結末:理由
――うん、ありがとう。気持ちすっごい嬉しい。
でもやっぱり、俺が彼女にしたいのは鷲尾さんなんだ。
千秋はそう、真剣な目で答えてくれた。俺たちは「わかった」と言って千秋の背中を押した。
「だったらお前も言ってこい!」
「そう……フラれたのね、私」
はあ、と鳥月さんは小さく溜息を凝らした。
「残念だけれど、三日三晩泣いたらキッパリ諦めるわ。それでこそ乙女よ」
――三日三晩で切り替えられるのか。恋をしたことがないからわからないが、彼女はとても強い人だと思う。
「それで彼は成就したのね」
片丘さんが珈琲を淹れながらそう言った。失恋したばかりの人を前に言っていいのか、と迷ったけど鳥月さんは「気にしないで」と言ってくれた。
千秋に売ったクッキーの中身は、ほとんどが鷲尾さんが作ったものだ。クッキー本体は全員で作るため飾り付けでしか個体差は出ないようにしている。逆に言うと、自分が作ったものばかりをひとつに包むのは容易い。
今回の売り子は長田さんと鷲尾さんだったため、千秋に渡しやすかったのだ。
このことを知っていたから強く押せたというのもあるけど、やっぱり千秋の真剣な言葉が今告白するべきだという決め手になった。
千秋が鷲尾さんに告白すると、彼女は泣いて喜んだ。クリスマスイブに誕生したカップルに、調理部一同からの拍手と野次が飛んだ。
「はーあ。どうにも、私が好きになった人のほとんどが幸せなカップルになるってジンクスが出来上がりつつあるのよねー」
鳥月さんは不思議そうに言う。でもなんとなく、理由がわかる気がする。
「きっと鳥月さんの告白が心に響いたから、自分も頑張ろうって勇気をもらえるんだと思います」
そう伝えると一瞬目を丸くして――ケラケラと面白そうに笑った。
「それだったら嬉しいのだけれど、私ってとんだ当て馬ね!」