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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が自分の程度を知った日
49/60

結末:反省

 淹れてもらった紅茶は酷く甘かった。妖魔用の砂糖を使ったのか? と思って聞いたら普通の人間用の砂糖を大量に入れたと返ってきた。言われてみたらジャリジャリした喉越しだ。

「まあ、高岡よりも新月くんのほうが重く反省していたことに驚いてしまったから面と向かっての叱責はやめておくわ。電話越しに散々言ったものね」

「桜はもう帰ってきたんですか?」

「ええ、5分ほど前に。ひとしきり反省点を述べるとすぐに切り替えてくれるから楽なものよ」

 俺が買ってきたコンビニスイーツ・高めのプリンを食べながら片丘さんは言う。

「唯一叱責することと言えば……お土産はないのかしら」

「え、そのプリンはカウントされていないんですか」

「当たり前よ。修学旅行土産のスイーツが満点。次点が新月くんが作るスイーツよ」

「……次来た時に持ってきます」

「よろしい」



「それじゃあ、お勉強会といきましょうか」

 片丘さんが薄い紙切れを手に持った。少し見覚えがある。まさか、それが――。

「それ、テーマパークで見ました」

「何ですって?」

 間違いない。俺の顔にへばりついた紙だ。そういえば思い返せば、テーマパークのあちこちに紙が落ちていた気がする。ショーに使われた紙吹雪に紛れ込ませていたんだ。それに、ドリンクカップには紙が巻かれていた。

「なるほど、きっと、妖魔の気配を消す効果があった式神の抜け殻をあちこちで見たのでしょうね。先に教えておけば良かったわ」

 片丘さんはため息をつく。悔しい。


「そうよ。これが式神、の抜け殻。陰陽師などが使うものとはまた別のもの。まあ、私が捻出している御祓の水みたいなものね」

「そういえば、御祓の水って結局何なんですか?」

 まさか体液じゃ……と思っていたのがバレたらしく睨まれた。

「この紙も、御祓の水も。妖魔の持つ妖力の結晶体といったものかしら。私が捻出しているものはワクチンのようなものよ」

 どうやら強い妖力の塊である御祓の水を祓い屋が効能を絞って(何の妖魔か推理して)使うことで効果が現れるらしい。


「久那敷の本家――遠山家の総本山は四国にあるから、おそらく化ける効果の強い式神を量産できるのでしょう」

「? どうして化ける効果のものを?」

「四国といえば狸でしょう。狸の妖怪と混じった妖魔の例はいくつかあるわ」

 狸――狸か。顔は狐系なのに狸か。そう思うと少しおかしかった。

「――でも、妖魔の気配をなくす式神も電波妨害を行う式神も高位のものよ。後ろにとんでもない権力者がいそうね」

 片丘さんは忌々しげに呟いた声は、紅茶の湯気とともに消えた。


「それにしても、せっかくの修学旅行なのにごめんなさいね。中部地方なんてなかなか行くこともないでしょうに」

 ――そういえば修学旅行前日の見送りの時、楽しんでくるように言われたっけ。

「いえ、大丈夫ですよ。スキーは不自由なく楽しめましたし、4日目と5日目の午前は寺社回りできましたし」

 テーマパークを遊んで回れなかったのは少し残念だけど。

「それに祖父母の家が近くの県にあるので、また行こうと思えば行けるといいますか……だから気にしないでください」

 そう言うと片丘さんの片眉がわずかに上がった。

「……意外と高岡家と近かったりしてね」

「まさか。高岡って家ご近所にありませんでしたよ」

「新月くん。あなたは、たかが一つの町内だけで近さを判断しているの?」

 呆れたように片丘さんが笑う。言われてみたら確かにそうだけど……苦笑でも片丘さんの笑った顔が久しぶりに見れてよかった。


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