導入:紹介
調理部の顧問の先生に入部届けを出しただけで今日は終わりだった。調理部は週二回活動日があって、今日はなく明日はあるらしい。幸運なことに生物部と活動日がモロかぶりだったから生活スケジュールはあまり変わらない。
片丘さんのとこまで行く途中、猫を数匹見かけた。
猫といえば水戸部、というイメージがある。よく猫の生態のレポートを読み漁っていたから。
……本当にどうして辞めてしまったのだろうか。俺、そんなに人望なかったのかな。将来を見越して、なのかな。
「……もう今となっては関係ないけど」
片丘さんのところに繋がる路地に入る手前、近くで話し声が聞こえた。何かと思いあたりを見渡すと桜が誰かと話していた。
人当たりの良さそうな整った顔の男性。その人の目元が誰かに似ている気がしたが思い出せなかった。
「あ、朔。こちら照虎さん。お世話になってる探偵事務所の人」
どうも、と頭を下げられたのでこちらも会釈し返す。さっきまで気づかなかったが、後ろに照虎さんより若いが成人であろう男性がいた。目が合い向こうから会釈してくれた。ものすごく顔色が悪い。
「……下呂貞純と申します。照虎さんの部下です」
「えっと、桐野朔です。片丘さんの助手……です一応」
そう名乗ると照虎さんは先ほどまで浮かべていた不思議そうな顔を引っ込め、下呂さんは逆に俺を見る目がきつくなった。
「ああ、君が噂の。高岡君から聞いているよ」
「……で、桐野君は妖魔なの、半妖魔なの」
ああ、下呂さんの目つきはそういうことか。
「純人間ですよ」
そう答えると下呂さんは安堵したかのように肩を落とした。
「よかった……。僕、そういうのに敏感なんですけど、ここは片丘さんや高岡君の気配が強いから感知しづらくなるんですよ。君は人間でよかったよ」
「そうそう。こいつ、依頼者の封筒や電子メール見ただけで察知してくれるから仕分けが捗る捗る。なんたって、は――」
「それ以上言ったら訴えますよ照虎さん!」
顔色が悪いのはそのせいか。お大事に、というと軽く微笑み返してくれた。
「じゃあ俺たちはそろそろ行くよ。高岡君、片丘さんによろしく」
照虎さん達を見送り、そういえばなんで二人が来てたのか桜に聞いてみた。
「井藤さんの件について報告しに来てくれたんだ。『浮気を考えていた私は馬鹿でした。彼の動きが怪しかったのは私にサプライズをしようとしてくれてたからでした。香水の匂いは店内の匂いがついてしまっただけのようです。本当に今回はありがとうございました』だってさ」
「じゃあ、仮説は正しかったってことでいいんだよな?」
「そういうこと。あと、新しい依頼も持ってきてくれた」
それは片丘さんの前で話そう、と言い俺たちは路地へ入っていった。