御祓:砂糖
器2つを床に置き、異界の砂糖を流し入れる。それを2匹の猫に前に差し出す。
よく食べたほうが妖魔。簡単なことだ。餌を与えるために魚ではなく、蜂蜜を盗んだ猫が妖魔だということも立証できる。
「すごく簡単なことだったね……」
桜が手につけられた傷を見ながらぼんやりと言う。推理しなくとも、マップを作り捕獲した桜が一番頑張っただろう。
「ほらほら食べな」
脇から猫が解放される。2匹はテトテトと器の元へ行った。そして砂糖を――食べる。
「……2匹とも同じ速度じゃない」
「もしかして、味とか関係なしに、食べさせられ続けて慣れてしまった……?」
見分けはつかなかった。
「うーん、どうします?」
「よくあんな甘いの食べれるな……」
というか、異界のものを猫に食べさせていいのだろうか。チラと片丘さんのほうを見ると通じたのか、首を横に振った。
「ネコなら大丈夫よ。もともと霊感の強い生き物だからね」
そんなことより、と片丘さんは新しい器を取ってきた。もう片方の手には人間界の砂糖を手にして。
「普通の砂糖と食べ比べさせて、異界のほうを多く食べたものが妖魔よ」
――あっ。
「まだまだ詰めが甘いわね、新月くん」
その後無事に見分けがついたが、妖魔猫、恐るべし。普通の砂糖なんか蹴飛ばしてゲロ甘異界砂糖を貪り尽くしたぞ。
「高岡、確保して足にリボン巻いといて」
「了解です」
依頼者の猫の後脚にピンクのリボンが巻かれる。あ、これこの前のプリンのラッピングについてたやつじゃん。
「じゃあ、御祓をしましょうか。高岡、準備を」
「え? 害はないんじゃ……」
おいおい桜。情がうつってる。確かにこいつ可愛いけど……可愛いけど……。
「下呂さんが困るのでしょう。これ以上妖魔の臭いキツくさせたら汚物が増えるわ」
――汚物?
「とっとと祓うわよ。妖魔に情を向けてはいけない――いけないのよ」
そう言った片丘さんの目はどこか悲しげだった。
「……俺が飼います」
気が付いたら手を挙げていた。
「だから祓わないであげてください」
そう言った時、片丘さんの目が一瞬だけ潤んだ気がした。
「じゃあ、新月くんよろしくね。餌は味付けの濃いもので、猫用のものでなくていいから」
「はい」
「餌代で自分の首を絞めないようにね」
「……はい」
こうして、我が家に妖魔がやってきた。




