導入:恋話
もう終業式は間近に迫っている。来年は受験生。ある意味遊べるラストチャンスな年末がもうすぐそこ――だが。
「彼女いねえやつには酷だよなあ」
友人の湯川千秋が隣でぼやく。箒でガサガサと雑に掃くから机にガンガン当たってる。てかおい、それ俺の席。
「お前、いつもそれ言ってるよな」
「だってさあ、クリスマスでしょー、正月でしょー。彼女いるのといないのでかなり変わるじゃん」
「隣のクラスに千秋のこと好きなやついるって聞いたぞ。付き合ってこいよ」
「それは違うんだよー」
千秋とは高校からの付き合いだが、話してて楽な存在。俺は生物部だったが、こいつは化学部に入った。ちなみに化学部も廃部スレスレ。俺の二の舞にならんことを祈る。
「あ、朔。千秋くん。ちりとりやろうか?」
「あーありがとう桜くん」
桜ともすぐ仲良くなった。学校では3人でつるんでることが多い。
「あーあ、彼女ほしー」
「誰でもいいわけでもないくせに軽々しく言うなよ。言い直せ」
「鷲尾さんと付き合いてー」
そう、千秋には想い人がいる。後輩の鷲尾流歌。中学時代の後輩で、それなりに仲が良いらしい。本人は現在調理部に入ってる。長田さんファンクラブの一員ではなかった。助かる。
「調理部の活動、冬休みはないけど終業式にクリスマスクッキーの販売あるぞ。そんとき告れなくとも何か誘えよ」
「んー。ありがと朔。桜くんも一緒に行こうな」
「うん、楽しみにしてる」
高校生らしい冬休みが、始まる――いや、始まってくれ頼むから。
「残念ながら依頼よ」
片丘さんは当然じゃないと言うかのように紅茶をスプーンでかき混ぜる。
ですよねー。わかってたけど肩を落とす。探偵の助手に冬休みはあるのだろうか。
「え、照虎さんからの依頼はきてないですよ?」
手帳を確認していた桜が横から声をあげる。え、どういうことだ。
「私の友人からの依頼よ。高岡も初めてだったかしら」
「ゆ、ゆうじん……?」
俺と桜が嘘だろ、と言う風に声をあげる。直後に手刀が飛んできた。痛い。てことは夢じゃない。
「高岡が私の弟子になったのは1年くらい前だから知らないのも当然よ。準備でこちらに引っ越してくるのに時間がかかったしね」
「そういや、桜って引っ越してくる前から探偵やってたの?」
「そうだよ。片丘さんのいる場所へは全国どこからでも繋がるからね。でも、この辺以外の場所は日によって行けない日もあるから、こっちに来たんだ」
なるほど……なんかすげえな。
「で、その私の古い友人からの依頼なのよ――めんどくさいものだから、せいぜい頑張ってね」
いつものように妖しく笑わず、同情するかのように笑った片丘さんが、すごく怖かった。




