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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が気づかないふりをした日
33/60

導入:科学

 指定された場所へ行く。自販機が1台とベンチがあるだけの休憩所。たしかに他の休憩所のほうが充実しているし人は来ないだろう。

「相手、どんな人なんだろう」

 確か俺たちと同い年で同じホテルに泊まっている人と片丘さんは言っていた。高2……なら相手も修学旅行中なのだろうか。

「……あれ、あの子どうしたんだろう」

 桜の言葉に顔を上げると、中学生くらいの女の子がキョロキョロ辺りを見渡していた。背は片丘さんよりも少し低いくらい。白衣のようなものを羽織っているが着させられているように見えず、不思議と様になっていた。

「……?」

 あ、目があった。女の子はもう一度辺りを見渡し、もう一度俺たちをじっと見て――盛大なため息を吐いた。

「君たちか、『妖魔』の使いというのは」

 女の子はずんずんとこちらに歩みを進めて――ふんぞりかえった。

「私は千賀坂せんがざか。現役女子高校生科学者だ」


 呆気にとられた俺たちを見て千賀坂さんは鼻をふふんと鳴らした。

「そうだそうだ、驚いただろう! まさか天才科学者が『妖魔』についても研究を進めているだなんて――」

 漫画だったら背景に「ドヤァ」が書かれていそうな感じだが、俺たちが思ったことは違う。

「その身長で本当に高校生……?」

「科学者って常に白衣を着ているものなんですか……?」

「し、失礼だな君たちは!」

 威厳のありそうな口調なのに、どうしてかそれは反対の効果を出しているようにしか思えなかった。


 微妙な空気は真面目な桜の声で打ち破られた。

「……それで、千賀坂さんはどうして我々と接触したいのでしょうか?」

 ベンチに座り面談形式で問う。

 千賀坂さんともうひとり別の勢力の人間は、「片丘さんに関わる大切な話があるから」接触したいと聞いていた。果たしてそれは一体――。

「簡単な話だ。私は妖魔を信じていないからだ」

「――は?」


 妖魔を信じていない人が妖魔と接触を取ろうとしている。それはなんだか、矛盾していないか?

 疑わしげな俺たちの視線に気づいてか、千賀坂さんは「違う違う」と言った。

「私は妖魔を信じていないと言ったが、事実『妖魔』とされるものは存在しているのだろう? だったら私は否定するために妖魔を研究しなければならない。そのためにサンプルを取らせて欲しいが、別に人権侵害のようなことはしたくない。その交渉手段として、君たちのボスに話しを伺いたくてだな――」

 千賀坂さんの言葉に偽りは含まれていないように思えた。それでも、本当に研究しているのか? と思ってしまう。

 妖魔は人間には見えない。桜は人間の血が混じってるから仕方ないとしても、憑依型以外では変化型くらいしか普通の人に見えないはずだ。


 ――あれ?

 じゃあ、どうして人間である桜の祖父は、妖魔である桜の祖母と出会えたんだ?

 どうして俺は、最初から片丘さんが――。



「朔? ボーッとしてるけど体調悪いの?」

 桜に声をかけられ現実に意識を引き戻す。

「悪い、ちょっと考え事してた」

「おい君、依頼人の前でその態度は無礼だと思わないのか?」

 千賀坂さんがため息混じりにチクチクと言う。

 ん? 依頼?


「もう一度言うぞ。君たちが私を信用できるかどうか考えているように、私も君たちを信用できるかどうか考えている――だから試すわけではないが、依頼を頼みたい。よろしく頼むぞ、探偵」

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