 玄関を上がりリビングに通される。そこにはベリーショートの美しい女性と苦しそうな顔でソファに横たわっている下呂さんがいた。

「はじめまして桐野さん。私は三船衣理(えり)と申します。長田探偵社に勤めているものです」

「は、はじめまして。桐野朔です。片丘さんと桜のお手伝いをしています」

 簡単に自己紹介を済ませる。俺たちの挨拶が終わったのを確認すると、照虎さんはソファに腰掛けた。

「高岡君たちも、下呂は気にせずとりあえず座ってくれ。整理しながら話すが、まだ頭が落ち着いていない。長い話になると思うが聞いてくれ」

 照虎さんは少し前に起きた、長田さんが消えた経緯を説明し始めた。





 修学旅行が終わり解散となったあと、愛結を迎えに高校近くのコンビニで待ち合わせしていた。愛結は少し予定より遅くなったが、友達と話していたのと言っていた。

 それからはどこにも寄らず家に帰り、愛結は荷物を置きに部屋へ行った。

 その時ちょうど下呂から連絡があった。今受け持っている調査について報告したいことがあると言った。現場と家は車で5分ほどのところで、下呂は車を持っていないから俺が迎えに行って話を聞くことにした。ついでに飯を食っていけと誘った。

「下呂を迎えに10分ほど出かけてくる。夕飯までちょっと待っててくれるか?」

 とドア越しに聞くと、

「分かった。お腹空いてないから大丈夫だよ。気をつけていってらっしゃい」

 と返事が返ってきた。着替え中かもしれないからドアは開けなかった。

 防犯のため玄関の鍵を閉め、それからすぐに下呂を迎えに行き、車内で話を聞いた。

 家の駐車場に近づいた途端、下呂が吐き気を催した。急いで紙袋を渡し、車を停め、鍵を開けて俺は家に上がった。

 愛結の靴はあったが、人の気配が感じられない。

 部屋をノックしても返事がない。ドアノブをひねると鍵はかかっておらず簡単に開いた。家中の窓は閉まっていたが、そもそも鍵を持っているので密室ではない。玄関から出て自分で鍵をかけることができる。

 勉強机の上には携帯と紙が置かれていた。

 愛結の筆跡で『探さないでください』と書かれた紙が。





「下呂が妖魔の気配を探知したから、単純な誘拐もとい家出ではないはずだ。だから――君たちに協力してほしい」


 相談者:長田鉄虎/30歳/探偵・長田探偵社社長


 捜索対象:長田愛結/17歳/高校生


 依頼内容:妹を捜し出すのを手伝ってほしい。



「たとえ、俺の命に代えても」

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