調査:彼方
添付されていた峰村さんの写真の予備と目撃情報があった場所に印を入れた園内マップを頂き、久那敷さんと別れた。
〈中立〉エリアのゲートをくぐり、〈トレンド〉エリアに行く。この時間峰村さんは休憩昼食らしいので、〈トレンド〉エリアで出ると予想した。
「それにしても、祓い屋案件ってことは妖魔絡みの依頼ってことだよな? ただのスパイとかではなく」
「目撃された時間と場所が、本来間に合うはずない情況だかららしいよ。休憩に入った時間の数秒後に離れた場所に現れたとか」
「なるほど……」
峰村さんが瞬間移動出来るなら、なんて仮定はしない。つまりこの場合だと――。
「ドッペルゲンガーがいると周囲に思わせる洗脳型か」
「憑依型によって明らかにヒトには出来ないことも出来るようになってるか」
それぞれ可能性を口に出したがまだ予想。お互いうーんとうなるだけだ。ちなみに前者が俺で後者が桜である……俺、昨日の件を引きずりすぎでは?
「とりあえずお昼ご飯は〈トレンド〉エリアで目撃された店で食べよう。もう少しの辛抱だ」
ぐー、となった腹を押さえて桜は明るく言った。
「いた……」
〈トレンド〉エリアのドリンク売り場(タピオカとかイクラみたいな食感の何かとか、よく分からないがとにかく片丘さんが飲んでたら似合わなさそうなものが売られている)に峰村さんはいた。移動販売式のようで、スタッフは彼ひとりだ。
「いらっしゃいませー」
「すみません、この胡麻ミルクタピオカ?とピーチティータピオカ?ください」
桜が峰村さんに注文する。少し離れたベンチから観察するもやりとりに違和感はない。それは直接話した桜も同じようだった。
「張り込みって普通だと牛乳とアンパンなのに、テーマパークだとタピオカとチュロスだね」
待っている間に少し冷めたチュロスをかじりながら桜は苦笑いした。
「……それで、話してみた感じなんだけどとても普通だった」
「普通って……受け答えがか?」
「ううん、それもだけど……普通すぎるというか」
「?」
桜の返答はとても曖昧だった。曰く、近づいたら分かるよとのことだったので空になったドリンクカップを捨てに行くついでに覗くことにした。ちなみにこのドリンクカップ、和紙のような手触りの紙が巻かれている。〈にんにん〉エリアのほうが似合いそうなデザインだなとぼんやり思った。
「……普通すぎる」
ほんの少しは妖魔の気配を感じられるようになったが、本当に何も感じなかった。
「それに、憑依型とするなら対象者は心身のどちらかが弱っていないといけない。そんな様子も感じられなかった――まあ、上手く隠している人なのかもしれないけれど」
現実問題、近くの人の悩みに気づけないことは多い。元から峰村さんがそういう人だった場合、全くの他人では気づけないだろう。
そういえば、憑依型のことをよく知らない。
「確か憑依型って、直接触れて祓わなきゃいけないんだろ? あと他に特徴ってあるのか?」
「そうだね、いくつかあるけど――取り憑いた妖魔の力を、対象の生物が使えるようになることかな。何かを果たすために、意識を対象の生物に明け渡して力を使わせているから、そうとうの執念深さが感じられるよ」
執念深さ。桜がそう評したことを俺は忘れられなかった。
「でも、この峰村さんが本人という考えもできるし依頼者の茂田さんに洗脳型が憑いているかもしれない――だから、峰村さんが〈にんにん〉エリアのシフトに入っている時間が鍵だ」
次のシフト時間は30分後。いつも10分前にはスタッフルームに着いているそうだ。
「二手に分かれて確認しよう」
目の前の峰村さんがどう動くのか、同時に別の場所に存在するのか――目視で見分けるしかない。