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月が出たら謎は解ける  作者: 迎 カズ紀
俺が部活を変えた日
17/60

推理:盗猫

 片丘さんと2人、桜の帰りを待つ。淹れてもらった紅茶を飲み干したあと台所となっているところを借りた。

「片丘さん、本当に自由に使っていいんですか?」

「ええ。でも、食器は安めのを使ってほしいわ。一番下の段に入れてあるものを使って」

 食器棚は3段になっていて、上から順にすごく高級そうなもの、普通のもの、そして百均にあるようなものという並びになっていた。そこからあまり底が深くないものを取り出す。これで本当に成功したらいいんだけど……。


 不意に俺の携帯が短く鳴った。片丘さんの近くに置いたあったため少しうるさかったらしく、若干顔をしかめて持ってきた。

「桜からのメールだ。なになに……」

 画像が添付されている。それを開くと……少し離れたところから撮ったであろう猫の写真が。

 例の猫か、と思ったけれどよくよく見たら桜の言いたいことがわかった。下に書かれているテキストを見なくても。

『どうしよう、2匹同じ猫がいる』



 2匹とも連れてきてちょうだい、との片丘さんの伝言を打ちメールを返した。写真から見て、思っていたよりもこの近くにいたみたいだからすぐ帰ってくるだろう。

「新月くん、自信のほどは?」

「片丘さんこそ」

 第一そっちが本業じゃないか。一応俺は助手だ。

「正直、猫探しはどのタイプの妖魔かわかりづらい。憑依型と考えて祓っても効果がないことなんてよくあったのよ。でも、新月くんの頭の中で学校での事件と繋がったとき、違和感を感じたのよね?」

「――まあ」

 目撃証言からして砂糖を身にまとっていたはず。口には甘い蜂蜜が入った瓶を加えて。それがおかしい。

「片丘さん。妖魔の味覚は鈍いのですか」

「どうしてそう思うのかしら」

「異界の砂糖はすごく甘いから」

 身をもって知っている、くどい甘さ。それはもしかしたら、味覚が鈍いからきつい濃さになっているのではないだろうか。

「――そうよ。とても風味が濃いものでない限り、美味しく味わえないわね。妖魔は私の知る限り共通して、食事が必要なの。けれども、味覚がうまく発達していないから人間界のものでは満足できないのよ。ある大手の人型妖魔の財閥があるのだけれど、そこがありえないほど濃い調味料を開発してくれているわ」

 そう言いながら片丘さんは俺の横に立ち、異界の砂糖の袋を持ち上げた。そして妖しげな笑みを浮かべる。

「これが必要なのでしょう?」




「ただいま戻りました!」

 桜の両脇には同じ猫が2匹。手には無数の引っかき傷。

「遅いわよ高岡。もう私たちの推理は出たわ」

 片丘さんが容赦なく言う。もう少し優しくしてあげてもいいのでは……。

  創られた窓の外では現実の月が薄く出ていた。




「まず、猫が2匹いることから憑依型ではなく変化型と考えるのがいいでしょう」

「確かに。じゃあ、その理由は?」

「もう1匹のオリジナルに、惹かれたのよ。蜂蜜をその場で食べず、わざわざ逃げて運んだのが理由。変化型といっても妖魔自体は人型でない限り無性別だけれど、恋は出来るからね」

「依頼者の猫――シラタマが出かけた時に、この妖魔と遭遇してこんな遠いとこまでいたってことになるんですね」

「おそらくそうね」

「じゃあ、すぐ祓えば――」

「……祓う対象を見分けなければいけないでしょうが。高岡、あなたが御祓をするのに必要な水をどれだけ苦労して捻出してると思っているの?」

「ごめんなさい」

「そこで、新月くんの推理の出番よ」


 2人のやりとりを聞いていたら急にバトンパスされてビビる。

「これは俺の専門分野じゃない。部活の後輩の水戸部ってやつからの知識だ。だから詳しく説明はできない」

 そう前置きすると、俺は片丘さんが貸してくれる食器2つを手に持ち、呼吸を整えた。

「猫は甘みを感じないんだ」

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