結末:八家
「それじゃ、お暇するわね」
鳥月さんの依頼はこれで終了。あとは依頼料を――。
払うのかこの人?
「鳥月嬢?」
「もう、そんな怖い顔しないでよ……。この前のもチャラになるくらいの、とっておきの依頼料を用意してるわ。ということで、ちょっと借りるわね2人とも」
そう言うと鳥月さんは片丘さんを引っ張って奥の部屋へ行った。
残された俺たちは、珈琲とクッキーを食べながら待つことにした。
「そういえば、鳥月さんって人型妖魔財閥の跡取りって言ってたけど、そんなに凄い人なの?」
「もちろんだよ。八家の本家筋のご令嬢なんだから」
「はっけ?」
首をかしげると、そう言えば説明してなかったねと桜は手をポンと叩いた。それからルーズリーフとペンを取り出し日本地図を書き出す――って上手いな日本地図!
「八家は、人型妖魔の大名みたいなものなんだよ。8の大きな一族があるんだけど、今でいう八地方にそれぞれ分かれて、妖魔に関する産業の統制をしてるんだ」
北海道は田代。妖魔にも扱え、かつ妖魔が悪さをしないような電化製品の開発を担当。
東北は天藤。林業系を担当。
関東は鳥月。妖魔が用いる調味料系メーカーの第一人者。
中部は高岡――俺は分家なんだけどね。医療系で、妖魔の実態を探る研究もしている。
近畿は茅萱。他が大名としたら、茅萱家は幕府かな。衣類系メーカーを担当してるけど、全ての妖魔への決定権を持った特別な役割もある。
四国は遠山。鉱石系の産業担当。
中国は塚地。貿易系を担当していて、他の国との妖魔情報の交換・物資の輸入輸出を行なっている。
九州は手嶋。海産系の担当。
「そもそも人型妖魔自体数が少なくて、人型妖魔は全部八家の一族と思ったほうがいいよ。俺みたいな分家だと良いけど、出会ったら失礼な態度を取らないようにね。特に茅萱家!」
「お、おう」
まさか人型妖魔がそんなに凄い存在だとは。珍しいとは聞かされてたけど、まさかまさか。怖すぎる。
……あれ?
「片丘って家、ないんだね」
疑問に思い尋ねると、桜は曖昧な返事をした。
「うーん。俺もよく知らないんだ。婆ちゃんたちと片丘さんは知り合いだし、高岡の分家か他のところの分家かもね。分家も末端だと苗字変えてるところあるし」
しばらくすると鳥月さんが出てきた。片丘さんはと聞くと、疲れたから少し休むと言っていたそうだ。
「さて、今度こそお暇するのだけれど――高岡君、お散歩に付き合ってもらえないかしら?」
「え、なんで俺?」
「まだ明るい時間とは言えクリスマスイブよ? ひとりで歩くのは嫌だからついてきてほしいの」
別に鳥月さんは誰にも見えないんだからいいのでは。そう言いかけたがお互い口をつぐんだ。
「それで桐野君。あなたは片丘についていてあげて。いいわね?」
さっきまでと同じ言い方だけど――鳥月さんの目はとても真面目だった。そしてnoと言わせない雰囲気。素直に「はい」と答えた。