調査:盗人
次の日の放課後。授業も終わりこれから調査再開……なのだが、今日は、部活が。
桜に遅れて行くと言うと快く返事してくれた。猫探しのような依頼は割とあるようで慣れているそうだ。
「そういや朔は何部に入ったの?」
その一言に心臓が飛び跳ねる。
「ちょ、調理部」
「そーなんだ。あ、調理部の活動場所って職員室と近かったっけ。職員室に用事あるからついていっていい?」
「お、おう」
不純な目的と思われずに良かった。あとから聞いたら調理部は全員女子らしい。
調理部の活動場所である調理室へ向かう。しかし、どこかざわついているような……。
「あ、桐野君。それに、高岡君」
長田さんの声が後ろからした。振り向くととても慌てた顔をしている。
どうしたのと聞くと彼女は調理準備室を指差した。
「泥棒が入ったみたいなの。今日使う予定だった蜂蜜の瓶が消えちゃったの」
話を聞くと部長である長田さんは買い出しで蜂蜜を買った後ここに持ってきて冷蔵庫に保管していたようだ。それは5時のことらしい。
「昨日野球部の子が調理室準備室の窓ガラスを割ったらしくて……。すぐに割った子や先生方が来たみたいなんだけど数分はかかったみたいで。その間に泥棒が入ったのかな……」
取り敢えず現場を詳しく見ないとわからない。桜の方を見ると頷いてくれた。
「探偵、高岡桜が謎を解いてみせましょう! ……とは言えないけどね。中に入らせてもらって色々見てみよう。もしかしたら猫の仕業かもしれない」
猫の仕業、という言葉にどこか引っかかるところがあったが何かはわからなかった。
調理準備室に入らせてもらうと酷い惨状だった。
戸棚の調味料は溢れ、フォークにスプーンは散乱、そして床にこぼされたのは砂糖だろうか。
「慌ててガチャガチャしてたみたいな感じだな」
「だね……。でもヒトだったらもう少し綺麗にやりそうだけど」
「そうだね。にしてもなんで蜂蜜を盗んだんだろ」
「えっとね、その蜂蜜少し高いやつなの。だからかな」
長田さんも一緒に調理準備室に入ってきている。ハタから見ると探偵の真似事にしか見えない俺たちの行動を不審がる様子はなかった。
「てか、桜って長田さんと知り合いだったの?」
「え、ああ。妹さんだから」
「兄がお世話になってます。高岡君、住むとこがないそうで、兄の使ってないマンションに住んでるの」
……え?
「照虎さんの妹さん、なの?」
「え、桐野君も兄のこと知ってたんだ。世間って狭いね」
……目元が誰かに似てると思ったけど、マジか。
あとから聞いたんだが、桜が探偵をしていることは知っているそうだが、俺や片丘さんのやってることは知らないらしい。
……気を取り直して、現場に意識を戻そう。
蜂蜜ごときで、と最初思ったが、話に聞くとすごく高級なものらしい。先生が珍しく奮発して高いものを買うようにお使いを頼んでたようだ。長田さんが保管した時先生も立ち会ったから、長田さんの嘘ではない。
そういえば野球部たちが来た時には荒れていなかったの、と聞くとその時には普通の状態だったらしい。けれども人間にしても猫にしても、準備室から調理室の方へ移って隠れてしまえば気づかれないのだから犯行時刻はあまり関係ないのだろう。
「とりあえず今日は部活中止だね……」
長田さんはとてもショックを受けているようで大きく肩を落とした。それを見て桜は苦笑いを俺に向けた。俺は部活ができなかったショックなのか、事件への違和感か、長田さんの悲しむところを見たくなかったのか。どれなのかはわからないけれど、ただ眉をひそめ床にこぼされた砂糖をじっと見た。
部活動もなくなり、調理室のことは気になるが桜とまた猫探しのため町へ繰り出した。聞き込みをするも最初の30分は何の進展もなかった。最初の、30分は。
「ああ、そんな感じの猫見たよ。昨日、だけど」
とある専業主婦からの情報だった。
「その後ろにはアリが列をなしてたわね。なんか白い猫だけど、わかりやすいほど白い粉か何かにまみれてたけど、なんだったのかしら」