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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が片丘さんと桜に会った日
3/60

導入:妖魔

 あっけにとられた俺を見て高岡は苦笑した。

「無理もないよね……。えーと、俺は4分の1人間で、残りの3が妖魔なんだ」

「ヨウマ?」

「妖怪と悪魔の中間よ。昔はいなかったのだけど、この国際社会のせいでアジア系の妖怪とヨーロッパ系の悪魔の混血のような新種が現れてね。そしてそいつらはあまり有名ではなく情報もほとんどないの」

「俺も実は何の妖魔なのかわかってなくて……。でも、妖魔は妖力的な攻撃以外では血は出ないし痛みも感じないって共通点があるんだ。俺は少し人間の血が入ってるからちょっと違和感感じるけどね」

 情報が多すぎて混乱してきた。要するに……。

「……異界の存在なんだな」

「正解。だから混血の高岡はともかく本当ならあなたは私と会ってはいけないの。さっさと帰りなさい」

「あの、こういうのって異界の食べ物とかを口にしたらダメなパターンなのでは」

「おあいにく、その茶葉はこの世界で購入したものよ。高岡は彼を送ってきなさい」

 なんなんだよ、と言いたいが仕方がない。指に刺されてできた傷はもう感じないが、これ以上は何をされるのか分からないのだから。

 わかりました、と言うと片丘さんは少し考えるようなそぶりを見せた。それからジッと俺の顔を見る。

「あなたの名前は?」

「桐野朔です」

「桐野ハジメ……。ファーストネームの漢字は?」

 説明が難しい字なんだけど。

「うえっと……空書きでいいでしょうか」

 相手にわかりやすいように反転しながら指で空書きをする。それを見た彼女はフッと表情を和らげた。

「ふうん。その字でハジメなのね。早くお家に帰りなさい、新月・・くん」

 そう言われると、意識が遠のいた。

 気がつくと俺は自室のベッドの上にいた。


 翌日、高岡は学校に来なかった。いや、登校してすぐだからこれから来るのかも知れないけれど、書類だけが机の上にあり、俺の机には「ごめんだけど、俺の代わりに出しておいて」と書かれた付箋が貼ってあった。だから今日は休みなのだろう。

「探偵……って言ってたけど、浮気調査してるのかな」

 浮気調査って張り込みしたり大変そうだなぁ。同じ学生がそんなことをしているなんて実感が湧かなかった。彼が人間じゃないことはすんなりと理解できたのに。


 さてと、代わりにプリント出しに行きますか。そう思って席を立ち高岡の席まで行った。プリントの隅には「広瀬ひろせまで。8時35分までに」と書かれていた。学年主任だからこういう書類の担当なんだろう。そうぼんやり思いながら教室を出た。


「あの……」

 職員室前で先生を探していると急に声をかけられた。振り返ると、有名人が。

「桐野君、だよね。誰を探しているの?」

 学年で一番可愛い長田ながた愛結あゆ。誰もが見惚れる美少女……とまではいかないが、可愛い顔以上に可愛い言動と真面目で少し天然な性格に人気がある。本人にばれないよう水面下でファンクラブが設立されてるくらいだ。

「えっと……広瀬先生」

 ドキドキしながら言うと彼女は嬉しそうな顔をした。そして手に持っていたプリントで口元まで持って行って俺に見せてくれる。

「広瀬先生ならまだ来てないって言ってた。私も広瀬先生に用があるんだ」

 一緒に待とうよ、と控えめに言われた気がした。時計の針は23分を指している。そうだよな、先生が来るまで一緒にいた方がいいよな先生も一度に書類を持ってきてもらった方が楽だろうし。

 そう思いながらファンクラブの人に暗殺されないか怯えたが、昨日のことを思いだし少し余裕を持った。さすがにあの人みたいに凶器は出さないだろう!


 残念なことにすぐに広瀬先生はやってきた。長田さんは先生にプリントを渡すと俺を見て少し微笑んで、そのまま教室の方へ帰っていった。

 あー。かわいかったなー。そう思いながら先生にプリントを渡す。

「今日高岡君お休みらしいので代わりに持ってきました」

 そう言うと少し怪訝な顔をされる。

「ん? じゃあ桐野は高岡が休んだ理由を知ってるのか?」

 実はあいつ、前の学校でもよく休んでたらしくてな、と先生は続けて言う。探偵業をしている……なんて言っていいのか分からないから、俺も分からないと通した。

 広瀬先生は考え込むように腕を組み、それから俺を見た。

「じゃあ、家は知ってるのか?」

「へ? あーはい」

 家かは知らないけど、片丘さんのところに行けば分かるだろう。

「放課後でいいから、この書類届けてくれないか? 先生が持っていけばいいんだが今日は二時間目から出張でなあ」


 再び命の危機が迫ったようです。

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