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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が名前を知った日
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報告:予感

 7時になり、完全に校舎の明かりが消えたところで片丘さんのもとへ帰ることにした。体育館はまだ明かりがついているが、おそらく制服に着替えてから帰る生徒は少ないだろう。

「ねえ朔。なんとなくだけど」

「ああ桜。俺もなんとなくだけど」

 顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。

 さて、ここからどうしようか。



「ねえねえ、見つかった?」

 帰った瞬間に鳥月さんが走り寄ってくる。彼女も片丘さんも少し髪が乱れているから、何か戦ったあとなのだろうか。

「たぶん、ですけど……」

 携帯の写真フォルダを漁り、目的の写真を出す。写真は体育祭の時に撮ったクラス写真。文化祭でもよかったが、お化け屋敷メイクで写っているやつよりもすっぴんのほうがいいだろう。

「そう! この人よ!」

 鳥月さんが目を輝かせるのとは反対に、違うと言ってほしかったなあ、と桜が暗い顔で小さく呟いた。

 湯川千秋。そう、絶賛鷲尾さんに片思い中の千秋だ。





 鳥月さんは千秋の顔を見た途端、いろいろと何かが溢れたようで、長々と千秋に対する想いを聞かされた。帰宅したのは補導されるギリギリの時間。


「告白の方法はまた決めるわ。それじゃあバイバーイ」

 結局依頼料は払ってないらしいが、片丘さんは何故か上機嫌で紅茶を淹れていた。珈琲はそんなに好きではないらしい。

 基本的には、キツイ味付けじゃないと食を楽しめない妖魔にとって、珈琲の苦味はちょうどいいらしい。鳥月さんも、ゲロ甘党だけど珈琲はブラックだった。

 でも片丘さんは濃い味付けのものをあまり飲み食いしていない気がする。きっと妖魔にも好みがあるんだろうな。

「……」

 鳥月さんに出したクッキーと、返ってきた反応を思い返す。よし、あれは別次元だと思おう。

 ――それでも自分の中では結構落ち込んでいたようで、気がつくと無心でクッキーを量産していた。あまりの空気の甘さにうんざりするほどに。



「クリスマス用のクッキーをこんなに作って、先輩は熱心ですねえ」

 次の日、昼休みに鷲尾さんが教室に来たのでクッキーをおすそ分けした。味自体はいつも通りなので、砂糖激増しではない、はずだ。記憶が正しければ。

 鷲尾さんも俺と桜と千秋に、昨日のお礼にお菓子を作って来てくれたみたいだ。一気に教室が甘い匂いに包まれた気がする。

「それでその、湯川先輩は何処に」

「確か今の時間は講義棟で補習だったはず。もうちょいで帰ってくると思うよ」

「わかりました。ありがとうございます、桐野先輩」

 鷲尾さんが未だに持っている、千秋に渡す用のお菓子は俺たちが貰ったものより一回り大きい気がした。

「鷲尾さんって、千秋くんのこと」

「そんな気がする」

 鳥月さんが絶対に勝てないトライアングルが誕生した。

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