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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が気づかないふりをした日
40/60

結末:叛惚

「すまない、みっともないところを見せてしまった」

 泣き止んだ千賀坂さんは俺たちの後をついて雪道を滑走する。いや、スキーできないと言ってたけどそれより便利な乗り物あるじゃん、は禁句だ。

「それでだが、君たちを信用してもいいと判断した。取り乱した私を信用してくれるか分からないが、ぜひ検討してくれると嬉しい」

「はい――ところで、結局千賀坂さんは妖魔について何の研究をしているんですか?」

 桜が素朴な疑問を口にする。ああ、そういえば言っていなかったな、と千賀坂さんは呟き、得意げに語り始めた。

「私は妖魔の存在証明に関する薬品を作ろうと日々励んでいるんだ。私の義兄が視える(、、、)体質でな、昔から妖魔らしきものの話を聞かされていたんだ。しかし私には見えない。義兄に通じて妖魔とコンタクトを取ることに成功した時には感動したよ。私に見えない世界が、生体が、そこにいると分かったんだ! そこの研究がだな――」

 後半何を言っているか分からなかったが、確かに聞こえた。

 視える(、、、)体質の人がいるということが。


 桜の祖父がきっとそうだったのだろう。だから桜の祖母と結婚できたんだ。

 きっと俺もその視える体質なのだろう――片丘さんと出会うまで気づいたことなんてなかったけど! きっとそうに違いない!


「おい、聞いているのか?」

 千賀坂さんが怒ったように言う。あまり怖くなくて、思わず苦笑いしてしまった。

「むかつくな君は……! 最初の時も思ったが無礼ではないか!? 何故笑う!?」

「わ、わるい、千賀坂……ふふっ」

「おい今呼び捨てにしたな!? 同い年だし気にしてはいないが、仕事の話をしている時は礼儀を尽くせ!」

 千賀坂さんが現役高校生をしながら科学者をしていて、実際に成果を出していて、偉い人なのはわかるけど。

 やっぱり身長のせいか高めの声のせいなのか、よく見れば豊かに変わる表情のせいか。

 威厳のありそうな口調は全て逆効果で、ぽんこつ感が出ているなと思うと微笑ましい笑いが止まらなかった。

 結局ぽこぽこ叩かれながら、俺たちは雪山を下った。



「じゃあ達者でな。もうひとり、検討する相手がいるのだろう? 返事は君たちが修学旅行から帰ってから、またアポイメントを取らせていただく」

 そう言って千賀坂さん、もとい千賀坂はホテルへ帰って行った。

 そうだ。俺たちは片丘さんに大切な話がある人間2組と話し、どちらかとだけ手を取り合わなければいけない。片丘さんと接触する人間は少ないほうがいいからだ。

 千賀坂がもたらすメリットは、片丘さんの存在証明を上げるのではなく下げる薬を開発し、外敵から危険を減らせるようになることだろう。


 もうひとりの人間はどんな人だろうか。

 何も分からないけれど、今日は残りの時間をスキーと、友人たちと過ごすことに専念しよう。

 修学旅行3日目は、始まったばかりだ。

サブタイトルの「叛惚」は漢字を当て字に変換するサイトにて無理やり変換したもので、「ポンコツ」と読みます。

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