導入:廃部
助手になってから1週間経ったが何の招集もない。桜とも友人としての会話以外することはなく、あの日は幻だったかのようにさえ思えてしまうほどに。
そんななか昼休み、俺には別の事件が起きてしまったわけだが。
「え、廃部って……どういうことですか?」
突然所属している部活、生物部の顧問に呼ばれ告げられた「廃部になった」の言葉。
「そのままの意味だよ」
「え、部員は最低人数の3人揃ってるじゃないですか。なのに何で」
「生物部は君以外の部員は2人とも1年生だろ? 二人とも退部してしまってなあ」
はあ?
「それでうちの学校のルールとして、全員部活に所属しないといけないんだよ。桐野が新しく2人の部員を見つけるという手もあるがはっきり言わせてもらう、不可能だ。だから3日以内に新しい部活を見つけなさい」
文句を言ってやりたかったが完全に思考が停止している。なんで、なんであいつら退部したんだ……?
「あ、そうそう。確か桐野は転校生の高岡君と仲がいいんだろ? 彼もまだ無所属らしいから決めるように言っておいてくれ」
その言葉の意味をしっかり飲み込めたのは先生が完全に見えなくなってからだった。
「あ、桐野君。どうしたの? 顔色悪いよ」
放心状態で廊下を歩いていると、前から歩いてきた女生徒に声をかけられた。誰だ、と思って意識をしっかりさせると、長田愛結が。え、長田さんが?
「あ、その、いろいろあって新しい部活探さなくちゃいけなくて、あはははは」
笑って心のなかの辛い気持ちを隠そうとしたが、長田さんはまだ俺を心配そうに見ていた。そして突然大きめの声を出した。
「き、桐野君!」
「は、はい!」
「調理部はどう、かな?」
「へ?」
ちょうりぶはどうかな?
え、調理部?
「私、調理部に入ってるんだ。一応部長なの。どうかな、3年生になって6月に引退するまでの間調理部に入るのは」
今は12月だ。あと半年ほどの間調理部に入る……か。
「……ありがとう長田さん。真剣に考えてみるよ」
微笑んでそう言うと、長田さんも微笑み返してくれた。
教室に戻ると真っ先に桜の元へ向かった。6時間目の授業の予習をしていたようだが、俺が声をかけるとすぐに振り返ってくれた。
「桜って、まだ部活動無所属なんだろ?3日以内に決めろってさ」
「え、マジかー。探偵業もあるし、ゆるい部活とかってないのかな」
「ないない。たぶん。生物部基準に考えてもそれ以上にゆるい部活はねーと思う」
「あ、生物部って朔が部長してる部活だっけ。そこは?」
無邪気に聞かれても、と思いつつ俺は笑って言った。顔はたぶん引きつってるが。
「あー、廃部になった」