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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が名前を知った日
26/60

実行:恋文

 放課後、桜と片丘さんのところへ行くと便箋が山積みになっていた。淡い無地から強い柄物、高そうなものから百均で売ってそうなものと、本当にたくさんある。

「ラブレターにするそうよ」

 片丘さんは少しうんざりしたように、積まれた便箋の山を見る。それのせいでお茶菓子が置けず、紅茶と珈琲だけが机の上に置かれていた。


「肝心の鳥月さんは?」

「散歩に行ったわ。高岡、新月くん。彼が好きそうな便箋を適当に見繕ってあげて」

 そう言われても千秋の趣味なんてわからない。柄が主張しすぎていないやつをとりあえずピックアップする。無地よりはウケがいいと狙って。対して桜は星空のような濃い無地のものを手に取っていた。

「こういうのって、白のインクで書くんだよね?」

「そのほうがいいだろうな。そもそも何で書くんだろう。ボールペンより万年筆?」

 ラブレターはもちろんだが手紙も滅多に描かないためわからない。女性の意見も聞くべきでは――と思ったが、片丘さんは茶封筒みたいなかっちりしたのを選びそうで参考にならなさそうだ。

「これとか良さそうじゃない?」

 うんうん悩んでようやく選ばれたのは、青と白を基調とした花柄の便箋だった。どことなく鳥月さんのイメージカラーのようで、きっとOKしてくれるだろう。



「素晴らしいわ! ありがとう」

 鳥月さんはそう言うと自前の万年筆を風鈴型のカンザシから取り出した。え、その球体の次元どうなってるの?

「内容まで代筆させるなんてさせないわ。ここくらい、しっかり私が書くから安心して」

 鳥月さんはニッコリして言ったが、片丘さんは呆れた顔をする。

「高岡に新月くん、悪いけどあまり電波になりすぎないよう推敲作業はしてあげてね」


 鳥月さんが下書きを書き終えるまでの間、紅茶を飲みながら冬休みの課題を進める。量産した試作クッキーは片丘さんには好評だったが鳥月さんは相変わらず渋い顔だった。

「それにしても、クリスマスクッキーを売るだなんて粋なことをするのね」

「まあ、数少ない活動アピールの場ですし。年に数回しか売らないので、結構貴重なんですって」

 買い占めが起こらないよう、長田さん人気で購入できる数が制限されている。もし制限がなければ大変なことになるだろう。

「朔ー。これってこのまま売るの?」

「ううん、アイシングしたりチョコペンでデコったり、もう少しクリスマス仕様にする予定」

「……予約はできるのかしら?」

 どんだけ気に入ってくれたんだよ。

「……別に。焼きたての美味しいの、持ってきてあげますよ」




「……アイシングクッキーって、冷ましてから飾り付けするのじゃなかったかしら」

 あ。

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