依頼:名前
相談者:井藤七菜香/26歳/看護師
調査対象:横田伍/27歳/会社員
相談者とは交際してもうすぐ2年目。現在同棲中。
依頼内容:最近彼氏の様子がおかしい。
私の仕事上夜勤が多いためあまり会えない日があるのですが、明けの日に帰ってきた時に彼の服から知らない香水の匂いがすることがある。それと、そのことを指摘すると話をそらされます。
浮気では……と疑ってしまい、このままでは彼氏に申し訳ないので白黒はっきりしたい。
「……ということなんだよ桐野君」
……普通な気がする。いや、詳しくないから普通かどうかわからないけど。これのどこが簡単にいかないんだ?
「こういうのって、いっそ浮気してて証拠取れたほうが楽なの?」
「いやいやいや、人様の不幸を願っちゃダメだよ」
あ、それもそうか。
「えーっと、普通の仕事はちゃんとした業者がするんだけど、妖魔絡みの依頼を俺に流してもらっているんだ」
「え、妖魔?」
「そう。依頼者の家を訪ねた時に気配を感じた。けれど、説明した通り妖魔の詳しいことはあまり解明されていない。そこで俺はこう考えた」
ここまで言うと高岡は辺りを見渡し、耳元でごにょごにょと言った。顔が真っ赤だがなんと言ったのか全く聞こえなかった。首をかしげるとさっきよりは大きな声で言ってくれた。
「ーー淫魔じゃないかな、って」
淫魔……悪魔でいうサキュバスとかみたいなことだろうか。そう伝えると「大きな声で言うなよ!」と怒られたがさっきまで妖魔とか一般人に聞こえたらやばいワードを言ってたやつに言われたくない。ちなみにここは満員ほどはいかないが人の多い電車の中である。
「……それで、その妖魔が横田さんに憑いているのなら浮気すると思うじゃんか。でも何にもないんだよ」
今日の張り込みの様子を聞くと、通勤も昼に食べに行った飯屋でも何もないらしい。
夜になると何かするかもしれない、そして今日は相談者は夜勤。つまり彼氏さんは今日何かする確率が高い。
なので、そろそろ仕事の時間が終わるから俺たちは会社に向かっているところだ。
「よし、張り切っていこー桐野君」
高岡は明るく言った。
しかし何かがモヤっとする。その正体に気付いた時は単純なことだなあと思った。
「君付けじゃなくていいよ」
「えっと……じゃあ桐野? それとも朔?」
「お好きな方で」
「じゃあ……朔で。俺のことも桜って呼んでいいよ」
「おう、桜」
しかし……張り込みを開始したものの特に何もない。というか、残業なのか知らないけどまだ会社から出てきてない。
「まだ7時半だけど、朔は何時まで大丈夫?」
「うち親遅くても何も言ってこないから平気。でも補導される時間までには終わりたい」
まだそんなに寒い時期ではないから外にいることは苦痛ではないが、やっぱり警察にやっかいになることは避けたい。残業といっても、日付が変わるまでには終わる……のか? ブラック企業でないことを祈るしかない。
でもそんな思いは杞憂で、数十分後に横田さんは出てきた。隣には……男の人が。女の人ではない。いや、浮気相手が女性とは限らないんだけど。
「よし、行こう」




