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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が自分の程度を知った日
43/60

依頼:競争

「祓い屋……?」

「はい。まだまだ新人ですが」

 久那敷さんの言葉を反芻した桜の顔は険しかった。反対に久那敷さんはにこやかだ。

「それで、久那敷さんは、何故我々と接触したいのですか?」

 桜が質問する。

 祓う側と祓われる側だ。片丘さんを祓う可能性もある。いったい何のメリットが――?

「……慈善事業みたいなものですよ」

「は?」

「他の祓い屋から守ることができます。僕はあなた方を守りたいんですよ」

 善意の塊のような笑顔で久那敷さんは言った。完璧な笑顔で、好青年ということが伝わってくる。けれども、なぜかもやもやする。

「久那敷さんのメリットは? 見返りに俺たちは何をしたらいいんですか?」

「いえ、何も求めませんよ。強いて言うなら――強力な相手の時に、探偵の見解から助言が欲しいですね。それくらいです」

「……分かりました。伝えておきます」

 ――桜の顔はまだ険しい。


「……とはいえ、信用しにくいでしょうし。ここはひとつ競争をしませんか?」

「え?」

「実は僕、依頼があってこのテーマパークに来ていたんですよ。3日ほど調査を続けていますが妖魔の目星がつかなくて。修学旅行中とはわかっていますが、お手伝いいただけるとありがたいです」


 ここで俺は何となく察した。久那敷さんも、俺たちのことを信用していない。

 信用できるかどうか、実力があるのかどうか、見極める試験のようなものだろう――競争という言葉には引っかかるが。


「分かりました。短い時間ですが」

「ありがとう。依頼書のコピーを渡すね……っと、あれ? もしかしてコインロッカーに置いてきたのかな?」

 久那敷さんはしばらくカバンを漁っていたが書類は見つからなかったようだ。

「ごめんね段取りが悪くて。取ってくるからちょっと待ってて」

 そうして久那敷さんは走って行ってしまった。


「……なあ桜」

 桜に耳打ちして聞く。あまり知ろうとしてこなかったとはいえ、専門的なことになると本当に分からない。

「……御祓って、桜にしかできないんじゃ?」

 確か「人間の血が入った俺にしかできない」って――。

「――基本はね。混血で、めいがなければ許されない。でも、陰陽師やエクソシストがいるように、純粋な人間でも力さえあれば、やろうと思えば、できると思う」

「なる……ほど?」

 それに、と桜は続けた。

「偽名かもしれないし分家かもしれないけど――久那敷なんて祓い屋は聞いたことがない。だから一般人だと思う」

 桜はようやくいつもの表情に戻った。それでも、緊張の糸は張り詰めたままのようだ。




 戻ってきた久那敷が渡してくれた書類を見る。どうやら企業調査――簡単に言うと、スパイ調査のようだ。



 相談者:茂田源造/47歳/〈にんにん〉エリア責任者


 調査対象:峰村魁斗/24歳/〈にんにん〉エリア食事処スタッフ


 依頼内容:半年前に雇ったスタッフの峰村魁斗ですが、最近「〈トレンド〉エリアの飲食店でスタッフとして働いている姿を見かけた」という噂がありました。同じテーマパークとは言えスタッフの掛け持ちは基本的に許可を降していません。もしかしたら〈トレンド〉エリアのスパイかも知れない――と思うと、彼を真っ直ぐに評価できません。調査をお願いします。


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