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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が気づかないふりをした日
31/60

導入:見送

 2月の早朝はとても辛い。バスでの移動だから集合時間はとても早く、乗ったらすぐに寝てしまいそうだ。それでも、修学旅行帰りで寝る人は多くても行きで寝る人は少ないだろう。

 時間になると校長先生と学年主任の広瀬先生から簡単な挨拶があり、1組から順番にバスに乗り込んでいった。

 修学旅行。行き先は長野。4泊5日で、2日目と3日目でスキー、4日目と最終日の午前に観光といった行程である。


 バスが高速道路に入り、周囲の会話が増えた頃俺たちはひそひそとミッションについて確認し合う。

「桜、片丘さんから何か連絡来た?」

「ううん何とも。まあ、片丘さん電子機器苦手そうだし、文字打つの遅いのかもね。あはは」

 弟子が師匠にそんなこと言っていいのか、と思ったが事実片丘さんは電気で動くものに疎い傾向がある。以前、人型妖魔の一族に「妖魔でも使える電化製品」の開発担当があると聞いたが、妖魔は全般的に電子機器が苦手なのだろうか。少なくとも桜は4分の1人間だし、転校してきてすぐにメアド交換したから苦手ではないのだろう。



 バスに揺られながら昨日のことを思い出す。

 桜と一緒に片丘さんに会いに行くと、屋敷ではなくギリギリ行動ができる路地裏の入り口付近まで来て見送ってくれたのだ。

「接触したい人間が2人いることは説明していたわよね。そのうちの1人はあなた達と同い年で、同じホテルに泊まるそうよ」

 そう言いながら片丘さんは携帯電話を取り出した。スマートフォンではなくガラケー。それから小さなメモを取り出して読み上げ出す。

「鳥月嬢から借りたの。接触したい人間がこの電話に……『メエル』? を送ってくれるよう取り付けてくれているわ。それを高岡の電話に『テンソウ』? できるらしいから……。報告は高岡が私にメエルで伝えてくれたら私が推理したものを高岡にメエルして……すぐ送れるかわからないけれど、まあ善処するわ」

 ふふん、と鼻を鳴らし「まあ何とかなるでしょう」と言いたげな表情を浮かべているが間違いない。これはノー勉でテストに挑む奴の顔と同じだ。

 ……色々心配になった。


「……それじゃあ、気をつけて行ってくるのよ」

 片丘さんは桜に御祓用の水を、俺に小さなメモ用紙を渡した。

「高岡。水は予備を含めて3回分しかないから無駄撃ちしないこと。新月くん。その紙には私の電話番号が書かれているわ。高岡の電話に何かあった時、公衆電話からかけてちょうだい」

「はい」

「わかりました」

「よろしい」

 最後に片丘さんは、ほんの少し目尻を下げた。

「お願いしておいてこんなことを言うのはあれだけど――楽しんでくるのよ」



 そんな見送りのことを思い出しながらうとうとしていると、いつの間にか最初のサービスエリアに着いていた。降りてトイレに行き、朝の冷たい風に当たる。

 修学旅行。どうなるのだろうか。

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