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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が気づかないふりをした日
36/60

調査:幽霊

「マジかよ……」


 宮倉さんが千賀坂さんに電話したポイント。そこにはたどり着けなかった――いや、たどり着けるわけがない。

「何だよこれ……」

 そこは何てことはない、酷く急な崖だった。


「高台から確認できてよかったけど、何も知らず滑走禁止エリアに行っちゃいそうだったね……通りでインストラクターさんが注意してたわけだ」

「でも、GPSはあそこを指してるんだろ? どういうことだ?」

「うーん……もっと近づかないと妖魔の気配もわからないからなあ。下呂さんがいたら良かったけれど」

 2人でうーんと悩む。目視した限り、人どころか動物もいない。妖魔の気配も感じとれない――確かに朝の時点では、嫌な感じがしたんだけれど。もう何も感じない。

「……ひとまず戻って情報と仮定をまとめよう」

 そうして、俺たちは崖に背を向けた。



「今のところ考えられるのは、妖魔が“宮倉さんに憑いている”のではなく“宮倉さんのフリをしている”って場合。変化型……かなって考えられるけど」

「変化型は人間以外にしか化けられない……だろ? じゃあ違うんじゃないか?」

「うん。過去の例には人間に化けた変化型はいない。でも妖魔は、まだ分からないことのほうが多いから新たな変化型かもしれないし……最悪の場合、災害型かもしれない」

 災害型。確か地震や爆弾などに変化し、被害を拡大させたのが過去の事例だと言っていたけれど――。

 でも変化型の亜種だとしても、妖魔は対象をしっかり見ていなければいけない。だとしたら、どこから――。


 思考の波に流され始めた俺を引き止めるように、桜はストックをくるくる回した。

「とにかく、お手上げだよ。一度千賀坂さんの話を聞こう。また何か連絡があったかもしれないし」

 千賀坂さんとは俺たちが自由時間に割り振られている時間で合流するよう約束していた。あと数時間。仕方がないけれど、スキーをしながら待つしかない。



「先程、今までで一番はっきりした電話があった」

 千賀坂さんは開口一番そう言った。唇がほんの少し震えている。

「私と彼女しか知らないことを話していた。私のことをセイと呼ぶのは彼女だけだ」

 電話の主は行方不明の友人、宮倉侑梨本人だと、はっきりと断言した。


「……もしかしたら」

 桜は震えた声で呟いた。

「もしかしたら?」

 俺と千賀坂さんの声が重なった。

 桜の続きの言葉を待つ――。


「幽霊、かもしれない」

「はあ!?」

 千賀坂さんの大きな声が響いた。



「幽霊とはどういうことだ!」

 千賀坂さんが険しい顔で詰め寄る。その気持ちは分かるし、突拍子も無い幽霊発言には驚いた――けれど。

「何年も行方不明で、GPSが指した場所が明らかに人がいないところなら『もう亡くなっている』と考えるのはおかしくありません」

 桜は眉をひそめ、悲しい感情を浮かべないよう努めながらそう言った。

 千賀坂さんは息を飲んだ。きっと本人もどこかで分かっていたのだろう――それでも、千賀坂さんの怒りは収まらない。

「幽霊なんて妖魔以上に存在しない! 私の、私の唯一の友に対してそんな――馬鹿なことを言うな!」

 そう言い放つと肩を怒らせて行ってしまった。


「ごめんね、朔……。表向きの探偵失格だよ」

「……仕方ないだろ、向こうもあんな頑なな態度だし」

 依頼人に対してそう言うことでしかフォローできない俺も、探偵助手失格だ。

 桜は力なく微笑む。

「でも、幽霊と考えるのが一番楽なんだ。変化型は見た目やしぐさはそっくりコピー出来るけれど、記憶までは再現できない。それに、洗脳型や憑依型なら本人、最悪本人の身体がなければ無理なんだ」


 人探しじゃなくて、幽霊探し。果たして解決できるのだろうか。


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