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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が片丘さんと桜に会った日
4/60

導入:砂糖

 何か買っていくか、と思い財布を開けたが小遣い日まであと一週間もあることを思い出しため息をつく。そういえば昨日の紅茶は美味しかったし、安くても紅茶とあうようなクッキーでも持っていくか。片丘さんが紅茶を淹れる時、やけにピリピリしていたのを思い出す。抽出時間や温度を気にしてたみたいだから、紅茶には真剣なのだろうか。

 コンビニスイーツとして有名なクッキーを買い、昨日の道を思い出しながら自宅とは反対側の方向へ足を進めた。


「……おかしいな」

 確かにこの辺りを通ることは少ないが、違和感を感じる。やけに視線を感じる……というわけではないが、自分自身がなんでもない方向を知らぬ間にじっと見ていることに気づいた。

「うーん……何かいる気もするんだけどな」

 そう思いながらも歩いていると、昨日の狭い路地にたどり着いた。

「すみませーん、片丘さんいますかー?」

 大声を出してしまったがよくよく考えるとここが片丘さんの家じゃないのに玄関前で呼ぶ感じになってしまった。周りに人の気配は感じないから恥ずかしくないけどやっぱりどこか恥ずかしい。

「片丘さーん」

 5回ほど呼んだところで路地の先から足音が聞こえた。人影も見え、どんどん近づいてきたその人はーー。

「どうして懲りずにまた来たの。人間の新月くん」

 俺の名前は朔ですけど、と言いたいがさすがに言える空気ではない。明らかに苛立っている。

「た、高岡君に届けものと……昨日のお礼にお菓子買ってきました。それだけです。渡したら帰るのでーー」

 そう伝えながらクッキーの入った袋を見せると、片丘さんの目が一瞬輝いて見えた。甘いもの好きなのかな。昨日の紅茶も砂糖多めだったし。

 しかしその目の輝きも一瞬で、彼女は目を細めた。

「毒味」

「はい?」

「得体の知れないものを受け取るとでも? 確かに人間界のものは口にするけれど信頼している製造者からのものしか私は食べないの。それが本当に安全なものならあなたが毒味して証明されてから頂くわ。妖魔もその他の生物も、毒物に関しては同じ反応だからね。あなたが死ななくて私が死ぬという毒は存在しないの、いいかしら」

「めんどくさいなこの人……」

 とは言うものの手招きして奥まで案内してくれる。

 案内されたところはこの前の空間とは違い大きな屋敷だった。まあ妖魔って言ってるんだし時空の調節とかは簡単にできるんだろうけれど……こんな屋敷に住んでいるなんてお嬢様なのだろうか。

 紅茶を淹れるからその包装紙を開けてなさい、と片丘さんは言いお湯を沸かし始めた。

 クッキーを開け用意された皿の上に置く。そして片丘さんの目の前でそれを口に含んだ。

 うん、さすが有名なコンビニスイーツ。美味しいなぁ。

 チラリと片丘さんを見るとやはり目に輝きがある。食べたいんだなこの人。

「これで証明できたでしょう。 片丘さんと高岡君のためのクッキーですからどうか貰ってください」

「……ええ、疑って悪かったわね」

 そうぶっきらぼうに言いつつもクッキーを口に入れた途端幸せそうな表情になる。よくわからない人だけど、やっぱり普通の女の子に見えるな。

 淹れてもらった紅茶を頂くと、やはり甘かった。甘すぎる。

「片丘さんは甘い紅茶がお好きなんですね。砂糖どのくらい入れているんですか?」

 失礼かと思ったけど気になったので聞いてみた。

 片丘さんの表情が一転する。

「小さじ1杯も入れてないのだけれど」

「え、でもそれ以上に甘いですよ」

「……まさか」

 彼女は先ほど入れた砂糖の袋を確認した。そしてうめき声をあげる。そして高岡に対しての罵声が。

「あんのクズ……。何で置き場所を変えているのよ。これ、私たちの世界の砂糖じゃない! もしかして昨日のも……」

「あの……その、異界のものを口にしたらどうなるんでしょうか」

 これかなりヤバイのでは。そう思ったが片丘さんは苦々しく首を横に振った。

「……人間に振る舞ったことないからわからないわ。けれど、高岡の祖父が人間なのだけど……一度誤って食べて以来もう口にしようとしなかったわ。何かあるのかもしれないわね」

 そしてまた高岡への愚痴が始まる。これは帰ってきたら高岡死ぬんじゃ。


 とは言え用は済んだしそろそろ帰ろう。そう思って立ち上がった時バタンとドアが閉まる音がした。

「師匠ー。張り込み行ってきたんですけどおかしいんですよー」

 やっぱり浮気調査か。そう思ったが少しおかしいことに気がつく。

「何も無かったらシロ……なんじゃ」

 それがそう簡単にいかないのよ、と片丘さんがため息をつく。

 しかしすぐに、ひらめいた、と言うようにあっと声を漏らした。そして俺の方を向いて妖し気な笑みを浮かべる。その笑みを見た瞬間背筋が凍った気がしたがもう遅い。

「……ちょうどいいわ新月くん。この馬鹿弟子と一緒に張り込みに行ってくれないかしら」


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